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 体に異常をきたしている今、しばらくは魔法の使用を禁止します、とマダム=ポンフリーに言われ、ヴォルは制限かかけられた杖を見てだろうなとため息をついた。
「あの一件でハリー以外にもパーセルマウスが居たっていうことで、ハリーの誤解は解けたみたい。」
 階段のケガで同じように医務室にいるハリーに今日の授業分よとノートを手渡すハーマイオニーにハリーは苦笑いを浮かべる。
 ヴォルが大暴れした結果、大階段は3日たった今でもあちらこちら修理中で、窓もまだ完璧には直っていない。
 強い破壊の力が動いたせいで城全体にかけられた加護の呪文等々が崩れてしまったため、それを直しながらの作業は魔法の力を使っても簡単ではないらしい。
「それにしてもあれはなんだったんだい?」
 あの光の帯に包まれている間何も見えず、ただ不思議な歌が聞こえたというロンにヴォルとハリーは顔を見合わせた。
「もともと俺の持っている杖はヴォルデモートの杖だ。それと同時に、これはハリーの杖と同じ鳥からとった不死鳥の尾羽が入っている。」
「オリバンダーさん曰く、兄弟杖っていうらしくて直前呪文?とかいうのをかけてしまうらしいんだ。」
 この杖は正真正銘の例のあの人の杖だというヴォルにロンは驚き、ハリーの説明にハーマイオニーはなるほどと頷いた。
「じゃあスネイプと話していた女性はもしかして…。」
「ハリーの母…リリー=ポッターだ。」
 言い淀むハーマイオニーにうつむくヴォルはつぶやくように彼女の正体をこたえる。
「スネイプと知り合いだったのかしら。」
「さぁ…。よくは知らないけど…。」
 あの時は無我夢中だったからというハリーにヴォルは思い出したのか、柄にもなく顔を赤らめてじっとハリーを見つめた。
 ハリーもまた、大胆過ぎたかと顔を赤らめてよかったという。
 割と近くで見ていたロンたちもまた、光の檻が消えたと思ったらハリーがヴォルを押し倒してキスしていたのを見てしまい、テレ恥ずかしくなって目をそらす。

「そういえばあの時、ヴォルはダンブルドアに何を伝えに行こうとしたんだい?」
 ハーマイオニーの叫び声に引き返したらしいヴォルはあの時何を伝えに校長室に向かったのかと、そう問いかけるロンにヴォルは少し考えてから口を開いた。
「あぁ、蜘蛛が逃げていく姿が気になってな。アラコグという蜘蛛が何だったか…あれは逃げたかっただけであれは違うのだと、そう伝えたかったんだ。」
 アラコグが何を意味するかは分からないというヴォルは何か引っかかるという。
「なんだいそれは。」
「いや、ダンブルドアに聞けばわかると思ったんだが、仕方がない。もう一人…誰かが覚えていると思ったんだが…誰だったか。」
 首を振るヴォルはつぶやくようにいうと、ずきんと痛む頭に思わず手で支える。
 
 
 階段が完全に直ったのはクリスマスが目前となったころだった。
ヴォルの大暴れっぷりはあの時いなかった生徒にまで伝わり、同室の友人たちでさえ今までより少し距離をとっていた。
 特に気にしていない風のヴォルは朝から確かめたいことがあると、そう言って出かけてしまった。
夕食時には遅れてダンブルドアが入ってきたことからおそらくはヴォルと何か話していたのだろう。
スネイプの姿が見えないことから今はスネイプの部屋かとハリーはため息をついた。
 ヴォルが居ないその間にと、ハーマイオニーが今朝薬の完成報告と同時に二人に出した作成に不安を覚える。
「クラッブとゴイルの髪なんて…うへぇ。」
「私だってあの女のを飲むのよ。少しは我慢なさい。」
 不満そうなロンにぴしゃりと告げるハーマイオニーは眠り薬入りのケーキを渡す。
こんな仕掛け引っかかるわけないと、さすがにハリーも不安になって…にんまりした顔のまま眠った二人にあきれてロンと顔を見合わせた。
「どうやったらここまで馬鹿になれるんだ?」
「さぁ…早く運ばないと。」
 物置に引き釣り込み、靴を拝借してハーマイオニーのいる嘆きのマートルのトイレへとかけっていった。
「この薬にその髪を入れて。そしてそれを飲むの。効果は60分だから無駄にはできないわ。」
 何でもないことにように説明するハーマイオニーにロンは顔をしかめた。
ゴイルの毛を持つハリーもまたあのごつごつといかつい顔を思い出して…でもこれでかつての話が分かるならとポリジュース薬にそれを入れる。
 シューシューと色の変わった液体はハリーはカーキ色、ロンはにごった暗褐色、ハーマイオニーは嫌な黄色になった。

 個室に入り、意を決して呑み込むハリーは煮込みすぎたキャベツのような味に吐き気を覚え…体が変化していく苦痛に身を歪めて耐えた。
 びりッという音から服が破れたことを知り、足が窮屈に蠢く。
 急な変化は唐突に終わり、なんとか着替えたハリーは自分の腕が見たこともない大きさになっていて、それが動いているのが不思議な気分だ。
 眼鏡をはずしたほうがクリアに見える世界になんだか変な感じがして、自分の顔を鏡で確認するクラッブ…ロンを見る。
「すごいや…本当にクラッブだ。」
 ぺちゃんこの鼻をつつくロンは低い声で感心したようにつぶやき、ハーマイオニーのいる個室を見る。
 まだ彼女は出てきていない。

「ハーマイオニー大丈夫かい?」
「あぁごめんなさい。ダメなの。私行けないの。」
「あのミリセント…何とかってやつがブスなのはわかっているさ。さぁ出てきなよ。」
 甲高いハーマイオニーとは違う声が中から聞こえ、とても焦ったように…困ったように聞こえてハリーとロンは顔を見合わせた。
困惑した顔のクラッブはなんだか見慣れた顔で、もう一度ハーマイオニーと呼びかける。
「ごめんなさい、時間が無いわ。二人だけで行ってきて頂戴。」
 ダメなのと答えるハーマイオニーの言葉に慌てて時計を確認する。
時計はすでに5分経過していた。二人だけで大丈夫かと不安になるハリー達だったが、仕方がないと気を付けながら廊下に出て…どこが談話室だろうかと顔を見合わせた。

「大広間だと…地下牢に続く階段近くから上がってきてたよな。」
「じゃあそっちに行ってみよう。」
 幸いにもだれもいない廊下で、二人は互いを確認しながらより“らしく”見えるようクラッブとゴイルを意識して歩いていく。
「あれがアラコグか…ロンが見たら卒倒しそうだな。」
 ぶつぶつとつぶやく声が聞こえ、反射的にゴイル…ハリーがその声の主に目を向けた。
視線に気が付いたのか、ヴォルは顔を上げると、不審な目を向けて近くなるのを何も言わず去ろうとする。




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