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「わかってくれハリー。俺にとって初めてできた大切な存在なんだ。俺にとって初めての癒しなんだ。ハリーを壊したくはない。」
「壊れない!僕は絶対にヴォルを残して心を壊したりしない!ねぇヴォル、僕の顔を見てよ。ヴォルにもしものことがあった時のほうが壊れちゃうよ。ヴォルが居るからこそ、僕は僕で居られる。だから、僕にも手伝わせて。」
自分の腕を抑えるヴォルの手を振り払い、背中に腕を回してしっかり抱き着くと、ハリーは顔を上げて至近距離でヴォルと見つめあう。
葛藤するヴォルは強くハリーを抱きしめた。
耳を寄せる、今ではすっかりハリーより背が高くなったヴォルの胸元からどきどきと少し早い音が聞こえて、ハリーはうれしくて隙間がなくなるよう、さらに身を寄せた。
「わかった。ただあれを見つけて退治するだけでは、分霊箱に通じているものが見つからなくなってしまう。とにかくあれが居る秘密の部屋に通じる道を見に行くところだ。」
ハリーが居るとこんなにも心が穏やかになる、と少しだけ手の力を緩め、仰向くハリーと目を合わせる。
心配げな緑の目を見つめ、そのまま唇に視線を移す。
「今年の誕生日…ハリーが欲しい。」
唐突にぽつりとつぶやくヴォルにハリーはどういうこと?と首を傾げた。
プレゼントも欲しいけど、なによりハリーが欲しい、とそう繰り返すヴォルに首筋の赤い印が熱を持った気がして、ハリーは顔を赤らめた。
あと一週間ほどに迫った誕生日、もうプレゼントは準備できている。
でも、とハリーはヴォルの胸元に顔を埋めてこくりと頷いた。
いくら外見が若いといっても精神はかつてのヴォルデモートに近いはず。
実質70歳近い彼にとっては早いわけではないだろう。
自分は少し早くてもいいかな、とハリーは考えとくよとあいまいな返答を返した。
くすっと笑うヴォルはそっとハリーの頭に口づける。
「ハリー…。秘密の部屋は…マ…しっ!動くなハリー。ちょっと眼鏡を貸してほしい。」
「度が入ってキツイと思うよ?」
何かを言いかけたヴォルは何かの気配を感じたのか、再びハリーを強く抱きしめ、眼鏡を抜き取った。
こんこんと杖でたたく音から何か魔法をかけたらしい。
「見えないわけじゃない。俺は眼鏡をかけると逆に見えなくなるからレンズが遮蔽物扱いされるはずだ。ニック越しに見たジャスティンのように。念には念で一応レンズに魔法をかけておいたから一回程度なら防げるはずだ。でもハリーはあれを直接見てはいけない。ハリーにとって眼鏡は視力を上げる…眼の様なものだ。鏡とか遮蔽物ごしとか…間接的であれば石化で収まる。それと…ハグリッドは巻き込まれただけだ。アクロマンチュラはただの肉食の蜘蛛の化物だ。だから蜘蛛の後は追うな。」
眼鏡をかけたらしいヴォルの言葉に化物が何なのか、それを聞こうとしたところで不快なずるりという音を耳に拾う。
【見つけた…俺の行く手を阻む…】
冷たい声にパーセルタングだと気が付いたハリーだが、ヴォルがしっかりと抱きしめていてほとんど動くことができない。
足元を何かがかすめ、ハリーは必死に息をひそめた。
ナギニよりはるかに大きな体を感じ、震える。
やがて音が聞こえなくなり、ハリーはほっと溜息をついた。
終業の鐘が鳴り、生徒が出てくる音が聞こえる。
え?っとハリーは耳を澄ませた。生徒たちの声は聞こえる。なのに。
「ヴォル?」
耳元で鳴り響くのは自分の鼓動だけでないことを祈るハリーは誰かが二人を見つけて叫んだ声に肩を震わせた。
「ヴォル?」
抱きしめていた手がこわばってしまってうまく動けない。
だが、ハリーが動いていることに気が付いたのか、誰かがハリーの体を引っ張った。
腰が抜けてそのまま座り込むハリーはぼやけた視界の中、何かを…自分を抱きしめた形で固まるヴォルを…呆然としたように見つめて思わず手を伸ばす。
揺れた拍子に眼鏡が落ちてヴォルの裾をつかむ手に落ちる。
それをかけて再び見上げたハリーはふつりと意識を失った。
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