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ハリーは喜びながらもさすがに疲れてうとうとし、それをヴォルが部屋まで運ぶ。
なにやら黄色い声がする、と振り向かないヴォルはハリーを寝台に乗せて…あれ?と首を傾げた。
整えられてはいるがなんか使っていた感じが無い。
まさかと振り向けば自分の寝台が使われていた雰囲気があり、思わずハリーをのぞき込む。
「ずっと俺の寝台つかっていたのか?」
清掃され、匂いだって残ってないだろうというヴォルにハリーは顔を赤くして、少しだけ残ってたと答えた。
寂しくて寝台を使っていたというハリーにヴォルはぶわりと体温が上がるのを自覚する。
そのままハリーを抱きしめて寝台に横になると、感情のままにハリーに口づけた。
不意にヴォルの脳裏に幼いころの記憶がよみがえる。
かつてハリーを嫌っていた時、ダドリーの風邪をうつされ、寝込んだ自分をハリーが一生懸命見てくれた。
タオルだって十分絞れていなかったが、そのタオルよりも絞るために何度も水に入れて冷えたハリーの手が気持ちよくて…。
あの当時は寝台を占領し、ハリーは床の上で眠っていた。
あの時も目を覚ましたらハリーはいつもの床の上で寝ていて…。
最低限の世話しかしてくれなかったペチュニアらではなく、同い年のハリーが面倒を見てくれたことが自分の中の何かを大きくかえた。
次の日、ダドリーに泣かされ、眼を真っ赤にしたハリーを見て…告げた言葉があった。
ハリーに告げた約束。あの時もわかったと頷くハリーの唇を塞いでいたと、角度を変えて口づけながら、思い出していた。
「ハリー、俺様のそばにいてほしい。」
あの時は命令口調だったが、そうじゃない、対等だとハリーを見下ろして言い直す。
ハリーもまた、ヴォルが約束を思い出したことに気が付き、もちろんだよとほほ笑む。
「ヴォルこそ、僕のそばにいて。」
一年生の終わりにハリーが言った言葉を繰り返すと、ヴォルはもちろんだと口づけを交わす。
もう決して忘れることが無いよう、誓いの口づけは明け方まで続けられた。
アズカバンからハグリッドが戻ってきたのはその朝のことだ。
夜通しの宴会騒ぎから一夜明け、少し落ち着いたところに戻ってきたハグリッドは、シリアルを食べていたハリーとロンの背中をたたく。
「ハグリッド…。」
力加減をどうにかしろ、というヴォルにハグリッドはすまんすまんと言って…バジリスクを安全に飼う方法はないかと小声で尋ねる。
「パーセルマウスだけだな。あきらめろ。大体、アクロマンチュラを買うにしても場所を考えて飼えばいいものを、どうしてスリザリンの寮がある地下牢で飼うんだ。気味の悪い音がするとかなんとか…いろいろ面倒だったんだが?」
呆れるヴォルの言葉にハリーはあれ?とミルクをぬぐいながら顔を上げた。
「まさかあのトムがとは知らなかったんだが…アラコグに蹴っ飛ばされて慌ててコロニーから逃げ出す羽目になったあの姿に、少しばかり留飲がおりたってものでな。過ぎたことをいつまでもひきづってちゃなんねぇと言ったのさ。」
ばしんと痛そうな音を立ててヴォルの背を叩くハグリッドに、話が聞こえていなかったハーマイオニーは何事か顔を上げた。
逃げたんじゃないと慌てるヴォルにハリーは笑うと、ハグリッドにありがとうと言って、少しすねた顔のヴォルの手を握る。
気まずそうなヴォルは目を泳がせた後、ハリーに不意打ちでかすめるように口づける。
顔を真っ赤にするハリーにニヤリと笑うヴォルは、思わず固まってしまったハグリッドに早く自分の席に戻って食事をしてくればと押しだした。
昨日からやたらと自分がハリーに何かすると女子生徒の黄色い悲鳴が聞こえる気がする、と首を巡らせるヴォルの頭にバシンと衝撃が走る。
思わず睨むヴォルにスネイプはいちゃつきたいなら人目につかないところでやれという。
偶然とはいえ一勝を得たスネイプは元闇の帝王ではなく、面倒で厄介な悪童としてヴォルを扱うことにしたのか、やや強気だ。
「ぜったい後で後悔させてやる…。」
教員席に向かうスネイプを睨むヴォルに、ハリーは笑うと、足元に視線を落とした。
「ナギニ!よかった!もう大丈夫なんだね!」
ハリーの足を這いあがるナギニはヴォルを見るなり飛び上がって、その体をヴォルへと巻き付けた。
よかったというナギニにヴォルもまたハリーを守ってくれてありがとうとその頭を撫でる。
『本当によかった。ところで…なんで二人とも唇が赤いのかしら?』
よかったと繰り返すナギニはハリーとヴォルを見比べて…唇が赤いことに鎌首を傾げる。
顔を真っ赤にするハリーと、顔が赤らむヴォルを見比べて変なの、とつぶやいた。
ホグワーツからスリザリンの怪物が居なくなったことで、学校からのお祝いとして学期末テストはすべて免除となり、ロックハートが解任されたことが告げられる。
テストがなくなったことに一人そんな、と声を上げたのはハーマイオニーで、それ以外の生徒は2つの知らせに歓声を上げた。
ルシウスが理事を解任されたという知らせをアーサー=ウィーズリーから息子たち経由で知り、マルフォイがどこか拗ねたように歩くさまをみてヴォルとハリーは微笑みあう。
ジニーもまた元気になると、ずっと聞きたかったらしいロンのパーシーに関することという問いかけにこともなげにガールフレンドよと返した。
「ハーマイオニーが石化したときにいたペネロピ―=クリアウォーターって人とパーシーが付き合ってて…偶然空き教室でキスしているところを見ちゃったの。」
パーシーをからかったりしないでよ、というジニーにロンはへぇと興味深げに頷いて…いつの間にいたのか双子の兄を見る。
「まじか!パーシーもそんなところがあったなんて…。」
「そうかそうかあの堅物が…誰もいない教室で。」
にやにやとするフレッドとジョージは誕生日が早く来たかのように笑みを浮かべる。
これはパーシー…終わったな、と弟と妹、そしてハリーとヴォルの4人の心の声が見事に一致した。
帰りの列車に乗り込み、ロンとハーマイオニーがそれぞれ席を外したところで、ハリーはヴォルの袖を引いた。
「去年、ヴォルに誕生日渡しそびれたから…。」
そういって差し出したのは薄手の手袋と去年壊れてしまったものと同じヘドウィグの羽を加工したブレスレット。
「今度決闘するときとかに…。」
もごもごと告げるハリーにヴォルは微笑んでありがとうと、口づける。
「それとね、ヴォル。次の僕の誕生日なんだけど…お願いがあって…。」
キスしただけでなく、顔を赤くするハリーはもじもじと手を動かした後、遠くにロンかハーマイオニーの足音を聞いて、ごくりとつばをのみヴォルを見つめる。
「次の誕生日、ヴォルが欲しい。」
列車は音を立てて走っていく。夏はまだ始まったばかりだ。
リバースライフ2 終わり
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