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 一人残ったハリーはじっとダンブルドアを見つめた。
「ずっと疑問だったんですけど…なんで僕はパーセルマウスなんでしょうか?」
 サラザールの血を引くヴォルが喋れるのはわかる。だが、なぜ自分が話せるのかはいまだにわかっていない。
あの動物園で蛇の言葉を聞いた時、ヴォルも驚いていたから彼から教わったわけじゃない。
「それは…推測にしかすぎんのじゃが、ポッター夫妻を襲い君を襲ったあの夜、力を失ったヴォルデモートの力の一部が生きのこった君に移ってしまったんじゃないかと考えておる。もちろん、そうしようとしたのではなく、偶然起きてしまったのじゃろう。」
 あの夜、と言われて脳裏に緑の閃光と、女性の声が蘇りハリーはじっとうつむいた。
ヴォルデモートの一部…つまりはあのリドルの日記のように魂の一部が自分に入ってしまったのではないと、震えそうになる手を握り締めた。
「このまままだヴォルと一緒にいて大丈夫でしょうか。僕の中にあるヴォルデモートの魂がもしもヴォルに何が悪影響があるなら…。」
「ハリー、安心するのじゃ。彼はかつての彼ではない。彼は一度赤子に戻りそして欠けた魂が戻った。そのために彼からかつての魂を求めるようなことはないじゃろう。そして意図せず行ったことというのは本当にわずかなものか、あるいはまったっく力を持たない弱い物か…ましてや自身の力が消える直前のことじゃ。今まで通り過ごしておれば大丈夫じゃ。」
 ハリーの手を握るダンブルドアはにこにこと笑うと、実はと使われていないコート掛けを手に取り、杖を振るった。

「ヴォル!!」
「わしがここを離れている間ミネルバに預けておったのじゃよ。そのまま置くのは気が引けたのじゃろう。こうして姿を変えてかくまってくれたのじゃ。」
 ずっとずっと会いたくてたまらなかったヴォルを目の前にして、ハリーは思わず冷たい体に飛びついた。
微笑ましく見守るダンブルドアはスネイプ先生から預かっておると、石化解除の魔法薬をヴォルへとつかった。
 ピクリと動くヴォルはガラスのようだった目を瞬かせ、どこかまだぼんやりした状態で腕の中を見つめる。
腕のこわばりが解けたように動くと、ハリーはしっかりとヴォルを抱きしめた。
「ハリー…そうだ!ハリー!!無事だったか?石になってないか?」
 まだ永い眠りから覚めたといった風のヴォルだったが、抱きしめるハリーに気が付いて慌ててその安否を確かめた。
全身泥だらけで、制服もあちこち破けて、腕に至っては傷こそ見えないものの間違いなく血が流れた痕があって…。
「これは…?」
 はだけられた制服の肩の部分に目を止めたヴォルはハリーに問いかけながら、その瞳を赤く燃え上がらせた。
「これは…」
 リドルにつけられたといえばいいのか。言いよどむハリーが悲しげな顔になったことから、ヴォルは一つ首を振って強く抱きしめる。

「ハリー、無理にとは言わない。ただ、数時間前の記憶を見せてもらっていいか?」
 今にも泣きそうなハリーの頬を包み込み、そっと顔をあげさせるヴォルにハリーは黙ってうなずいた。
どうやるのかは知らないが、やれるといっている以上できることで、決して自分を傷つけることはないだろうとハリーはヴォルの瞳を見つめた。
 微笑むヴォルの瞳が赤く光ったと思えばハーマイオニーのメモから、マートルのいる場所が一口ではないかと気が付いたこと、ロックハートを連れて行ったこと…道が分断され一人でジニーを助けに行ったこと…次々と記憶がよみがえり、早回しするように流れていく。
 リドルが実体化しかかっていることにヴォルは眉を上げて、そのまま記憶をのぞいていく。
 押し倒され、首元に印をつけられたところでヴォルの顔が険しくなるが、ヴォルは黙ってそのままリドルが消えるところまでを見た。
 ふっと記憶の奔流がとまり、ほっとするハリーは今までで一番強く抱きしめられる。
痛いほどの抱擁に、僕のヴォルはここにいると改めて実感してハリーもまた抱きしめ返す。


 腰元に手を置いたヴォルは杖がないことに気が付き、あれ?と首をかしげた。
「おお、そうじゃ。ハリーが預けておった杖を薬とともに預かっておったんじゃ。」
 にこにことほほ笑むダンブルドアに杖を差し出され、受け取るヴォルははっとしてあたりを見回す。
記憶の中で怪我をしていたナギニは机の上で眠っているらしく動かない。
「後で魔法生物学の教授の元に行き、薬をもらうといいじゃろう。」
「ナギニ、ハリーを守ってくれてありがとう。」
 眠っているナギニをねぎらうヴォルは、いまだ自分を抱きしめ続けているハリーをそっと優しく包み込んだ。
半年もの間一人にさせてしまったことが悔やまれて、ハリーの心を埋めるように抱きしめる。
杖を振るい、制服の穴も泥汚れも全部きれいにすると至近距離でじっとハリーを見つめた。
顔を真っ赤にするハリーに微笑み、額に口づける。




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