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『ハリー!!』
叫ぶナギニだが、無理に動いたせいか、すぐに這うことができずしっかりして、と必死に声をかけるしかできない。
「バジリスクはまた生み出せばいい。だが、これで僕の未来を倒し、狂わせた…英雄は消える。」
体と杖はまた探せばいい、とリドルは言い放ち、ハリーへと近づいた。
うずくまるハリーは逃げることができない。
ふと重みを感じて怪我をした右腕を見ると、そこには不死鳥がおり、宝石のような瞳から真珠のような涙がこぼれ、傷を濡らしていく。
「泣かないで…。」
動く左腕でその見た目とは違うしっとりと滑らかな羽毛を撫でる。
ダンブルドアの不死鳥の流す涙が傷を覆い、不思議と体が軽くなっていく。
そこで意識がはっきりしたことにハリーは気が付き、はっとなって傷を見る。
そこにはもう傷痕さえない。
「不死鳥の涙!!そうか!治癒能力か!」
急に動けるようになったハリーにはっとするリドルはジニーから奪っていたのだろう、杖を取り出した。
だが自分の杖じゃないことからかうまく扱えないようで、その凶悪な目が動けないナギニをとらえる。
杖を体で守り、牙をむくナギニにハリーはどうすればとあたりを見回す。
そこにナギニが吹き飛ばした日記が落ちていて、もしこれが彼の依り代であればと自分を傷つけた牙をもって日記へと飛びついた。
「終わるのはお前のほうだ!トム=リドル!!」
はっとふりむくリドルを睨みながら、ハリーは迷わず牙を突き立てた。
これが分霊箱とよばれるヴォルデモートの魂が入ったものであれば…壊してしまえばよかったのだと、苦痛に体をよじるリドルを見つめる。
溢れたインクがまるで血のようで…耳に残る悲鳴が響き、煙が消えるようにリドルの姿もまた消えた。
こわばった手を放すハリーはいつから流していたのか、涙をぬぐう。
ナギニに駆け寄り抱きしめると、そばにやってきた不死鳥にありがとうと何度も伝える。
ひとしきり落ち着いたところで、ジニーは無事かと目を向けると、動かなかったジニーがわずかに身じろぎ、閉じていた目から瞳をのぞかせた。
ナギニを抱えてそばにやってきたハリーをぼんやりとみて…はっとなって飛び起きる。
体がまだ十分に動けないのだろう、ふらつく体を支えると、ジニーはハリーのぼろぼろな姿を見てごめんなさいと泣き出した。
「大丈夫。ジニーはただ操られていただけだ。」
「でも、でも…わっわたしのせいで、ハリーの大事な人…。怖くなって、」
しゃくりあげるジニーにハリーは解決したから、とその背中を撫でる。
「きっきっと退学になる‥。ずっと楽しみにしてたのにっ、闇の魔法使いにっ」
「ジニー。僕には闇の魔法使いが触れられないよう、お母さんが残した呪文がかかっているんだ。ほら、今僕はジニーに触れられている。だからジニーは闇の魔法使いじゃない。ダンブルドア先生も騙されていたジニーを罰することなんてないさ。さぁロンが待ってる。行こう。」
ジニーを促し立ち上がるのを手助けすると、帽子と日記を杖と一緒にわきに抱えて秘密の部屋を後にする。
ハリーの言葉をどこまで信じたかわからないが、それでも少し元気を取り戻したジニーを連れてあの崩れたところにやってくると、やっと通れそうなほどの穴が開いており、そこから懐かしさを感じる赤毛の顔がのぞき込んでいた。
「ジニー!!!あぁよかった!!」
先に穴に通すと、ロンの嬉しそうな声が響き、ハリーは次にナギニと荷物を通して穴をくぐる。
ロンに引っ張ってもらってくぐると思った以上にボロボロだったのだろう。
ロンは妹を抱きしめた時と同じくらいの強さでハリーを抱きしめた。
「ハリーに何か起きたら一緒にいた僕がヴォルに怒われるところだよ。あの鳥は何だい?バジリスクは?」
「あの鳥はダンブルドア先生の不死鳥らしい。助けに来てくれたんだ。話は…後にしよう。早く戻ろうよ。そろそろみんな戻っているかもしれない。」
ロンの質問にジニーが顔をこわばらせる。
それに気が付いたハリーは詳しいことは後、というとナギニを肩に乗せて歩き出す。
ふと、静かなことに気が付いたハリーはあたりを見回した。
それに気が付いたロンはあぁ危ないから置いといたと言って、パイプの終着点へと進む。
そこには鼻歌を歌うロックハートがいて、ハリー達を見るなりよくわからない調子はずれなことを口走った。
「杖が逆噴射して自分が誰かもわからないんだ。」
肩を竦めて見せるロンはロックハートはさておきとパイプを見上げた。
「どうやって戻ろうか…。」
「戻る方法はあるんだろうけど…。」
見上げるハリーはかつてリドルが出入りしていたはずと、パイプを調べるがもともと汚れているせいなのか、それらしいものは見つからない。
困っていると不死鳥が前へと進み出てその尾羽を差し出すようにハリーを振り向いた。
「つかまれってことかな。でも僕らは重くないか?」
「きっと大丈夫だ。みんな手をつなごう。」
不審がるロンにハリーが声をかけ、ロックハート、ジニー、ロンの順で手をつなぎ、ロンはハリーの服を握る。
片手でナギニと帽子と日記と剣を抱え、不死鳥の尾羽を握った。
ふわっとした浮遊感に驚くと、あっという間にマートルのいるトイレへと戻ってきた。
硬い床に足が付き、ハリーは見た目以上にしっかりとした不死鳥の尾羽から手を離す。
どこか懐かしい感じがした尾羽に導かれるように、先導する不死鳥とともにマクゴナガル先生の部屋へ向かった。
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