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「まぁ俺様にかけていたものがあるのは認めるが、それに比べてハリーの何がおかしいんだ。ハリーの両親はハリーを守って死んだ。母リリーは守るために命を愛に変えてハリーの体を包み込んだ。腐っているのはおばさんの方だろう。醜く太った豚の遺伝子が」
 ヴォルの怒りがグネグネまわったあげくリリーに戻ったことに、ハリーは目をしばたたかせた。
結局何が彼の怒りだったのか……ハリーをもってしてもわからない。
 とにかく、と怒りで顔を真っ赤にしたマージとバーノンにやばいと頭の中で警鐘が鳴り響く。
豚の遺伝子というワードでその前のヴォルの態度や言動が頭から吹き飛んだことだけはわかる、と吠えメールを開く面持ちでヴォルから二人へと目を移した。
「この……恩知らずの!恥知らずが!!!」
 唾を飛ばしながら怒鳴り声をあげたのはマージだ。
 お前に恩をもらった覚えはない、とぶちぎれモードのヴォルはそれに応戦してしまうから余計に顔が真っ赤になっていく。
 でも確かにマージ叔母さんには何もして貰った覚えはないと思い出すハリーは、冷ややかにその赤い顔を見て不意にマンドラゴラを思い出す。
 あれの死にいたる声に比べたら……なんで今までこの人に怯えていたんだろう。
 そう考えてとりあえずこの場をどうするかと頭を悩ませた。
「これでわかった!お前たちの父親のポッター家とか言うろくでなし共はどうしようない、クズだってことだ!クズにクズの女が付いて、こんな欠陥だらけの馬鹿が生まれてくるのさ!!」
「ヴォルはバカじゃないし、父さんも母さんもクズじゃない!きーきー豚みたいな声で人の家をけなすのやめてよ!!そうする人間のほうが卑しいってなんでわからないんだ!」
 マージの言葉にいったんどっか行っていたはずの怒りが戻ってきて、ぶちりとハリーの何かが切れる。
怒りに膨らんでまるで風船みたいな叔母の立てる耳障りな声は豚の鳴き声のようだ、とじっと見つめる。

 怒りに声を詰まらせるマージはさらに膨らんで……ふわりと浮いたことにヴォルとハリーは思わず顔を見合わせた。
そうこうしている間にも叔母の風船化は進み、奇妙な風船となってもうすぐ天井に届きそうだ。
 怒りに震えていたバーノンは怒鳴るチャンスを逃し、真っ青になってマージの足に縋りつく。
興奮した犬がその足にかみつき、さながら阿鼻叫喚の図だ。
 顔を見合わせた瞬間、二人の心は決まっていてペチュニアがおろおろしている間に部屋に駆け戻り、杖を使って荷物をまとめる。
 もう魔法を使ってはいけないの勧告なんてくそくらえだ、と荷物を作ると軽くする魔法をかけて階段を駆け下りる。

「まて!!マージを……マージを元に戻すんだ!!」
 リビングから飛び出したバーノンは犬にかまれて血まみれの足をそのままに、息を切らして怒鳴り散らす。
「お互い頭を冷やしたほうがいいと思うので」
「人に物を頼むときはどうするのか、おじさんだってわかるでしょう」
「「もうたくさんだ!」」
 ヴォルは振るった杖で玄関が開き、高揚とした気分のままハリーとヴォルはそろって飛び出して走って行く。
 後ろ手にバーノンの声が聞こえたが、夜道を気にせずとにかく走る。


 2ブロック程離れたところでヴォルが先に音を上げ、ちょっと待って、と息を切らす。
 もともとクィディッチで長時間箒とはいえスポーツをしているハリーとインドアなヴォルとの体力の差はあるらしく、夏の熱気もあって汗を流すヴォルはトランクに寄りかかって息を整えた。
「僕……退学になっちゃうのかな……」
 思い出したように乱れた息を整えるハリーは魔法を使ってしまったことにぽつりとつぶやく。
 「いや、大丈夫じゃないか?去年はあっというまにフクロウが来たんだ。荷物まとめる時間や走ってくる時間を考えると役人が来てもおかしくはないのにくる気配もない」
 先にぶちぎれてごめん、とハリーを抱き寄せ、額に口づける。
いいよ、と離れようとするヴォルの唇に唇を重ねるハリーはぎゅっとヴォルを抱きしめた。
「今度……ヴォルが言える様になったらでいいからいろいろ教えてね。ヴォルのこと……もっと知りたい。」
「リドル時代の話はあまり面白い話はないが……ハリーの頼みとあっては仕方がない。ただ、まだ俺様にも思い出せていないことがあるのと……未だに引っかかることもあるから落ち着いたか必ずハリーに全部打ち明ける」
 キスを返すヴォルにハリーも流されまいとキスを返し……せっかく整った息が別の意味で上がったことにようやく離れてじっと至近距離で見つめあう。

「とりあえず、漏れ鍋に行こう。まだこの姿で姿くらましを試したことはないから……さて、どうしたものか」
 早く宿に行きたいというヴォルの意図が分かったハリーは顔を赤くしてこくりと頷いた。
「……!だれだ!!」
 歩き出そうとするハリー達だったが、さっとハリーを腕の中に引き入れたヴォルが杖を構え、暗闇を見つめる。
ルーモスという声とともに明かりがともり、ヴォルが杖を掲げるとガレージに鎮座する黒い大きな犬が姿を現す。
「犬……?」
 妙だな、と考えるヴォルは踏み出そうとして、バーンという大きな音ととっさにハリーが腕をひいたことで二人一緒に歩道に尻もちをつく。
その衝撃で杖の光が消えるが、目の前に現れた大きなバスのおかげで暗くはない。
「迷子の魔女魔法使いのお助けバス、夜の騎士バス(ナイト・バス)がお迎えに上がりました!」
 扉が開き、ひらりと降りてきた男性はそう高らかに言うと、転んでいる二人を見て目をしばたたかせる。
「なにしてんでぇ?」


 
 




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