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マージ叔母さんはいつも通り、ハリーに荷物を押し付けダドリーに熱烈なキスをするとハリーとともに荷物を運ぶ背の高い後ろ姿に目を止めた。
ヴォルについてはハリーの父方…ジェームズ=ポッターの弟の子であり、急死した父を追うように母も亡くなり、叔父の家に引き取られていた。
ということでハリーとともに引き取ることとなったと手紙には書いてあったという。
真偽のほどが分からないため、バーノンからは正体のわからないやつと言われ、マージからも怪しむ様子で見られている。
「居候のくせにまぁ迷惑も考えず、でかくなって。赤目のおまえさんだよ!挨拶もしないのかい」
バーノン同様にでっぷりと…大きな体を揺らしてヴォルに向かってがなりあげるマージに、ヴォルは音を立てずに舌打ちをし、なんでしょうかとリドル時代のあの作った微笑みを携えて振り向いた。
舌打ちをした瞬間、1学年の時に見た気がする、とかつてのヴォルデモートの顔を重ねてみたハリーはため息を零しヴォルの手から荷物を受け取る。
魔法がかかっているのかいつもより軽く感じる荷物を2階に運び込み、ハリーはそっとリビングへと戻ってきた。
リビングではマージの愛犬があちらこちらに涎と紅茶を飛ばしながら皿を舐めまわし、ペチュニアがわずかに眉をしかめていた。
近くに座らされたヴォルもその音が不快なのかいらいらとした空気がにじみ出ていた。
『叔母さん帰ったら、いら立ちも全部受け止めてあげるよ』
そっとヴォルの傍を通るときに空気の抜ける声…パーセルタングで頬が引きつり始めたヴォルに囁くと、一気に身にまとうオーラが緩和される。
幸い、この一家はヴォルのこのささやかな変化には気が付かないらしく、先ほどまで漂っていた空気にも、今急に軽くなった空気にも気が付いた様子はない。
ヴォルの魅惑の微笑のおかげか……小柄でくしゃくしゃ髪のハリーは放っておかれ、その代わり何を聞くでもなく、何を話すでもなくヴォルを目に見えるところに置きたがり、マージが見ていないところでハリーがそっとその手を握る。
そして毎夜、凝り固まった顔をほぐすように機嫌がよくなるまで二人は口づけを交わし続けた。
「あと1日……。あと1日で解放される……」
ハリーを抱きしめ、ぶつぶつとつぶやくヴォルにハリーもまた苦笑して抱き返す。
ぼさぼさの髪はなんだだのいつもの小言に辟易していたハリーだが、一つ感謝しないといけないかもしれない、と珍しくまいった様子のヴォルの頭を胸に抱きしめ、労う様にさらさらな髪を撫でつけてそっと微笑む。
よほど疲れているのか、そのまま眠るヴォルの寝顔を見て、そっと額に口づけ…ハリーもまた眠りに落ちた。
顔を真っ赤にしたヴォルは自分を抱きしめて眠るハリーをちらりと覗き見る。
こういうのも悪くないか、とハリーを抱えなおし目を閉じた。
ハリーには見抜かれているが、とことん甘えたくてしょうがない。
マージの滞在最終日の夜、豪華な料理が並び、バーノンもワインを開けて別れを惜しむ。
ほろ酔い気分で上機嫌なマージはダドリーを見て発育のいい子供は好きだといい、一番小さなハリーをやり玉に挙げる。
「みすぼらしい出来損ないだ。要するに血統だよ。雌犬に欠陥があればその子犬もおかしくなるのさ。悪い血が出てしまうのさ。あぁペチュニア、あんたの家族を悪く言うつもりじゃない」
そういわれて思わず拳に力が入る。
両親のことは断片的にしか聞いていないし、なにより…あの直前呪文で目の前に現れた母リリィのことを、あの愛情にあふれた目をした母をあったことがないというマージに悪く言われるのは我慢できない。
ふと、強い殺気を感じ、はっとしてヴォルを見る。
両親がいない理由はかつてヴォルが…ヴォルデモートが殺したからだ。
だが、それだけではない怒りを感じそっと手に触れようとして…まだ自分の怒りが収まっていないことにぎゅっと拳を握り締めた。
「どんな立派な家系にだってそういうのがひょっこり出てくるのさ。それでろくでなしと駆け落ちして、結果はどうだい」
上機嫌で大きな声を出すマージ……叔母の声が遠ざかる。
駆け落ちしたのであればペチュニアの両親……祖父母との関係だって良好のはずだ。
だが、ハリーにはあった記憶がない。
「母親に欠点があればおかしなのが生まれてくると……。どんなに立派な家系でもひょっこり出てくると」
ひどく冷たい声がしてぞくりと背筋が震える。
氷のような声にマージは自分の言っていることに大笑いしていたのをやめ、バーノンらはいったいどうしたのかとヴォルを見る。
「母はとても古い一族の末裔で……血を大事にするあまり親族間で結婚していたそうです。だから母だけでなく祖父も伯父も狂っていたみたいですけど」
何がヴォルの地雷を踏んだのか……考えるハリーはもしかしてとヴォルを見る。
確かヴォルの……トム=リドルの母親は魔女のはずだ。
純血主義を唱えていたヴォルデモートの父親はマグルだったという。
スリザリンの継承者だとかいう話もついこの間あったばかりだ。
スリザリンの子孫である母親から生まれた闇の帝王……。
そう考え、なんとなく怒りのもとを察した。
もともとはハリーの母リリーに対する話だったはずなのになんでヴォルが怒りだす、と少し毒気が抜ける。
それにしても、と本性がちょっと見えている証拠に目が赤く光っているというのに、叔父らについている嘘の家族構成をなるべく残して喋る姿にさすがヴォルデモート、と妙な関心をしてしまう。
「そんな狂った母親から……一族から生まれた俺も当然おかしなものに含まれるはずだな。学年一の俺が」
怒るヴォルにそういえばリドルの時もどことなく感じたが、割とナルシストだよね、自己評価めちゃめちゃ高いよね、とヴォルの横顔を見るしかできない。
一つ言わせてほしい、とハリーは心の中で呟く。
まともな人が闇の帝王なんて名乗らないはずだし、人を傷つけて平然としない、と。
かつての闇の帝王から欠けていた“良心”に対してはどう思うのだろう、とうわの空で考える。
もうマージに対する怒りは明後日の方向に行ってしまった。
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