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 いくつか買い物を済ませたヴォルが戻ってきて、荷造りを終えて眠ったハリーの寝顔を見つめて……起きたハリーに口づけるとちょうどタイミングよくノックの音が響く。
夕食を一緒に食べましょうよ、というハーマイオニーの声が扉越しに聞こえ、わかったと返しながらもう一度口づけを交わす。
 身支度を整え降りていくと、一番大きなテーブルを囲う様にウィーズリー家とハーマイオニーが席に座っていた。
降りてきたハリーとヴォルに久しぶりね、とウィーズリー夫人は二人を抱きしめてから、座りなさいと促す。
ハリー達の見ていないところで何かあったのか、ロンとハーマイオニーはつんと顔を合わせもせず、不穏な空気を漂わせていた。
ちらりと目配せするハリーとヴォルはその間に座り、広げられたフルコースの料理に驚く。

 ウィーズリー家二人目の首席が出たことにパーシーは誇らしげに胸を張り、これが最後の首席だという双子にウィーズリー夫人の叱咤が飛ぶ。
「二度とやりたくもないな」
 スープを飲みながらぼそりとつぶやくヴォルにハリーはクスッと笑う。
 どんなに品行よくしたところでもう任命されないことはわかっている二人は視線を絡ませ、二人だけにわかるアイコンタクトで笑いあった。
「ほんと貴方たち仲良しね。一応、ハリーはまだ13歳なんだから……と言ったところで聞く耳あるわけないわよね」
「もうしっかり蛇の大将の毒牙にかかっているから、今更さ」
「そういうところを制御できてりゃハリーに会うこともなかっただろうしな」
 仲いいのはいいけどね、というハーマイオニーにテーブル向こうからフレッドとジョージが身を乗り出し、ひそひそと声をかける。
 的確な答えを言っていない3人だが、ヴォルの正体を知っていることを匂わせる3人にヴォルはため息しかでない。


 ふと、足元を何かが通り抜けたことに気が付き、正体を確かめる前にひょいとハーマイオニーの膝に“それ”が飛び乗った。
「あら、どうしたのクルックシャンクス」
「へぇ。猫を飼うことにしたんだな。これは…ニーズルの血が入っているのか?ずいぶん賢そうな顔をしているな」
 赤毛の猫は黄色い眼を細めてごろごろと喉を鳴らしながら大人しくなでられている。
頭がよさそうだというヴォルだが、とんだ化物だとロンがつぶやいた。

「そいつが何をしたか知っているかい?スキャバーズの薬を買いに行った僕の頭をむしろうとしたんだぞ!大体、スキャバーズには休息が必要なのにそんなのが近くにうろついていたらよくならないじゃないか」
「そんなことはないわ。可哀そうなクルックシャンクス。この子ずっと売れ残っていたんですって。フクロウをと思ったんだけどこの子がかわいくて」
 ハリーとヴォルを挟んで眉間にしわを寄せながらロンは怒ったように言い、ハーマイオニーが反論する。
ヴォル越しに猫を見たハリーは少し潰れた顔の猫にかわいい?と内心首をかしげる。

「スキャバーズ具合悪いの?」
「エジプトから帰ってからすっかり調子悪くて。もう爺さんだし年のせいかもしれないけれども」
 今部屋で休ませているというロンにそういえば去年ほとんど見かけなかったな、とヴォルは考えて、不意に何処かで似た鼠を……と考えたところで鼠に違いなんてあるわけもないかと頭を振るった。
「エジプトで呪いにかかったとかはありえそうだな。防鼠対策はされてあるはずだ。それにかかりでもしたんじゃないのか」
 あぁいう古代の魔法はかなり理不尽であったりするからな、と続けるヴォルにロンは心配げな顔つきで解呪方法あるかい?と問いかける。
「古代の魔法に関しては俺もさっぱりだ。そこについてはグリンゴッツのエジプト支部に勤めているビルのほうが詳しいだろう?」
 対人間用以外の呪いには興味がないと、そう返すヴォルにハリーとハーマイオニーのそれぞれから溜息が漏れる。
気にしていない風のヴォルだが、そうかと何かに気が付いたのか声を上げた。

「アニメ―ガスとかにも影響があるかもしれないから……今度調べておく必要がありそうだ」
「アニメ―ガス?いきなりどうしたのよ」
 関係なくはないなというヴォルにハーマイオニーが首を傾げる。ハリーはちょうどやってきたナギニを腕に這わせ、手元に残っていた肉を分けてあげていた。
「ナギニがうらやましいって」
 こともなげにいうハリーにヴォルは違うと即座に返し、頷きあうナギニとハリーを軽くにらみつけた。
何のことかわからないハーマイオニーは首を傾げ、あいさつしあうナギニとクルックシャンクスを見る。
会話できるのかと見守るハリー達だが、そういえばヘドウィグとも意思疎通が取れているっぽいことを思い出し、魔法生物どうなっているのかとにゃーと鳴くクルックシャンクスに目を移す。
 途端に不機嫌になるナギニにどうしたの?と驚くハーマイオニーは、ナギニから何かを聞いて思わず笑う二人に目を移した。
「のんきなおバカさんって言われたって」
「ニーズルは本当に頭のいい魔法生物だからそのせいだろう。悪気はないだろうけど、ずいぶん高飛車な猫だ」
 口角を上げるヴォルにナギニはぷりぷりと怒るが、ハーマイオニーによりかかってゴロゴロと喉を鳴らす姿に猫かぶり!とべッと下を出す。
「猫だろう」
 何を言っているんだか、というヴォルの隣でナギニを撫でるハリーは笑い、クルックシャンクスを撫でるハーマイオニーを見た。

 
 




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