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あともう一押し、とリドルは目を細めるとわななくハリーの唇に目を止めた。
『離れなさい!』
 シャーっと鋭い威嚇音が聞こえると当時に、リドルの体が吹っ飛ばされる。
思わず息を詰めていたハリーは荒く息を吐くと、日記を吹っ飛ばしたナギニがハリーの胸へと飛び込んできた。
「ナギニ…。」
『ハリー、あれはご主人様じゃない。あんな冷たい奴、ご主人様じゃない!』
 ハリーが無事か確かめるナギニにハリーは今更になって体の震えが止まらず、その細く冷たい体を抱きしめた。
 立ち上がったリドルは先ほどのヴォルと同じ雰囲気はなくなって、憎々し気にあと少しだったのに、と言い捨てる。
 そこへ不思議な…それでいて聞いたことのある旋律が聞こえ、ナギニとともに目を向けた。確かこの歌は…スネイプが不死鳥とつぶやいていたはず。
 見たことが無いほど鮮やかで美しく光り輝く鳥が、不思議な旋律を奏でながら滑るように飛んできていた。
まるでマグルの絵本で見たような美しい鳥は白鳥ほどあり、見事に長い尾をひるがえし、ハリーの足元に黒い塊を落としていった。
「ダンブルドアの飼い鳥か。」
 今や整った顔の好青年に見えないほど怒りで顔を歪めたリドルは、ハリーの肩にとまる鳥に目を向けてつぶやく。
 見たことが無いはずなのに、どこか懐かしいい美しい鳥は燃えているように見えるのに、心地よいぬくもりしかない。
 落としたものを拾ってみればそれは懐かしい組み分け帽子であった。
なんでこれが、と驚くハリーにリドルの嗤い声が重なる。

「ダンブルドアのよこした援軍はその歌い鳥に帽子か。」
 くつくつと嗤う姿にハリーは帽子を握り締めた。
ナギニがそばにいるが、それと同時に今は学校にいないダンブルドアの鳥がそばにいることが心強く感じられ、奮い立つ。
「ダンブルドアは今や失脚しただけでなく、ついに耄碌したようだ。いいだろう。本当に偉大な魔法使いが誰か教えてやろう。」
 杖を握るハリーを一瞥するリドルは石像に向き合う。
『スリザリンよ。ホグワーツ四強で最強のものよ。』
 パーセルタングを使うリドルに石がこすれる音がして、いつぞや聞いたあの這う音が聞こえてハリーはとっさに目をつぶった。
今石になってしまったらジニーが助からない。

 頬をかすめる柔らかな感触に、不死鳥が飛んで行ったことを知る。
ナギニもまた離れると、大きなものが地面に落ちる音を聞く。
『殺せ!』
 リドルの声にずるりと引きずる音がつづく。
壁際まで下がろうと手探りで歩こうとするハリーは段差に躓いて、したたかに顔を打ち付けた。
リドルの哂い声にバジリスクを倒す算段を考えないと、と冷や汗をかいた。

 あとでヴォルに怒られそうだが、頭に血が上って勢いで来てしまったために対策を考えてなかったと、唸る音が聞こえ強い衝撃ではじかれて壁に体を打ち付けた。
 今に牙が来るかもしれないと身構えるハリーだが、いつまでたっても来ない。
威嚇音がすることから何かと争っているようだが、眼を開けるのも怖い。
いつまでたっても来ない衝撃に薄く目を開いた。
蛇が上へ下へと頭を動かし、牙が空を噛む。
空から狙う不死鳥が急降下し姿が見えなくなると血が迸り、たまらず頭を下げたところでもう一度はじかれたように頭を振り上げた。
 尾が大きく振るわれ、ナギニが部屋の奥へとはじかれる。
思わず頭を上げるハリーに大蛇…バジリスクが振り向いた。

大きな黄色い眼は片や血を流し、もう片方は白く爛れている。
ナギニと不死鳥につぶされたのかと、考えて溜息を吐く。
ふと、そこで手元を尾が凪いだことで杖がはじき飛ばれた。
しまったと思うハリーだが、幸いリドルとは別の方角で、ナギニ!とハリーは声を上げた。
 蛇がハリーのほうを見るが、ちょうどハリーの杖が落ちた音が響き、今度はそちらを見た。
すぐに気が付いたナギニは牙をしまうとハリーの杖を咥えて距離をとった。
『その鳥ではない!小僧のほうだ!そんなものは放っておけ!においでわかるだろう!』
 リドルの声にバジリスクはハリーの方角を見るとジワリとにじり寄った。
大きな体は少し尾を振るっただけで容易にハリーへと当たる。
ふいに何か柔らかいものがぶつかり、ハリーは手元に落ちたそれを見た。


 しゃべらない組み分け帽子に何か助言を聞くことはできないか、そう思って体を低くし、かぶってみた。
何も見えなくなるのは怖いが、助けてと繰り返し呟く。
何も答えない帽子だが、ぎゅとなったかと思うとハリーの頭に何かがぶつかった。
突然の痛みに頭がくらくらするハリーは帽子を脱ぐと、その中に手を入れた。
 つかんだものを引き出せばそれは見事な剣だ。
攻撃する魔法があまりわからないハリーにとってはまたとない武器。
少し重たい剣は大きく振り回すことはできないが突き刺すことはできると、それを構えた。
「こっちだ!」
 やみくもに来られては狙いが定まらないと、ハリーが声を張り上げるとバジリスクは思惑通り真正面から牙をむき出しにしてとびかかってきた。
 無我夢中で剣を突き出すと固い感触がし、何かを…バジリスクの頭蓋を剣が貫く。
やったと、喜ぶと同時に焼けるような痛みが走り、ハリーは右腕を見た。
腕に刺さっているのはバジリスクの鋭い牙。
頭が落ちる重みで折れた牙から灼熱の痛みが広がる。
 牙を引き抜くハリーだが、体が思うように動けない。




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