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 ヴォルが石化したことはすぐに広まり、落ち込むハリーにさすがの双子もからかうことはできず元気出せよ、という。
「ヴォルは今回の襲撃について何か知ったって言ってたのか。」
 ロンの問いかけにハリーは気が付いたことがあると言っていたとあいまいに返した。
「マートルの所にハーマイオニーを迎えに行ったときに何か気が付いたって。」
「じゃあ行ってみるしかないか。あんまり行く気はないけど…。」
 落ち込んでいてもしょうがない、と頭を振るうハリーはロンとともにマートルのトイレへとやって来た。
ヴォルは確かにここで何かを思い出したと言っていたが、かつて在学中に女子トイレに何しに来たんだろうかと首をかしげるばかり。
 ヴォルデモートがそういう趣味あったらちょっと困ると、中に入ろうとして…水浸しになっていることに気が付いた。
 泣いている声に肩を竦めて中へと入り、すすり泣く声のする奥の部屋に向かった。
「だれなの?また私にものをぶつけに来たの?」
 トイレの中にいるらしいマートルの声が聞こえ、いったい誰がそんなことをとロンが返す。
「マートルにぶつけてみよう!頭に当たれば10点、体を通り抜ければ…。」
 わっと泣き出すマートルが水しぶきを上げ、ハリー達は一歩下がる。
「何があったの?」
「知らないわ。U字溝の所で死について考えていたの。そしたら急にあれがふってきたのよ。」
 流してやったというマートルが指し示す先にあるのは黒いノート。
躊躇なく拾おうとしたハリーを慌てたようにロンが押し止める。

「正気かいハリー。魔法のかかった物だったらどうするんだよ。」
「拾ってみないことにはわからないじゃないか。それに…いざとなったら呪い程度ならヴォルのお守りがあるから大丈夫だと思う。」
 今にも今まで聞いた呪いの本について話しそうになるロンを遮り、ハリーは薄いノートを手に取った。
Diaryという印字がかすれており、その下にトム・M・リドルという名が少しにじんだインクで書かれていた。
「この名前…そうだ、トロフィー室でトロフィー磨いているときに例のナメクジが出てこの名前のトロフィーにくっついて…何度も擦ったから覚えてるよ。確か『特別功労賞』を取ったとかなんとか。大分昔だったと思うけど‥あーちょっと何年前かはわからないな…。」
 ぱらりとめくるハリーは何も書かれていないことを確認し、閉じて表紙の名前をなぞる。
さわさわと何かが引っかかり、少し調べてみようとノートをしまった。
こういう時ヴォルが居れば…と考えて、あそこで協力すると引き留めたから、とこぶしを握り締めた。


 結局糸口は見つからず、医務室でヴォルが石化したことを聞いていたハーマイオニーはさっそくバジリスクのことを調べようとして、それらが書かれていそうな本が貸し出されていることに首を傾げた。
「マグルだと伝説の化け物よね。魔法生物だと思うから載っていると思ったんだけど…ちょうど魔法生物学のレポートと重なってしまったみたいで資料が無いのよ。」
 すぐにでも調べたいのに、とつぶやくハーマイオニーはちらりとハリーを見る。
考え込むハリーはあのノートを見ていた。
「現われ消しゴムでも何も起きなかったじゃない。」
「あ、いや別にこれが気になったわけじゃなくて…。ヴォルがそばにいないの、久しぶりだなって。」
 ちょっと慣れてはきたよ、とさみしげに笑うハリーにハーマイオニーはごめんなさい、という。
「ねぇハリー。差し支えなかったらでいいんだけど、どんな約束したのかしら?」
 最近元気のないジニーをフレッド達がロンを巻き込んで励ますのを見て、ハリーに尋ねる。
え、と顔を上げたハリーは恥ずかしいんだけどと顔を赤らめた。
「昔いとこのダドリー達にいじめられて…何言われたんだったっけな。物陰で泣いていたところをヴォルに見つかって。そのころのヴォルは僕のことを嫌ってたし何か言われんじゃないかって身構えていたらいきなり抱きしめてきて…その…。」
 側にヴォルが居ない分、やはりさみし気なハリーは思い出を口に出すことで、懐かしさで空いた隙間を埋めるように口を開いた。
「びっくりしてたらお前は俺ものだから勝手に泣いたり、いじめられたりするなって。困った顔も泣いている顔も全部俺以外でするな、俺の傍から離れず、ずっとそばにいろって。すっごい真剣だったし、抱きしめる手が温かかったから迷わず頷いたんだ。…そのあと足滑らせて階段3段くらい落ちて…すっかり自分で約束させたこと忘れてたけど、僕がそばにいったら当たり前の顔していて…。あ、そういえばそのころからずっと一緒に寝ているんだ。」
 これがヴォルの忘れた約束、というハリーにハーマイオニーは変わらないのね、と笑う。
思い出すまで僕の気持ちは絶対に伝えない、というハリーをハーマイオニーは優しく見守った。


 進展がないままバレンタインになり、ロンとハリーは大広間に入ろうとして立ち尽くす生徒の群れにいた。
紙吹雪が舞う大広間はピンクで飾られていて、あちこちにハートの飾りがされている。
そわそわした様子のハーマイオニーを見つけて傍に座ったロンはベーコンに乗った紙をどけていったい何の騒ぎなんだと問いかける。
 ハーマイオニーが答えようとして…皆さん、という声にロンとハリーはそろってうめき声をあげた。
今この場にヴォルが居なかったことは、ロックハートにとっては僥倖だったのだろう。
でなければ一瞬にして火の海になっていてもおかしくはない。

「バレンタインおめでとう!私宛にメッセージをくれた皆さん、本当にありがとう。皆さんを驚かせようと、サプライズを用意しました!これだけではありません。」
 声高らかに語りだすロックハートが手をたたくと羽を付けたおじさん…小人が不機嫌そうな顔を隠しもせず入ってきた。
 ますます、ヴォルが石化していたおかげで小人も、ロックハートも命があると、顔を引きつらせる。
ヴォルの手が染まらなくてよかったと今日一日メッセージを配るというロックハートを見る。

ヴォルが石化していることを知らない生徒はいない。
だから今年は届かないだろうが…どうだろうか。
去年はいろいろな騒動があったにもかかわらず、朝起きたらバレンタインのメッセージが届いたヴォルは不快な顔をして問答無用で燃やしていた。
手渡しも拒絶し…ハリーが居ればそれでいいと、横にいたハリーを抱きしめてどこかで黄色い声が上がった気がしたが、今でもその意味が分からない。
 愛の妙薬ならスネイプ先生に聞くといいでしょう、というロックハートが指し示すほうを見て…あの顔のスネイプに声をかけれるのはヴォル以外いないと冷や汗をかく。
 巻き添えを食らったフリットウィック先生なんてひっくり返って姿が見えない。

 ふと、再三ヴォルが欲しい欲しい言っていた魔法薬の本を思い出した。
ひとまずヴォルの荷物をしまおうとして、凍った瓶が入った箱を見つけた。
一緒に来ていたハーマイオニーがアッシュワインダーの卵かしらと言っていたからそうなのだろう。
勝手にあさるのは気が引けたが、見慣れない例の魔法薬の本を見つけてパラパラとめくって…アッシュワインダーの卵を使う魔法薬を見た。
誰に飲ませるつもりだと、心の中に黒い渦が現れて、バタンと荷物を閉じた。
 ロックハートの嬉しそうな顔を見ながらどこであんなもの手に入れ…と考えて、思わず小さく声が出る。
ロンがトロフィーを磨いていたあの罰則の時…。
よく持ってこられたなとなんだかおかしくなって小さく笑みをこぼした。
誰に使うかわからないが、しょうがないなと笑う。
 僕はこんなに好きなのに、と笑みを浮かべ…この後のことについて心をしっかりしないと、と気合を入れなおす。
 



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