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扉を開けるとそこには暖炉前のソファに腰を下ろし、泣き伏すモリーとアーサーがはっと振り向いていた。
戸口に立つ泥だらけの4人を見てぽかんとした後まだ少し青白い顔のジニーを見つけて飛びあがり、ぎゅっと娘を抱きしめた。
部屋の中には胸に手を当て落ち着こうとするマクゴナガルと、ほほ笑むダンブルドアの姿があった。
不死鳥は慣れた様子でダンブルドアの肩にとまると、ダンブルドアは一つ頷く。
「フォークス、よく行ってくれた。」
不死鳥、フォークスをねぎらうダンブルドアは抱きしめられるハリーとロンを見てそっと微笑む。
どうやってジニーを助けたのか、何があったのか。矢継ぎ早に問いかける二人にハリーはまずはと、机に剣と日記と帽子、そして怪我をしているナギニを置いた。
ルビーのはめられた見事な剣が一体何なのか、そう問いかける目にハリーは少しためらった後、壁から聞こえる声が蛇の言葉であったこと、真っ先に気が付いたヴォルが石になったこと…
ハーマイオニーのメモから最初の犠牲者になったマートルのいるトイレが入り口ではないかと考え、そこに向かったことを話す。
ハリーがパーセルマウスということに夫妻が驚くが、マクゴナガルの続けてと促すしぐさにロンたちと扉を開いて向かったことを話した。
諸事情でロンと別れてしまった後、サラザール=スリザリンの石像の足元で倒れたジニーを見つけたこと、ダンブルドアの鳥フォークスが帽子を持ってきたこと…そしてハリーが剣を刺したと同時に牙の毒に倒れたこと…それを不死鳥の涙で治してもらい、バジリスクの牙で日記を貫き、過去の幻影を消し去ったことを話す。
「この日記が一体ジニーと…。」
困惑する様子のモリーに、抱きしめられている間もずっと涙を流していたジニーが、この一連の騒動は操られた自分がやったことだと告げた。
「でも違うんです。ジニーはただ…この日記に入っていた魂に、魂を吸われて操られていただけで、彼女は悪くありません。」
しゃくりあげるジニーにすかさずハリーが悪いのはこの日記だと示した。
仕事柄こういったものは見慣れているであろうアーサーもやはり困惑気味で、ジニーになぜと問いかけた。
「この日記は…。」
この日記の持ち主を言えばジニーの無実は証明できる。
だけどそのためには…。
言い淀むハリーにダンブルドアは一つ頷き、口を開いた。
「わしが興味があるのは…ヴォルデモート卿の魂が入ったこの日記をいつ彼女が入手したかじゃな。」
ダンブルドアの言葉に部屋の中が凍り付く。ロンは当然驚いていたが、それ以上にジニーはまだ白かった顔をさらに青白くさせた。
「そっその日記の…トムは…。」
「彼はホグワーツきっての秀才じゃった。かつてトム=リドルとしてこの学校にいた彼を50年前わしが教えておった。卒業後、彼は闇の魔術にどっぷりと入れ込み、危険な魔法や変身などを繰り返し、ヴォルデモート卿として現れた時は当時の聡明でハンサムな首席だったトム=リドルの面影はどこにもなかった。彼がかつてトム=リドルという名であったことを知る者は誰もおらんじゃろう。」
ジニーの悲鳴のような声にダンブルドアは親切に相談に乗っていたトムが、のちのヴォルデモートであったと告げた。
そんな、と震えるジニーにハリーはずきんと胸が痛む。
きっとこの反応がふつうで、ヴォルが…ヴォルの正体が知られてしまったらこんな風に離れていくんじゃないかと、ペンダントを握り締めた。
「ジニー!いつも言っていたじゃないか!脳みそがどこにあるかもわからないのに喋ったり考えたりするものは危険だって!どうしてそんなものを信用したんだ!」
「だって、準備した教科書に挟まってて、日記に良いかなって…そんな…わっわたし。一度は捨てたけど、ハリー達が持っているのに気がついて、もっもしもトムが全部話したらどうしようって…。」
娘の前に膝をつき、どうしてそんなものを使ったんだというアーサーにジニーはすっかり血の気の失せた顔で震えながら答え、ダンブルドアを見つめる。
「処罰はなしじゃ。大人でさえ彼の甘言に乗り操られたのじゃ。今日は医務室でココアを飲んで寝るといいじゃろう。それで…トムが実体化しかけたとのことじゃが、ジニー、君は見たのかの?」
今回、全員が石化で済んだことと、まだ一年生であるジニーが、一時期はその日記を手放そうと捨てたことに並大抵のことじゃないとダンブルドアは優しく微笑む。
最後の問いかけにハリーははっとなってジニーを見た。
ジニーは落ち着かない様子で迷った後こくりと頷いた。
「夏休みの間、ハリー達が家に来ていたと聞いておる。そこで彼の為人は知っておるじゃろう。それを信用したうえで聞いてほしいのじゃが…。このことは今この部屋におるものだけの機密事項じゃ。ヴォル=セルパンとトムは似ておったじゃろう?」
見られてしまっている以上仕方がないと、ダンブルドアは切り出す。ジニーはハリーを見た後、また小さく頷いた。
話が読めない夫妻を見て、それからダンブルドアはハリーへと視線を移す。
「彼とトム…ヴォルデモートは…血縁者じゃ。トムがかつてスリザリンの血を残すべく一人の女性を攫った。何とか逃げ出した彼女を保護したのじゃが、その時にはすでに命が宿っておった。その時に生まれたのがヴォル=セルパンじゃ。」
ヴォルと、リドル…ヴォルデモートとの関係を話すダンブルドアに詳しい話を聞いていなかったロンまでもが驚く。
ハリーとともに血縁者でもない家にいたのには両親が居なかったからかと、ちらりとハリーを見た。
ハリーはハリーでリドルが母を失った話をしていたことと、孤児院にいたことを思い出し、目を伏せた。
「保護した当初は赤子の彼をどうするか…一時的に当時狙われており、最も守りが盤石であり、ちょうど赤子に慣れていたポッター夫妻の元に預けられていたのじゃが…。あの夜、もともとポッター夫妻をつけ狙っていた目的から襲撃があり、ハリーを残して彼は消えた。じゃがその執念は近くにいたヴォルへ呪いをかけてしまったのじゃ。彼自身知ったのは去年のことじゃったが…日を追うごとに不幸にも父親のかつての面影を感じさせてきておる。」
いまだに謎のままとされている襲撃の真相。
もしもこの話が本当にあったとして、ヴォルデモートが自分の血を引く赤子を見つけていたとしたら…何か変わったのだろうか。
「そっそれじゃあ彼のあの金庫は…。」
「ヴォルデモート卿が使っていたものじゃ。ようやく呪いが解けて入れるようになったため、去年彼に鍵を返却したのじゃ。」
グリンゴッツで見たあの全面モザイクが必要なほど酷い金庫を思い出すアーサー達に、ダンブルドアは頷いて見せた。
「じゃからジニー。トムと彼はよく似た別人じゃ。思い出してつらいこともあるかもしれん。じゃが、我を忘れなければ彼はハリーを大事にする一人の少年じゃ。トムではない。」
ダンブルドアの言葉にジニーはわかったと頷く。
大階段を破壊してしまった時でさえ、ハリーが傷つけられたためであるのと聞いているし、何よりハリーをかばって石化した彼が悪い人のはずがない。そんなまなざしだ。
「彼の出自については彼自身の安全のため、決して口外はしないように。彼を一月近く見ていたのであれば、それが彼であり血筋や両親など関係のないことだと、わかってもらえたじゃろうか。」
彼を信じてほしい、というダンブルドアに衝撃で固まっていたウィーズリー夫妻はもちろんだと頷いた。
それにほっとするダンブルドアは今度こそ3人を医務室へ行くようにと促した。
「さて…今回の件について一人やけに静かなのがおるが…いったい何があったんじゃ?」
あれほど大ファンであったロックハートを前にしても、モリーは気が付いていないといった様子だったことに今更ながら思い当たるハリーとロンは顔を見合わせて、実はと経緯を話した。
かつての輝かんばかりの笑顔もオーラも全く見られない。
「なるほど…自らの剣に貫かれたのじゃな。」
「剣!?剣なら彼が持っていますよ?」
ダンブルドアの言葉にマクゴナガルも少し悲し気にため息をつき、調子はずれの受け答えをするロックハートとロンを連れて医務室へと向かった。
去り際に調理場でお祝いの準備をお願いしてほしいというダンブルドアにマクゴナガルは承知しましたと、少し和らいだ声で答える。
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