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 足腰が立たないハリーは食事を持ってきたヴォルを見送り、一人部屋で休んでいるとにわかに廊下が騒がしくなったのを聞き、隣に誰か新しい宿泊者が来たことを知る。
 聞いたことがある声がする、と耳を澄ませているとドアをノックする音が聞こえ誰だろうと服のしわを直しながらよろよろとドアへと向かう。
 そっと開けると真っ赤な髪が視界に入り、ハリーは扉を全開にした。
「(ロン!)」
 声がかすれたままで、ほとんど声になっていなかったハリーに、ロンは具合でも悪かった?と首をかしげる。
「ロニー坊や、野暮なこと言うなって」
「さっきヴォルとすれ違って、これ渡してほしいって。グリンゴッツのほうで用事済ませてくるとのことだ」
 ロンに続いて顔をのぞかせたフレッドとジョージはハリーに魔法薬の入った小瓶を渡す。
見たことのある瓶に、受け取ってすぐ飲み干したハリーは喉のつっかえが消えたことと、腰の痛みが半減したことにほっと息を吐いた。

「3人ともどうしたの!?」
「俺たちもここに泊まることになったのさ!」
 野暮ってなんだよというロンを抑えるフレッドの代わりにジョージが答える。
ハリーという明るい声が聞こえ、ジニーとともに顔をのぞかせるのはハーマイオニーだ。

 廊下で話すのも、とちょっと待ってと部屋に戻ろうとするハリーに下で待っているわとウィーズリー兄弟を引っ張っておりていく。
慌てて部屋に戻り、身支度を整えるとカウンターにロンとハーマイオニーが座っていた。
ジニーや双子は買い物に行ってくると出てしまったらしい。
「おばさんを風船にしたって本当かい?」
 座ってすぐに尋ねられ、あーと思い出したハリーはあの家出した夜のことと、魔法省の大臣とのやりとりを手短に話す。
「まったくもう。ヴォルの制御はできないだろうけど」
 退学にならなかっただけほんとよかったわと続ける。ヴォルの制御なんてこの世の誰にも無理だよ、と苦笑いするハリーはそういえばとハーマイオニーとロンを見つめた。
 ロン一家がいるのはわかるが、ハーマイオニーまでと首をかしげると、今朝送ってもらったのという。
「ほら、明日の列車に合わせて。どうしても買い物の時間がなかったから今日買って、荷物を持ってロンドンに行くつもりだったのよ」
「それでばったり会ってさ、じゃあ一緒に行こうって話になったわけさ。幸いジニーの部屋を二人部屋にすればいいだけだったからすんなりとね」
 海外に出かけていた二家族共に今日購入してと考えていたのだという。
なるほど、と納得したハリーに二人はこれから買いに行くという。
「僕は部屋で休んでいるよ。明日の準備もしたいし」
 ヴォルが帰ってくるまでにやらなければ、学校ではいちゃつけないと今夜も寝れない可能性があるハリーとしては時間があれば準備をしたいし、寝れるときに眠りたい。
 具合悪そうだったもんな、というロンに乾いた笑いが出るハリーはじゃあ行ってくるわね、という二人を見送って部屋に戻っていった。


 ハリーが寝ている間に買った魔法薬を置いてこようとしたヴォルは漏れ鍋に入ろうとしたところで、向こうから来たフレッドとジョージに思わず足を止めた。
「お!久しぶり!一人ってことはハリーはまだ部屋にいるのか」
「寮内じゃいちゃつけないからな。やっぱりな、蛇は性欲の象徴とか言われているぐらいだし」
「その化身ならなおのことだよなぁ。でもハリーは未成年だから……」
「初体験が蛇の帝王……おっと。かの蛇寮の創造者の血を引くプリンスとは、ハリーの体も心配だ」
 足を止めたヴォルにフレッドとジョージは声を落とし、にやにやと笑って左右から畳みかけるように言葉を紡ぐ。
聞き捨てならない言葉が聞こえた気がして眉間にしわを寄せる。
秘密にと言われていたから妹やロン、両親から聞いてはいないはずだ。
だが、そういえば去年不穏な言葉を聞いた気がする、と石化する前のことを思い出す。

 はぁとため息をつき、ハリーの前でしか見せない、取り繕いのない素の顔で二人を見つめる。
「いつから気が付いていたんだか……」
「そりゃ俺たち」
「そういう隠し事にはめっぽう強いんだ」
 俺たち天才だから、という双子にこんな子供に見抜かれるとは、とヴォルは落ち込む。
55歳頃に襲撃して、0歳から戻って成長して……どっかで狂ったのか。いや、ハリーがそばにいるということで以前とは違うのは明白なのだが、それが影響しているのか。
「ハリーにうつつを抜かしているから隙ができるってもんさ」
「スリザリンの継承者で、蛇ペットで」
「スネイプと超絶仲が悪くて」
 ほかにもあるぞという二人にもういいとヴォルは首を振って、飛んできたヘドウィグに目を止めた。
ナギニを落としていくヘドウィグを見送るとナギニからずいぶん待たせているみたいだけど大丈夫かと問われる。
「忘れてた。ちょっとグリンゴッツに行くから……これをハリーに渡してくれないか?回復薬」
 そういえば待たせていたな、と指定した時間から大幅にずれていることに気が付き、なんだい?と首をかしげる二人に買ったばかりの魔法薬を手渡す。
 それですぐに分かる二人はあとで色々聞かせてくれよな、と言って魔法薬を受け取り引き返していく。

『さすがに一時間放置は……』
『大丈夫だ。半日ほど放置させていたこともある。それに比べれば早い方だ』
 ナギニを肩に乗せてグリンゴッツに向かうヴォルの言葉に、下僕って大変なのね、とナギニはため息をついた。
待ち合わせの相手がハリーであれば一秒だって待たせたりはしないだろうなと、ナギニはグリンゴッツの正面ではなく路地の所に身を隠す様に立っているプラチナブロンドの男をみる。
 今年こそは静かな年になるかしら、と文句を言いたそうなルシウスに悪びれた様子もなくよく来てくれた、と気持ちのこもっていない言いなれた風な言葉を紡ぐ主人に今年もダメそうね、とナギニはこれから起きることにワクワクしながらじっと成り行きを見つめた。


 
 




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