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蜘蛛が窓辺から逃げるように列をなしているのを見たのはそれから数日後の休日の昼だった。
気味が悪そうにするロンと違い足を止めたヴォルは小さくアラコグとつぶやいた。
「ちょっと爺の所に行ってくる!」
 急に走り出すヴォルはダンブルドアの元へと向かい、おいて行かれた3人は顔を見合わせた。
「爺って…もしかしてダンブルドア校長のこと?」
「でしょうね…。あら?ナギニ?」
とんでもない、という顔のロンにハーマイオニーは苦笑し、階段を降りようとして廊下の角から慌てて逃げてきたナギニを見て足を止める。
 魔法の光が見えて、慌ててハリーがナギニをつかむと追いかけてきたらしい生徒をにらみつけた。
「ポッター!俺たちはスリザリンの化け物を退治しているんだ!」
「そいつをかばうということはやっぱりお前がスリザリンの継承者だな!」
 杖を片手に来たのは私服のため寮はわからないが明らかに年上の男子生徒たちだった。
「違うわよ!それにナギニはヴォルのペットよ。」
「そうやってお前らは媚を売って襲われないようにしているんだろう!」
 反論するハーマイオニーに怒鳴る生徒はハリーの腕の中で怯えた様子のナギニに杖を向けた。
ハリーが慌ててかばうようにするとますます怒ったようで無罪というなら蛇を出せという。
「ナギニは毒こそすごいけど、今回石化した人は誰も毒なんてかかってないしかみつかれてもいない!勝手な妄想でいじめるのはやめて!」
「スリザリンときたら蛇が化け物だっていうのは決まっているんだ!この城から蛇を一匹残らず消せばこのうっとうしい団体行動もなくなる!そんなに蛇をかばうとお前にも痛い目見せてやる!」
 赤い閃光が走り、驚くハリーだが胸元のペンダントが熱くなったかと思えば当たる直前で魔法が消える。
 だが音までは消えずに驚いたナギニが飛び出しそうになって、また閃光がかすめる。
 ヴォルのペンダントがあるハリーが慌てて抱えなおそうとして…ナギニを懐に入れたところで地面が消えた。

 そのまま驚く見物人らに止められず階段の一番下まで転がり落ちたハリーはナギニとともに動かない。
 見物人もどうすればいいのかとざわめき、誰かが先生をと声を上げたことではじかれたように親友二人が駆け下りた。
「ハリー!!」
 ハーマイオニーの叫びにロンはハリーを揺さぶろうとして、名前を呼び続けるハーマイオニーを見て…その後ろに視線を向けて顔を青ざめた。
「ハリー!ねぇ起きてハリー!ハ…っ!」
 小さなうめき声に思わず揺さぶるハーマイオニーはぞくりとした空気に階段上にいる赤目の少年を見上げた。

「ハリー?」
 例の浮遊呪文で滑るように階段を降りるヴォル以外一切の物音が消える。
 得体のしれない気配に誰も指一本動かすこともできず、ハリーの傍らで立つ赤目の少年を見つめる。
「はっ…ばっ化物をかばうからこうなるんだ!!」
 静寂に耐えきれなくなったように、ナギニに魔法を唱えていたあの男子生徒が声を上げるとヴォルの杖を持っていない手が軽く上がった。
依然としてハリーを見続けるヴォルは見上げる二人にも何を思っているかわからない。
それほどの無の表情で手だけが動く。
 いったい何をという見物人はうめき声に階段上を見上げた。
首元を抑える生徒がどんどんと高く掲げられ、もがく姿をさらす。
「お前。ハリーに何をした?俺様のナギニに何をした?」
 ようやくハリーから目を放したヴォルが手はそのままに振り仰ぐと、その指を軽く曲げる。
見えないなにかにひっぱられるように腕を伸ばし、ねじる姿に誰かがひっと声を上げた。
「俺様のものに何をした貴様!」
 激昂する声と共に窓という窓が嵐を受けたように震え、シャンデリアの水晶が割れて破片が降り注ぐ。


『ア』
 いつか聞いた音が頭に響き、視界が怒りで赤く染まるのを自覚したまま生徒の利き腕をさらに捻りあげる。
 そのままねじ切ってしまおうか。
『バ』
あぁそうだ、かつて何度も唱えた呪文があった。緑の閃光。誇るべきスリザリンの色。
『ダ』
なぜ忘れていたのだろう。ハリーの両親の命を奪い、魔法界を震撼させたこの呪文を。
邪魔なものは最初から排除すればよかったのだ。
かつてのように。
誰かの口元がうっすらと笑って、その先を紡ぐ。
『アバダ    』
 強い衝撃とともに生徒が消え、言葉の先が聞こえなくなる。
誰が邪魔をした。
俺様の邪魔を誰がした。
叫ぶ声がうるさい。
奇異な物を見る目で見るな。
小さな子供が何かを言って恐れる姿が浮かび、怒りの感情が溢れかえる。


 駆け付けたスネイプはつるし上げられた生徒に驚き、階段下で倒れているハリーへと目を移す。
 ヴォルの杖から緑の閃光が溢れて、このままではまずいと盾の呪文を唱えた。
 クルーシオから解放された生徒を浮遊呪文で受け止め、下ろす。
 失神した生徒をマクゴナガルが素早く回収し、動きを止めた赤目の少年を見つめる。
「 」
 激昂したヴォルの雄たけびのような声が響き、加護の呪文が打ち破られた窓が割れていく。
悪霊の炎が出ないだけまだましだ、と考えるスネイプだが、居合わせてしまった生徒の中には強すぎる憎悪と殺意と怒気に当てられ失神するものまで出始める。
「セブルス、ハリーの目を覚まさせるのじゃ。ハリーならば止める方法があるやもしれん。」
 荒れ狂う力にどうやって対処すればと考えるスネイプにダンブルドアのいつにない真剣な声がかけられる。
あれほど怒り狂いながらもハーマイオニーやロン、倒れたハリーには危害を加えていないヴォルはざらざらとした…おそらくはパーセルタングで何かを叫び、振るった杖の軌道で壁を絵画事抉っていく。
震えるハーマイオニーたちに目配せをするスネイプはハーマイオニーがはめた腕時計に目を止めてアクシオ、と呼び出した。





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