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 深々と吐きだされる溜息に、姿さえ見なければ本人に違いはないのにと不意に消えた痛みに荒く息を吐く。
とっさに杖を握るが、顔を上げたすぐ目の前にあの赤い眼があり、思わず息をのむ。
「ここまで言って俺様が誰であるかなど…今更考える事でもないだろう。あの夜、俺様は赤子に戻り、去年のクィレルの一件で記憶を戻した。記憶がもっと早くに戻っていればこの騒動が起きた時に真っ先にお前に詰め寄ったのだが…まぁそれは俺様の落ち度だ。認めよう。」
 杖を突き付けながら、ルシウスの肩に手を置き、深紅に光る眼を細ませる。
「俺様もこの13年間で大分丸くなったものだ。軽い磔の呪文を少々かける程度で解いてやるなど…。俺様を丸くしたハリーに礼を言うんだな。その杖を握る腕が折られずにいることを、な。」
 肩に置かれた手によって強く握られるルシウスはかすれた声で我が君、とかつての呼び名をつぶやいた。
「あぁ、そうだルシウス。俺様はこの姿になったことでハリーを守る以外には闇の魔術からはある程度距離を置きたいのだが…金庫に処理できないほどの呪いがかかったかつてのコレクションが多数あってな。処分して金に換えたいのだが…」
 肩から手を放し、立ち上がるヴォルデモートにルシウスはやっとの思いで立ち上がると、冷たい眼で微笑む姿に思考が止まる。
いやな予感以外の何物でもないものを感じ、有無を言わさないオーラに喜んで助力いたしますと頭を下げた。
「一度に吐き出すには量が多いから…そうだな。今年の夏、俺様の都合がいいときに連絡を寄こそう。それと、俺様の学用品をばらまくのはやめてもらおうか。あぁ、そうだな。一度俺様の元に戻してもらおうか。ハリーに問い詰められた時に答えられるようにしなければ。」
 おもむろにルシウスの左腕をつかむと、再び激痛が走る。
「安心しろ。これは召集のものではない。そんなことをして面倒を巻き込むほど俺様はバカではない。これは…印を持つ下僕への制裁のためのものだ。セブルスらには今ここで闇の印による苦痛を味わい、地べたを這いずっていることは知られることはない。」
 これでもかと強く握ることに解放されたルシウスは床にうずくまり、目の前の少年が…ヴォル=セルパンがヴォルデモート本人であることを確信して大きく息を吐いた。
最悪の事態だと青ざめるルシウスだが、ヴォルは俺様のこと、誰にも口外するなと命じた。
「俺様が生きていること、俺様がハリーの傍にいる事…ここで聞き知ったことをドラコやナルシッサ、そのほかすべてのものに伝えることは許さない。息子はあれはあれで面白い。俺に関することは一切口出ししないでもらおうか。」
 いいな?とにらみつける姿にルシウスは頷くしかできなかった。


「ダンブルドア、もういいぞ。お前ももう…あー…ルシウス、その手袋を脱げ。」
 呆れ切った顔のダンブルドアが手を離すとハリーは目を開けて、髪を振り乱し這いつくばったルシウスを見つめる。
ヴォルの言葉の意図が分からず首をかしげると、手袋を脱ぐルシウスを見た。
差し出す手をおっと手が滑ったと払うヴォルに、どういうことかと問いかけようとしたルシウスはドビーの嬉しそうな声に慌てて振り向いた。
「ご主人様がドビーに衣服をくださった!!」
 信じられないという眼のドビーにルシウスはヴォルを見返す。
「かつての俺様の信用を不意にした罰だ。そのドビーには散々迷惑をかけられたからな。お前から離れれば少しはましになるだろう。」
 聖人のように微笑む悪魔なヴォルにルシウスは反論できず、失礼すると言って部屋を出て行った。

 ドビーは嬉しそうにこれで自由だというと、ヴォルに感謝を込めて抱き着く。そう来るとは思っていなかったらしいヴォルは離せと一蹴するが、ドビーはあなたが息子だという秘密は一生この胸にしまいますと何度も頷いた。
それでドビーを解放させたのか、とハリーはヴォルの手を握る。
ドビーは何度も何度もお礼を言うと、さようならと姿を消した。
「そろそろ宴会の準備も整ったころじゃろう。この蛇…ナギニはわしが魔法生物学の教授の元に届けてこよう。」
 フォークスを肩に乗せたダンブルドアが眠ったナギニを魔法で浮かせると、二人とともに部屋を出る。
「あの、その不死鳥なんですけど、尾羽を握った時不思議な感覚がして…。」
「そうじゃろう。ハリー、それにヴォル。おぬしたちの杖に入っている不死鳥の尾羽はこのフォークスのものじゃ。たとえ離れた一部であったとしても、それは互いに共鳴しあう。」
 にこにことほほ笑むダンブルドアにハリーは驚き、思わず杖を見る。
確かにあの尾羽を握った時、初めて杖を握ったあの感覚に似ていたと、自分の杖を見るヴォルを見た。
「初めて聞いたぞその情報…。」
 深々とため息を吐くヴォルは歌うように鳴くフォークスを見る。
この見事な不死鳥…見覚えがあるといえばあるが、ダンブルドアの部屋など誰が好んで入るものか、と記憶のかなたに追いやっていたことを思い出す。

 ナギニを任せ、大広間に向かうとそこはもう石化していた人を中心に喜びの大宴会となっていた。
 入ってきたヴォルとハリーに注目が集まり…よかったと、ハリーが解決したのねという声と、愛の力って偉大だわという声と…あまりのことに思わず立ち止まる二人に次々と言葉がかかる。
 もみくちゃになりながらグリフィンドールの所に向かえばハーマイオニーがうれしさのあまりハリーに飛びつき、ヴォルが戻ってよかったと手を握る。
 ロンとハリーには【ホグワーツ特別功労賞】が与えられ、400点増えたことに狂喜乱舞の騒ぎとなり、興奮冷めやらないまま寮に戻っても持ち込まれた食べ物や飲み物で宴会は続いた。




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