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「やぁ…ハリー。会いたかったよ。僕がここにいることに対してあまり驚いてないようだね。」
 輪郭が少し発光している青年がハリーの来た入り口をふさぐように立って、黒い瞳をじっと向けていた。
「リドル…。」
「君にはいろいろ聞きたいんだ。なぜ闇の帝王に手にかかって生き延びたのか…。一緒にいる蛇語を操る幼馴染は何なのか。」
 なぜ実体化しているのか、それはわからないハリーにリドルは優しげな顔で…眼だけは冷たいまま笑いかける。
「ジニーに何をしたんだ。」
「そこのおちびさんはずっと僕と日記を通してやりとしていたんだ。毎日毎日、くだらない相談事とかうんざりだ。でもそうやって心の内を開くうちに僕にその魂を吸われているとは思わなかったんだろうね。」
 嗤うリドルにハリーは立ち上がって杖を構える。
 倒れたジニーを巻き込まないよう動くと、じっと見据えた。

「何をそんなに警戒しているんだい?僕の輝かしい活躍を君に見せただろう?」
「見たけどあれは嘘の証言だ。君がハグリッドをはめて退学に追い込んだ。」
 冷たい印象しかないリドルにハリーは睨みつけるようにその黒い瞳を見つめる。
当然同じ顔だが、ヴォルとはまるで違うと睨む力を強めた。
リドルもまたむさぼるようにハリーを見つめ返す。
「君は今度はジニーを利用しようとするのか!」
「かの有名なハリーが自分の兄の親友で、いつも一緒にいるヴォル=セルパンとはとても仲がいいの。あの二人の絆に私が入る余地はない、とか…ほんとうにさまざまだ。決闘クラブで大人顔負けの試合を見せた彼もかっこいいだの…ほんとくだらない。このおちびさんが心の内を開けば開くほど僕に力が入った。まるで夢遊病になったみたい。私の服にペンキがべっとりついているの。ねぇトム、私どうしたのかしら?僕に操られているとも知らず…本当に役に立ったよ。この子はさ。」
 ジニーの声色をまねるかように、口調を変えて再現するリドルにハリーの怒りが満ちる。
ヴォルはこんな奴じゃない。こんなひどい奴じゃない、とリドルを見つめ続けた。

「本当はこんなまどろっこしいことしなくてよかったんだ。ヴォル=セルパンの体を使えば問題ないから。なのに医務室にはそいつはいない。それどころか杖の場所さえわからない。」
 冷たい甲高い笑い声をあげるリドルはほんと役立たず、と急に笑みを引っ込めて吐き捨てる。
「しかし驚いたよ。あの日…バジリスクで誰かを襲おうとした日にあれが大暴れした。その時初めて彼の顔を見たんだ。なぜ僕がいるのか…説明してくれないか、ハリー=ポッター。」
 一歩近寄るリドルにハリーは反射的に一歩と下がる。
リドルは足を止めるとできるだけ優しく…ヴォルが見せる笑みを浮かべた。
半年ぶりのその笑みに思わずハリーの足が止まる。

違うのはわかっている。
けれども…。

 戸惑うハリーに近づくリドルはハリーが反応するより先にとびかかった。
頭を打ち付けて痛がるハリーは自分を押し倒した青年を見上げた。
思った以上に実体のあるリドルにハリーは必死に抵抗する。
「僕が誰か知っているのかい?」
「もちろん知っている!そのうえで一緒にいてとお願いしたんだ!!お前なんかじゃない!」
 両手をまとめて掴まれ、頭の上で固定される。
足を抑えるように座られ、身動きが取れないことにきっ、とリドルを睨み付けた。
「そうだ、僕はヴォルデモート。世界を震撼させるため…穢れた血を流すために生まれてきた。なのに…その僕が穢れた血と友好関係を結び、その上でハリー=ポッター、君を愛していると来た。いったいどういうことなんだ。」
 ハリーの腕を逃がすまいと押し付けるリドルに、ハリーはどうにか逃げる方法はないかとあたりを見回した。
 離れたところに日記を見つけ、あれをどうにかすればと考えたところで突然、シャツのボタンが引きちぎられる。

「こんな貧弱な体のどこがいいんだろうか。全く、老年期に入った僕はどんな趣味を持ったんだか、頭が痛いよ。」
 指先でつぅと撫でられる感覚に、くすぐったさを感じて身をよじるハリーは動けないと分かると、ただ目の前のよく似た別人を睨むしかできない。
「僕の周りに媚びへつらう無能な奴ばかりだったから…そう睨んでくるのも悪くないな。いうことを聞かない奴を無理矢理組み伏せるのもそそられる。」
 冷淡な顔で見下ろしていたリドルは面白そうだと笑みを浮かべ、ハリーの首元に顔を埋めた。
肌を舐められる感覚にぞわりと鳥肌が立ち、必死に首を巡らせる。
ちりっとした痛みが偶然にもヴォルがつけた痕と同じ場所で、嫌だと体を揺すった。

 顔を上げたリドルにドキリと胸が高まる。
感情が高ぶって赤い目をさらに鮮やかにしたヴォルと同じ、赤くなった瞳に心が混乱する。
違う。誕生日に自分を欲しいといったヴォルじゃないと、頭では理解しているのだが、半年という長い期間会えなかったことなどなかったから予想以上に心が悲鳴を上げていたらしい。
ヴォルと同じ赤い瞳にぐらぐらと心が揺らぐ。
「ちがっ…ヴォル…じゃない…違う…。」
 ヴォルに会いたいと募らせた思いが暴走して涙が止まらない。
これは違うのだと必死に頭が叫んでいるのに、心が目の前の非道な、かつての彼をヴォルに重ねようとしてしまう。

「ハリー。」
 優しく名を呼ばれて、理性がぼろぼろと崩れていく。
早く、早くしないとジニーが危ないこともわかっているのに、どうしても心が体が目の前のかつての彼に見え隠れする面影に追いすがろうとしてしまう。




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