------------
「ところでハリー、もう具合はいいのかい?明日は列車だぜ」
今朝の体調不良、というロンに水を飲んでいたハリーは咽せ、ヴォルもまた顔をそらして咳払いをする。
ン?と首をかしげるロンの声にウィーズリー夫人もあら体調が悪いのかしら?と声を上げた。
「いっいえ、もう大丈夫です。ちょっと寝違えただけで」
「ロニー坊や、蛇の尾っぽを踏むのはやめておこうぜ」
「そうそう。冬眠前の熊を刺激しすぎると後が怖いって」
慌てて大丈夫だというハリーに双子が呆れたようにフォローをする。
何?とやはりわかっていない風のロンに13か14の年代はこれが普通なのだろうかと、ヴォルは記憶をたどるが少なくともスリザリンにはここまで鈍いのはいなかったと頭を悩ませた。
それにしても、と目を意味ありげに細ませるヴォルに、意図が分かったハリーは顔を赤くしてプイッとそっぽを向く。
机の下で握り合った手にナギニが安眠妨害だわ、とクルックシャンクスに目を向けた。
にゃーと鳴くクルックシャンクスにナギニはご機嫌になってハリーの差し出した最後の肉にかぶりつき、一同がデザートを食べ終えたところで響いたアーサーの声に顔を向けた。
「明日は魔法省が車を2台出してくれることになったのでそれに乗ってキングズ・クロス駅に向かうことになった」
明日どうやってこの大所第大荷物で向かうのか、そう思っていたハリー達にアーサーはこともなさげに言う。
魔法省と聞いてハリーとヴォルは顔を見合わせ、ファッジの顔を思い出す。
もしかしたらアーサーが魔法省勤めということでハリーの護衛を兼ねてなのかもしれないと小さくうなずき合う。
「なんで魔法省が車を出してくれるんです?」
パーシーの言葉にアーサーは車が壊れてしまったし、ご好意でともごもごと答えてちらりとハリーを見た。
ウィーズリー夫人はありがたいことよときびきびと答えて、さぁ明日の準備はいいかしらと促す。
まだロンの準備ができていないというパーシーにロンは顔をしかめて、ハリー達はもう準備ばんたんかい?と矛先を向けた。
「誰に言っているんだロン。もうとっくにできているに決まっているだろ?」
「今日はしっかり寝るためにも、もう準備は万端だよ」
呆れてため息を吐くヴォルにハリーもまたあとはナギニたちを籠に入れるだけという。
ヴォルがそもそも寮にいる時から散らかさないため、ハリーもつられて片付ける癖がついているおかげでこの宿にいる時も朝以外は散らかっていない。
夜寝るというハリーを見つめるヴォルは、握り合った手を持ち上げ、ハリーの指先に口を寄せて軽く咥えこんだ。
「ばか!」
顔を真っ赤にして手を振りほどくハリーは思いのほか声を上げてしまったことに気が付いて、ちょっと部屋の片づけをと慌てて上がっていく。
「本当にあなた……ハリーをからかうのもたいがいにしないと」
かわいいと悶絶するヴォルにウィーズリー家が呆れると、ハーマイオニーが小さくたしなめる。
彼の血縁を考えると複雑な思いがする夫妻だが、よりいっそう闇の魔法使いらしくはないなとヴォルを一人の青年としてみてあげようと心に決め、さぁみんなももう休みましょうと声を上げた。
安眠のため、クルックシャンクスの許可を得てハーマイオニー達の部屋に向かったナギニだが、階段の下からハリーという名前を聞いて少し考えた後降りていく。
「ハリーに教えないなんてことはないだろう。あの子には真実を伝えるべきだ」
「アーサー、真実を教えてもあの子を怖がらせるだけよ」
いったい何のことだろうと降りていくと机の下に鼠のマークが書かれた瓶を見つけ、ロンの忘れ物かしらと銜える。
食堂にはウィーズリー夫妻が話し合っていて、どうやらハリーのことらしくあとで教えてあげましょうと机の下で話を聞くことにした。
要約するといつも無茶ばかりしているハリーとロンが今年こそは危険なことをしてはいけないという。
その理由は逃げ出したシリウスという男がハリーを狙っているということだ。
アズカバンで毎晩うわごとのようにシリウスはあいつはホグワーツにいるというようになり、ある日逃げたらしい。
そのため、警護の目的でホグワーツにアズカバンの看守が配備されるらしいが、それをアーサーはよく思っておらず、ダンブルドアも嫌がっているらしい。
ご主人様のことでさんざん悩ませているうえにこれ以上厄介ごとが増えるなんて、と静かに上に上がると、ロンの部屋の前へとやってきて瓶で戸を叩く。
「なんだよもう!こっちはスキャバーズの薬を探しているっていうのに……ってナギニ!?え、それって……ありがとう!君はあの猫と違ってほんといい奴だ!」
苛立ちながら戸を開けたロンは廊下にいるナギニに気が付いて驚き、その口にくわえられた瓶に気が付くと君は本当にいいやつだと頭を撫でる。
どういたしまして、と移動するナギニに隣に戻るんじゃないのかい?とロンが声をかけ、隣の戸を叩こうとしてロンとパーシーの騒ぎに身を潜ませ笑っていた双子に慌てて抑えられる。
バッヂは二人の仕業かという声を背後に、ナギニは目的の部屋に行き、中から爪で戸をカリカリと掻くクルックシャンクスに反応して戸を開けたハーマイオニーに許可を取り、部屋へと入っていった。
朝になり、朝ですよと戸を叩くトムの声に目を覚ましたナギニは、するするとハーマイオニーの寝台から抜け出て、クルックシャンクスに挨拶をする。
昨日の晩聞いたことを二人に話したいが、イチャイチャする二人の邪魔をするのも忍びない。
起きだした二人にクルックシャンクスとともに朝の挨拶をしていると、廊下からごめん!という声とほぼ同時にロンの名を怒鳴る声が響きわたった。
機嫌悪そうね、ハーマイオニーと顔を見合わせてため息を吐き、くすくすと笑いあう。
「本当にさ、ノックもなしに開けるとか、何を考えているんだ」
キレ気味のヴォルが説教する相手はもちろんロンだ。
ハリーはハリーで寝ていたらしく何が起きたのかとヴォルに聞こうとして、双子にデリカシーがない弟でごめんよと連れ去られてこの場所にいない。
「本当にごめん!!ふ、ふたりが恋人だっていうのわかっていたのに!」
要するにロンがノックなしで扉を開き(鍵はナギニが戻ってこれるよう朝一で開けていたらしい)、もうひと眠りとハリーを胸に抱きしめ寝ていたヴォルとハリーのシーツを寮にいる時の様に起きろーと半分剥いでしまったらしい。
即座に覚醒したヴォルに呪いをかけられそうになり朝の騒動につながると、そういうことだという。
昨日の晩聞いたことはあとで話しましょうと去年の様に大騒動になりながら荷物をまとめる波に逆らわず、ハリーの首に巻き付いた。
|