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「わっ私は出番はないようだ。」
 逃げようとするロックハートをハリーが捕まえると、先に降りるんだと杖で背中を押す。
その姿を見てロンは切実にヴォル早く戻ってきてと、心の中で叫んだ。
どこか据わった眼をしたハリーはロックハートをつつくと、こんなことして何の意味が、という背中をパイプに押し込んだ。
 叫ぶような声が遠ざかり、かすかな水音が聞こえて、大丈夫だそうだとハリーはそこに足をかけた。
その肩をロンが掴むと、ハリーははっとしたように振り向いた。

「本当にハリーはヴォルが大事なんだな。だんだん似てきている。」
 笑いかけるロンにハリーもそっと笑うと先行くね、と明るいいつもの声でパイプに身を滑らせた。
こんな長い滑り台初めてだ、と暗い中をグネグネと降りていく中、だんだん冷たい空気になると突然ぬかるんだ地面へと投げ出された。
泥だらけで起き上がり、杖に光を灯すとそこは薄暗い洞窟のような場所であった。
滑り降りてくる音にハリーが道を開けると、ロンが転がり出てきてやはり泥だらけになる。
「ここが…気を付けて行こう。幸いどっかからか光が漏れているみたいだ。僕が光を灯すからついてきて。」
 足元を濡らす水に気を付けて歩くハリーは、首元からナギニが下りたことを確認する。
ナギニは器用に水から顔を出して進むとその嗅覚をフルに生かして異常が無いかを確認していく。

 曲がったところで水がなくなり、ほっとするハリーは大きな蛇の腹が見えたことで足を止めた。
ハリーの出す光にロンも気が付いたのか、その動かない腹を凝視した。
『これは抜け殻よ。まだそこまで古くはないわ。』
 先を進むナギニが問題ないというと、ハリーはほっとしてその全貌を見た。
ロックハートもまた押し殺したような悲鳴を上げ、その大きな抜け殻を凝視する。
「本当だ…。ナギニの殻よりはるかに大きい…。あ、ここに傷が。」
『あぁちゃんと当たっていたのね。毒は効かなかったけれども何度か牙が当たっていたから。』
 大きな抜け殻に驚くハリーは明らかに脱皮でできた傷でないものを見つけ、かがみこむ。
あの時、ナギニが必死に戦った時に付けた傷。ふっと笑うハリーはロンのギャッ、という声に振り向いた。
ロックハートがロンを押し倒し、テープでぐるぐるのロンの杖を奪って立っていた。
ロンはしたたかに頭を打ったのか、痛ててと頭をさすっている。

「こういう筋書きで行こう。女子生徒はすでに助からなかった。無残な亡骸に二人は気が触れてしまったのだと。私は何とか怪物を退治できたとその抜け殻をもっていけばいい。」
 杖を振り上げるロックハートにナギニが飛び出す。
止める間もなく行ってしまったナギニを追いたいハリーだが、ロンの杖が不穏な光を放っていることに、慌てて抜け殻の向こう側へと滑り込んだ。

「オブリビエイト!」

 ロックハートの声と同時に何かが爆発する音が聞こえ、ごろごろと岩が転がる音がする。
驚きで杖の光が消えたハリーだが、どうやらどこか穴が開いたらしい。
わずかに漏れ出た光が照らす、崩れて閉ざされた道にハリーは目をしばたたかせた。
「ロン!ナギニ!」
「こっちは大丈夫だ。頭お花畑のマヌケは伸びているけど…杖が暴発したんだ。
それと、ナギニは一緒にいて無事だ。ちょっと待ってて、今通れるようにするから。」
 どうしようと焦るハリーにごろごろという岩の音が聞こえ、ロンの声が隙間から聞こえる。
 うーんという声が聞こえてハリーは一緒にやったほうがと考えるが、ジニーもまた心配だ。
「ロン、僕は先に行くよ。もし一時間して戻らなかったら…」
「こうしよう。僕はせめてナギニが通れるぐらいには穴を広げる!ハリーが返ってくる頃にはちゃんと通れるぐらい広いのにするからさ!」
 時間が惜しいハリーにロンははっと息をのんだようにした後ここに小さな穴があるんだ、と言う。
わかったと頷くハリーはかえってよかったかもしれないと杖を握って先へと進み始めた。
ほどなくして現れたのは大きな蛇の扉だ。
同じように開けといえば重々しい響きとともに扉が開き、冷たい空気が流れ込む。
 胸元のペンダントを握るとハリーは秘密の部屋へと足を踏み入れた。

 部屋の中は広く、正面の壁には大きな男の石像が立っていた。
杖の明かりではかえって闇が深くなると光を消し、天上を見上げた。
ここもわずかながら光があるおかげで手元に明かりがあるよりは全体が見えやすい。
石造の足元に倒れるジニーの姿にハリーは慌てて駆け寄った。
白い肌にぞっとするが、それよりも…と震える手でそっとジニーの冷たい手に触れる。
大丈夫だ、クィレルと違う。
 確信を持ったハリーはジニーの頬を叩こうとして、他の気配にはっと振り向いた。




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