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 スネイプの意図が分かったハーマイオニーとロンはしっかりハリーとナギニを抱えて…腕時計に引かれるがままにスネイプの元へとやってきた。
「なにがあったのかね?」
 気絶したハリーが階段下にいたことからおおよそはつくが何があったのか…呪文で気絶しているのかそれとも頭を強く打ったのか、見定めるため詳細を訪ねる。
 階段から落ちる直前赤い閃光がかすめたというハーマイオニーに怪我が原因か、と懐から小瓶を取り出し、それをかがせる。
 瞼を振るわせるハリーがぼんやりと目を開けると、のぞき込むハーマイオニーとロン、スネイプに目を移してはっと腕の中のナギニを見る。
 ぐったりしたナギニは動かない。
「大丈夫だろう。失神呪文が当たったようだ。あとで魔法生物学の職員に見てもらった方がいい。それよりも、あれをどうにかしたまえ。」
 動かないナギニを見るスネイプは生きてはいると答えると、爆発音が響く方を示した。
眼を瞬かせるハリーだが、気絶していた自分の傍に彼がいないことにはっとなって青ざめる。
起き上がろうとして膝をついたハリーをとっさにスネイプが支える、
顔を上げたハリーの目にはダンブルドアから放たれた呪文を跳ね飛ばし、無差別に何かしらの呪文をぶつけている…赤い眼の少年を目に入れた。
 怒りで我を失っているか、赤く光る眼は誰も見ていない。
 体が悲鳴を上げるように鼻から鮮血が落ち、床を濡らしているがそれすらも気が付かない様子で杖からだけでなく全身から何かを放っている。
「とっとめなきゃ。」
「ハリー、無茶しないで。」
 再び起き上がろうとするハリーを慌ててハーマイオニーが押し止めるが、階段の装飾が破壊され、身を縮こませた。
 どうやれば、と杖を握りハリーははっとして自分の杖を見つめる。


「スネイプ先生、やったことないけど、ヴォルを止めたい。」
 だから支えてほしいと、眼で訴えるハリーにスネイプは眉を寄せつつ、立ち上がってハリーを引き起こす。
心配げなハーマイオニーとロンに大丈夫と頷き、杖を構える。
「あのロックハートを飛ばした呪文、なんていうのか教えてください。」
 ダンブルドアでさえ抑え込むのに手いっぱいな様子に果たしてオリバンダーの言う現象が起きるのか、不安な面持ちのハリーにスネイプは武装解除呪文だと、その名前を教えた。
 ハリーが目を覚ましたことに気が付いたダンブルドアはハリーに真剣なまなざしを向けて一つ頷いて見せる。
「ヴォル!!!エクスペリアームス!」
 ハリーのありったけの声にヴォルがピクリと動き、その杖先がハリーへと向かう。
 ハリーの唱えた呪文がまっすぐヴォルに向かって飛び…光があふれ、ハリーを支えるスネイプごと3人を光の折で包み込む。


 どこか不思議な旋律が聞こえる空間ではハリーとヴォルの杖が光の帯で結びつき、その間を光の玉がじりじりとヴォルに向かって動いていた。
 ほかの音が消えたことにスネイプはハリーとヴォルの杖が共鳴していると、あの決闘の際組まなかった理由に行きつき、旋律に耳を傾けた。
「不死鳥の旋律…まさか…。」
 光の檻の向こうにいるはずのダンブルドアを思い浮かべ、これ以上ないほど眉間の皺を深くする。
「ポッター、その光の玉をセルパンに向かうよう強く念じるのだ。」
 共鳴により何が起きているか、それは明白ではないが、あの光の玉が近づくにつれ杖が震えていることからとにかくそれを押し出すよう、震えるハリーの腕を支え、押し出せと助言する。
ハリーもまた何が起きているかわかっていないものの、これがオリバンダーの言っていた共鳴であると判断して、光の玉を強く押し出した。
 驚いた様子でまだ正気に戻っていないヴォルの杖に球が触れると、耳に痛い叫び声が響き、次々と幻影が現れ、消えていく。
 トロールの叫び声にかつての魔法が逆再生されていると、ハリーは痛む頭を叱咤してぼんやりと考えていた。
 羽の幻影が浮かんで消え、リンドウ色の炎がふわりと消える。

 ぶわりと、何か大きなものが花開くようにあらわれると、驚きで力が抜け、光の玉がヴォルの杖から少し離れた。

「リリー。」
 呆然としたようなつぶやきが聞こえて、ハリーは目を離すことができず、現れた女性をただ凝視するしかできない。
 スネイプがリリーと呼んだ女性は光の帯でつながるヴォルとハリーを見て、そっとハリーに笑いかけた。
「ハリー、こんなに大きくなって。」
「お母さん?」
 うっすらと赤く見える髪をした女性は膝をついて、愛し気にハリーの頬を包むように手を伸ばす。
その間も光の帯は消えず、ただヴォルからの力もさらに弱まったことでちょうど中間に球が漂う。
「ハリー、彼のことは…もう知っている?」
「うん…。ヴォルデモートだってことは知ってる。本当はお母さんたちを…。でもヴォルは大好きなんだ。ヴォルデモートだってことも、ひどいことをした闇の帝王だったことも、わかっているのに‥。ごめんなさい。」
 うつむくハリーの目から涙がこぼれ、リリーの手をすり抜けて床を濡らす。
困ったように笑うリリーは気にしないで、というとあやすようにハリーの髪を撫でた。

「いいのよハリー。むしろ、私が思い描いたことになっているようで安心したわ。彼が大事?ハリー。」
 いいのよとほほ笑むリリーはそっと頬を包む様に手を添える。涙をこぼすハリーはこくりと頷いた。
「とっても大事。二度と人を殺させない。」
「じゃあとびっきり彼がびっくりすることをしてあげなさい。きっと驚いて正気に戻るわ。ハリーが突然されたら驚いて転んでしまうぐらいうんと驚かせて。」
 さぁ、杖のつながりを断ち切って、と促すリリーに自分が驚くこと、と考えたハリーは徐々に正気を取り戻しつつあるヴォルを見つめて、こくんと頷いた。
 えいっと光の帯を断ち切るハリーはそのまま駆け出すと、突然繋がりが消えたことにバランスを崩したヴォルに飛びついた。

 とっさにハリーを抱きとめるヴォルの唇にぶつかるように自分の唇を重ねる。
「んっ!!!!!??????」
 ぱちりと、眼が元の赤い眼に戻るとハリーに飛び掛かられた勢いのまま後ろに倒れこんだ。
無防備なまま頭を強く打ち付けるヴォルはずきずきと頭が痛むがそれよりも目の前で起きていることに衝撃を覚えてハリーを抱きしめ返す。


「あの二人、仲いいわね、セブルス。」
 くすくすと笑うリリーは徐々に影を薄くしながらずっと自分を見つめ続けるスネイプに微笑みかける。
「ありがとう、ハリーを守ってくれて。よかったわね?あのままつながっていたら次はジェームズが来ていたわよ。」
「本当にそうならずによかった。」
 いたずらっぽく笑うリリーにスネイプはふっと鼻先で嗤うと小さく口角を上げて少しだけ表情を和らげる。
「今はもうすぐ消えてしまうけど、多分そう遠くないうちにまた会える気がするわ。」
「それはどうだろうな。まぁ、何かしら模索しそうではあるな。」
 さすがに起きたてで無茶をしたせいか、そのまま気絶したハリーに慌てるヴォルだが、明らかにキャパオーバー起こしていた彼もまたそのまま気絶する。
光の檻もほとんど消え、リリーもまた姿を消しかけると思わずスネイプが引き留めるようにリリーに手を伸ばしかける。
「大丈夫。また会えるわ。今度はジェームズも。」
「それは、いらない。」
 ふわりと、直前呪文の効果が消え、リリーは消えた。
 ため息をつくスネイプは一つ眼を閉じると…開いた後に広がる大惨事後にどうしたものかといつもの倍顔をしかめた陰険教師の顔で周囲を見回した。
 直すのもそうだが、生徒へのケアもしなければならないだろう惨状に、マクゴナガルと目があい、肩を竦められて…微笑みかけられたことに眉間の皺を深くした。





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