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 ばたんと、勢いよく扉が開いたのはその時だった。
入ってきたルシウスはダンブルドアを見つけると大股で詰め寄る。
とっさに脇に避けていたハリー達には目もくれないルシウスは、なぜ戻って来たのかと問い詰めていた。
自分の思惑通りにならなかったことがそれほど彼の怒りに触れているのか…ルシウスを見たとたんハリーを抱きしめるヴォルから発せられたオーラによって、下がりきった部屋の温度に彼は気が付いていない。

「はて…わしはアーサー=ウィーズリーの娘が殺されたのではないかと聞いた他11人の理事たちからすぐに戻ってくるよう求める手紙を受けとったのじゃが。みな奇妙なことを言っておった。従わなければ家族に呪いをかけるなど、言われたとな。」
 どこか鋭さを見せるダンブルドアにルシウスは憎々しげに睨み付け、動こうとしたところで異変に気が付いた。
指一本動かすことのできないことに気が付いたルシウスは、唯一動かせる目で何が起きたのかを探るよう動かす。


「ダンブルドア、ハリーの耳を両手でしっかり押さえてもらえないか?」
 それまで黙っていた少年の声にドビーが怯えたまなざしを向ける。
「穏便に済ませたいのじゃがの…。ここはミネルバの部屋じゃ。荒らさぬよう。」
 大きくため息をつき、天を仰ぐダンブルドアは目が一切笑っていない笑顔の少年にわかったといって、ハリーの傍へとやってくる。
「ハリー。ちょっと用事があるから…ダンブルドアの手が離れるまでしっかり目を閉じてもらっていいか?」
「今回、僕は止めないからほどほどにしてよ。」
 ハリーを抱きしめるヴォルに、ハリーは何となく今回の元凶がリドル以外にもう一人いたことを察し、素直に両目を閉じてその上から手のひらを当てる。
「ドビー。これからとっても大切な話をしなければならない。場合によっては少々見たくない主人の醜態を見るだろう。だから、ハリーのことを黙っていてやるから今すぐそのでかい目と耳を塞げ。」
 ハリーの耳がふさがったことをみるとヴォルはくるりと背を向けて、一切の表情を消し去った顔でドビーに命じた。
ひっと声を上げるドビーだが、主人の醜態を見てはならないと、部屋の隅に行き、眼を耳を塞いだ。

 視界の外でのやりとりにいったい何が起きているのかとルシウスは呪文を解こうともがく。
今までダンブルドアのいた机に軽く腰を下ろし、足を組む少年の赤い瞳に冷や汗が浮かび、流れ落ちた。
 深々とため息を吐く少年…いや、背の高さと大人びた印象から青年と言って差し支えないだろう彼は、日記を手に持ちインクでぬれたページをめくる。
静かな音に本能的な何かが警鐘を鳴らす。
何より今恐ろしいのは必死にあがいているというのに金縛りの呪文が全く解けないことだ。
「リドルの日記…随分と懐かしいものだな。バジリスクの毒を使えば当然壊れるものだが…。」
 少年特有の…それでいて少し低めの声でつぶやく姿にようやく、あの本屋の騒動の時自分を見ていた少年であることを。
息子からの手紙で、スネイプを圧倒し、さらには怒りに我を忘れてこの防衛のための呪文で固められている、この城の加護の呪文を粉砕し大階段を大破させたパーセルマウスの少年がいる、という話があったことを思い出す。
 噂ではヴォルデモートの息子じゃないかとか、様々言われている少年…。
だがその噂が間違いであることに冷たい眼を見たルシウスは気が付いた。
「アブラクサスの息子であることから目をかけ、あの一族ならばと信用し、ベラとお前とにそれぞれ俺様の魂が入った分霊箱を預けたのだが…とんだ見込み違いだ。」
 13歳にしては背の高い…確かセルパン…名は…と必死に考えるルシウスは父の名と、死喰い人として、共に闇の帝王のすぐそばにいた女性の名前を聞いて信じられないと目を見張る。
「アーサー=ウィーズリーの話ではお前はあちこちに呪いの代物をばらまいているとか。その中に俺様のものも含まれているとは情けない。あの晩が無くとも俺様の脅威はそう長く続かなかっただろうな。こんな見掛け倒しの死喰い人が側近だの、ばかばかしい。」
 あーほんと時代が時代というか、俺様も人を見る目が無いな、と表情を一切変えずにじっとルシウスの目を見つめるセルパンにルシウスは喉が渇いていくのを自覚する。
 こんな少年にいいようにされてはという気持ちと、まさかそんなはずはないという心に揺れるルシウスに、唐突にセルパンはにっこりとほほ笑んだ。

 不意に体を抑えていた戒めが消え、ほっとするルシウスだが、全身を襲う苦痛に身をよじり、膝をつく。
「俺様が何より怒っているのは…勝手に処分しようとしたことと、この騒動で俺様だけでなくハリーまで巻き込んだことだ。おかげでハリーには最悪の形で俺様のかつての所業がばれたうえ、その過去の残骸に貞操奪われかけて…消えるその瞬間でさえハリーを傷つけて。うっかり俺様が石化してしまってから何度一人で泣かせたことか。わかるか?俺様のハリーをどれだけ傷つけたのか。」
 全身を襲う苦痛にかつて見ていた赤い眼の男…主君を思い出すルシウスは歯を食いしばりながら訳が分からないと混乱する。
仮に本人であれば言っていること、息子から聞いている話が理解できないこととなるが、もし噂通り息子であればなぜベラトリックスの名が出ているのか理解できない。
大体息子がいたなんて話聞いたことすらない。




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