------------
「地下牢の石壁だ。」
すれ違いざまに二人に聞こえるようつぶやくヴォルに、クラッブがぎょっとしたように振り向く。
「どうせいつものように談話室の場所が分からなくなったんだろう。さすがに今の合言葉はわからないが…純血かそこらだろう。」
『ハーマイオニーはどこだ?聞きたいことがある。』
鼻先で嗤うヴォルにゴイルとクラッブはただ眼を瞬かせるしかない。
小さく蛇語でハリーに尋ねるのにハリーはあたふたしながら嘆きのマートルがいる2階女子トイレだと小さく答えた。
ゴイルの口ではうまくパーセルタングは話すができなかった。
頷いて去ろうとしたヴォルはパーシー、と声をかけた。
つられるように振り向けば怪訝な顔のパーシーが居て、珍しく自分に声をかけたヴォルを見つめ返す。
何か言われたのか、あたふたしてヴォルとともに歩いていく。
ヴォルに秒でばれたことに焦る二人だが、互いを見てもどう見てもクラッブとゴイルで…これはハリーセンサーが働いたな、とロンはハリーを促し歩き出す。
地下牢の階段に足をかけたところで上がってきたマルフォイと出会う。
「こんなところにいたのか二人とも。」
見せたいものがあると、特に何も不審には思わなかったのか来た道を引き返すマルフォイは石壁に向かって純血というと談話室へと入っていった。
光に満ちた温かなグリフィンドールとは違い、湖の中が見える窓からゆらゆらと揺らいだ光のようなものをなげかけ、どこか冷たい印象のスリザリンの談話室は静かな雰囲気相まって、なれない二人には不気味に映る。
マルフォイが二人に見せたかったというのはある新聞の切り抜きだ。
新聞にはアーサー=ウィーズリーのあの空飛ぶ車が…貴重なあばれ柳にぶつかったことなどが書かれていて、ハリーがちらりとクラッブを見ると強張った顔で記事を見つめていた。
「全く面白い話だろう?マグルびいきの一族なんだ。さっさと杖を追ってマグルの仲間にでもなればいいというのに。」
そう思うだろう?と振られてむりやり低く笑って見せる。 反応が遅かったかと思ったがどうやらうまくごまかせたようで前から気に食わないだのなんだの言いたい放題まくりたてる。
「それにしても日刊預言者新聞にもまだホグワーツのことが出ていないとはな。大方ダンブルドアが口止めしているんだろう。こんなこと外に知れたらすぐ終わりだ。父上はいつもおっしゃっているからな。ダンブルドアがいることが最悪だって。あのカメラ小僧…クリビーとか言ったかあんなクズみたいなやつを入学させるなんてどうかしている。」
新聞の切り抜きをしまうマルフォイは鼻先で嗤うとコリンの真似をしてカメラを構えるふりをした。
「ハリー、こっちを向いて。ハリー写真にサインを書いて。」
ばかばかしいと手を下げるマルフォイにゴイルは無理やり笑い返す。
満足したらしいマルフォイはハリー=ポッターと繰り返す。
「あんな穢れた血と付き合って…大体みんながあいつがスリザリンの継承者だと言っている。冗談じゃない。まだあのホモ野郎のほうが継承者だとうわさされるのは組み分け帽子の誤りだと考えられるけどな。」
面白くなさそうなマルフォイに違うのかとクラッブが見つめる。
「誰が化け物を解き放った“スリザリンの継承者”だかわかれば手助けできるのにな。」
「継承者が誰かはわかってないんだな。」
「何度も言わせるなゴイル。このことについて父上は継承者に任せてかかわるなときつく言われている。大体部屋が開いたのは50年も前の話だと聞いている。穢れた血が一人犠牲になってたそうだ。今回もまた誰か犠牲になればいいのに…例えばあのハーマイオニー=グレンジャーあたりとかな。」
何度も言っているだろう、というマルフォイにあの二人何回聞いても端から忘れてそう、とあいまいに笑う。
それよりも冗談にしてもとこぶしを握り締めるロンをハリーが小突く。
50年以上前なのはわかっている。あれはかつてスリザリンにいたヴォルがやったはずだ。
「その犯人は捕まったのか?」
クラッブの言葉にマルフォイはそうらしいと頷いて見せた。その言葉に目を瞬かせるハリーは捕まった?と繰り返した。
「誰だったかはわからないが、当時の誰かがその犯人を見つけたらしい。まぁ捕まってアズカバンにいるだろうな。」
父上も噂程度しか知らないというマルフォイにゴイル…ハリーは顔を青ざめさせた。ヴォルデモートは捕まってはいない。
おそらく、誰かを利用したのだろう。
ハリーにとって大事なヴォルがかつてヴォルデモートとしていた時…想像以上にひどいことをしていることに頭を殴られた気持ちになり、知らず拳を握り締めた。
「父上からはそれ以上は聞いていない。父上もそれどころじゃないからな…。ほら、先日魔法省が輩に立ち入り検査をしにきて…。幸い大変なものは応接間の床下に隠してあるから見つからなかったんだけど…。」
言い淀むマルフォイが顔を上げ…眉を寄せてクラッブを見る。
ゴイルもまたクラッブを見て…赤毛が見えてきたことに腹が痛いと二人同時に叫んで脱兎のごとく談話室を飛び出し本物の二人を閉じ込めた物置の前までやって来た。
靴のサイズが合わなくなり、転びそうになるハリーだが、目を覚ましたらしい中から戸を叩く音に靴を置いて急いで女子トイレへと駆けこむ。
個室に入り、元に戻る体にようやく息をついた。
着ていたスリザリンの制服を脱いで、置いておいた自分の制服に腕を通す。
あれ?と着替えるハリーはあの変身で破けた個所を触って、それが跡形もなくふさがっていることに首を傾げた。
「後でパパに手紙を書いて今度調べる時は床下を調べるよう言わないと。」
自分の体万歳と喜ぶロンに苦笑するハリーはハーマイオニーがいたはずの個室の戸が開いていることに首を傾げた。
「ハーマイオニー、どこに行ったんだろう?」
空になった鍋などがそのままで顔を見合わせると一枚の紙が張り付いていることに気が付いた。
「あ、これヴォルの手紙だ。手違いで猫の毛で変身したハーマイオニーを医務室に連れて行くって…猫!?」
「それでハーマイオニー出てこれなかったのか…」
なるほど、と納得するハリーはいつもならすすり泣くマートルがいるはずなのに、それも静かなことに首をかしげる。
彼女はまた別の個室で何やら難しそうな顔でふたの上に座っていた。
そっとしておこうと、医務室に向かうとハーマイオニーは元に戻れるまでしばらく面会禁止だと、追い返されてしまった。
石になった人とは違って一週間ほどで直るといわれてほっとするロンはきょろきょろとするハリーに目を止めた。
どうやらヴォルを探しているらしいハリーの背後から、闇から生まれたかのように手が伸ばされ、そのまま抱きしめる。
|