------------




「ずっとバジリスクがどうやって移動しているか気になっていたんだ!」
「まさかパイプの中を通るだなんて…」
 早くこのことをマクゴナガルに伝えなければと急ぐ二人だが、職員室には誰もいない。
 どうしようかと困っていると生徒全員に対し今すぐ寮に戻るようにと、拡張されたマクゴナガルの声が廊下に響き渡る。
複数の慌てた足音が聞こえて、とっさにマントがたくさんかかったハンガーの中へと身を滑らせた。
「とうとう恐れていたことが起きました。」
 マクゴナガルの声にまさか誰かが、と青ざめるハリーはロンと顔を見合わせた。
「生徒の一人が拉致されました。怪物に『秘密の部屋』そのものに連れて行かれたのです。」
マクゴナガルの緊張した声にハリーとロンは顔をこわばらせる。
「なぜそのように断言できるのですかな?」
「スリザリンの継承者がまた伝言を残しました。最初の伝言の下に『彼女の骨は永遠に秘密の部屋に眠るであろう』と。」
 スネイプの問いに答えるマクゴナガルの声にフリットウィックのわっと泣く声が重なる。
彼女、という言葉に嫌な予感がしてハリーはロンの腕をつかむ。
ロンもまた嫌な予感がしたのか、その手をすがるように握り返す。
「どの子です?」
 フーチの聞いたことこないほど力の抜けた声に、マクゴナガルはこれ以上ないほど苦痛にゆがんだ顔になる。
「ジニー・ウィーズリー。」
 腰が抜けて座り込むロンにハリーもまたその気持ちが痛いほどわかって、隙間から様子をうかがった。
 もうホグワーツは終わりだと、閉鎖の声が聞こえてハリーは拳を握り締めた。
ヴォルを守るだけではだめだったことが悔しい。

 バタン、と扉が開く音が聞こえてそちらに目を向けると、ニコニコとした様子でロックハートが入ってきたところだった。
 引率をやめて戻って…のんきに眠っていたのか少しうとうとしていました、とにこやかに告げる。
信じられないと睨み付けるハリーだが、それ以上に教員らの目が冷たく、殺気立ていることにロックハートは気が付かないらしい。

「そうだここに適任が。」
 スネイプの声に目を向ければマルフォイと自分を組ませたときのような…、企んでいるときのような顔でロックハートを見ている。
「まさに適任。実は秘密の部屋に女子生徒が拉致されたのです。いよいよあなたの出番というわけですな。」
「そうでしたわねギルデロイ。昨夜秘密の部屋の入口はとっくにわかっていると言っていましたわね。」
「へ?」
 スネイプの妙な撫で声にそうですわね、とマクゴナガルも乗る。
目を瞬かせるロックハートは意味が分からず、自分を見る教員らを一瞥した。
「部屋の中に何がいるのか、怪物の正体は何なのか知っていると言っていました。」
「ハグリッドが捕まってからは怪物と勝負する機会が無くて至極残念だったとか。」
「もっと早くに自由にさせてもらえればすぐに解決できたとも。」
「わっ私はそんな…。」
 しどろもどろになるロックハートに次々と追い打ちがかかる。
ハーマイオニーが溜息をついていた、輝くような顔はもう見られない。
これがこの人の本当の顔かと、あきれたような目でハリーはじっと様子をうかがった。
ハーマイオニーが見たら悲しむんじゃないかと、逃げ場を塞がれたロックハートを見る。
さぁ今こそ行ってきてくださいと背中を押しだすマクゴナガルに、ロックハートは青ざめた顔でわかりましたと頷いた。
「でっではこれから準備をしていってまいります。」
 そそくさと退出するロックハートに厄介払いができたと、マクゴナガルは大きく息を吐いた。
先ほどまでの絶望的な顔から少し笑みを浮かべる先生らだったが、すぐにその笑みは消えて…生徒たちに連絡を、と言い出す。
 解散する教員らが立ち去った後、部屋から出た二人は何も言葉を交わすこともできずに寮へと向かった。


「ではポッターたちはもう寮に戻ったのですね?」
 マクゴナガルの声が聞こえて思わず柱に隠れる。
「えぇ。それにしてもいったい誰が…。」
「石化した生徒たちはみな無事だったと?」
「えぇ。カーテンだけが切り裂かれていましたわ。おそらくは例の少年を探していたのではないかと…。」
 緊張したマクゴナガルの声にポンフリーの声が聞こえて…ハリーはやっぱりと唇をかみしめた。
スリザリンの継承者は魂の器としてヴォルの体を狙っている。
「杖は大丈夫でしょうけど…。そういえばポッターの杖が同一の芯だとか。万が一のことがあります、彼もまたすぐに保護しましょう。」
 杖を握り締めるハリーにロンもまた顔を見て、ハリーの危惧していたことを思い出す。
自由に動けなくなる、と離れるとハリーは今しかないとつぶやいた。

「パイプ…マートル…そうか…あのトイレだ!あのトイレに入口がある!」
「そうか!でも僕たちだけでどうにかなるかな…。」
 ぴんと線が繋がったハリーにロンもまた納得して…不安げにハリーを見る。
「早く行けばジニーは助かるかな…。」
「確証はできない。でももしも…。あぁ!もっと早くにダンブルドアに言うべきだったんだ!ロン!全部つながった!急げばきっと間に合う!」
 ジニーとつぶやくロンにハリーはなんでバカだったんだとロンの肩をつかんだ。
 分霊箱、ヴォルデモートの魂が入ったもの。
 クィレルが持っていたのは髪飾りだった。
 器は何でもよかったんだと、青ざめる。
 あれこそが、あのノートこそが!

そこにナギニがやってきて、どうするの?と首をかしげる。
「そうだハリー!ロックハートに教えてやろうよ!今頃準備しているんだろう。だったら僕たちの情報を教えてさ!」
 ロンの提案に虚を突かれたハリーは瞬きをして…少し考える。
ロックハートの命が軽いわけではないが、ヴォルが石化した際の態度は許せない。
でも本当に本のことが少しでも真実なら…。
「そうだね。そうしよう。僕が寮にいないことが知られたらスネイプとかに探されて身動きが取れなくなる。」
 急ごうと、ナギニを肩に乗せてロックハートの私室へと向かった。




≪Back Next≫
戻る