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 ヴォルなら一言で言うことを聞かせられるのに、ともどかしいハリーが気配に足元を見ればヴォルとは別行動だったらしいナギニが蛇に向かって言うことが聞けないのか、と毒交じりに威嚇音を上げる。
驚いた蛇が大人しく丸まるとハリーの背後でスネイプの呪文が聞こえ、蛇はしゅるりと姿を消した。
 ほっとしたハリーはナギニに手を伸ばし、肩に這い上がらせるとありがとうといい、まだ座り込んでいるジャスティンに手を伸ばした。
「大丈夫?」
 どこか恐怖におののいた様子のジャスティンに首をかしげるハリーが起こそうと手を握ろうとして、ばしっと払われたことに目を瞬かせた。
 這うように起き上がり、走り去るジャスティンにナギニともども驚くハリーだが、周りの空気に気が付いて周囲を見回した。
誰もが奇異なものを…それもどちらかというと怖いものを見たような目でハリーを見ている。
スネイプを振り返れば険しい顔をしていて、まるで意味が分からない。
「ハリー!」
 現れたハーマイオニーとロンにひっぱられ、その場をあとにするハリーは無我夢中でみんなの前でパーセルタングを使ったことを思い出し、慌てて口元を抑えた。

「君パーセルタング使えるのかい!?」
 驚くのはロンで、ハリーは黙って頷く。
闇の魔法使いらが使うことの多いという蛇語。
印象が悪いかもしれないと喋らないよう秘密にしていたのに、と下唇をかむハリーはもう一度知ってると口に出して肯定した。
「僕はパーセルマウスだよ。前に…。」
 そこまでこたえようとしてハリーは口をつぐむ。
ヴォルも喋れるなんて言うわけにはいかない。
迷うハリーにハーマイオニーは気が付いたようで、彼もでしょ?と声をかけた。
「ヴォルも喋れるんじゃないかしら?」
 ひそっと問いかけるハーマイオニーに隠してもしょうがないと、こくりと頷く。
首元にいたナギニは大丈夫よと声をかけてきて、そっとその冷たい頭をハリーにこすりつけた。

「前に動物園で初めて知って…。闇の魔法使いが使うって聞いたから黙っていたんだ。」
 とっさに出てしまった以上取り返しはつかない。
ヴォルを巻き込みたくないのにとうつむくハリーにハーマイオニーとロンは顔を見合わせた。
「サラザール・スリザリンがパーセルマウスというのは有名な話だけど‥。」
「そのうちだれかがハリーのことを曾々々々々孫とか誰か言い出しそう…だけどどちらかというとどう考えてもヴォルの方がしっくりくるんだよな…。」
 でもそうすると例のあの人も必然的にスリザリンの子孫になるわ、というハーマイオニーははっと顔を上げて、同じように顔を上げたハリーともしかして、と目を見開いた。
「いえ、まだ確証はないわ…だいたいもし以前開かれたのがそうだとしても、今回は絶対に別人だわ。」
「もしかして最近よそよそしいのも…。」
 必死に記憶を呼び戻そうとして…・また過去にとらわれて暴走しないようにしているんじゃないのか…。
 ヴォルの言う通り、自分を嫌っているのではなく大切だから引き離しているのであれば…。
色々考えなきゃいけないのに、ヴォルのことを想うとそれしか考えられなくなる。
 一度、ちゃんと話さなきゃと、顔の赤いハリーは軽く頬をたたいた。


 よく寝てすっきりしたらしいヴォルは昨日の騒動を聞いて、馬鹿らしいと一蹴するとハリーを抱き寄せる。
「大体俺が居るのになんだってそんな噂が立つんだか。どう考えても俺様の方がスリザリンの子孫、っていうのがしっくりくるだろう。」
 大丈夫か?と顔をのぞき込むヴォルにハリーの顔が赤く染まる。こんな近距離久々すぎてどうしたらいいのかわからない。
ヴォルもまたその距離感に気が付いたらしく、顔を赤らめて何かあれば俺が守るからと抱きかかえることで赤くなった顔をハリーに見せないよう隠した。
 この二人やっぱり仲いいわね、とため息をつくハーマイオニーはあのあと、ハリーからされたお願いを思い出した。
『今はヴォルを自由にさせたいから、前回の話とか、ヴォルが僕を遠ざけている理由とか…それを問うのはちょっと待って。守られてばかりは嫌だけど…ヴォルの足を引っ張りたくもないんだ。』
 お願いと、繰り返すハリーに何のことかまだわかっていないらしいロンはえ?と首をかしげるばかり。
ハーマイオニーはわかったわと頷き、寮に戻ろうというハリーとともにグリフィンドールへと戻ってきた。

 ハリーを取り巻く環境はがらりと変わってしまった。
 グリフィンドールで蛇をペットにしたヴォルを知っているはずの人からも疑いの目がかかり、はじめは気にしないといったハリーもさすがにこれほどとは思っていなかったのか重くため息をついていた。
 ヴォルはヴォルでそんな噂、すぐに終わるといいつつ…どこかを探索することはせず、ハリーのそばに連れ添うようにいた。
 息が詰まる、とひそひそとした声にうんざりした様子のヴォルはフレッドとジョージの冗談めいたおどけた様子に諦めたように静かに息を吐いた。
 ヴォルがあきれるのはわざとらしくハリーを敬うように囲ったかと思えばよくもそんなでたらめ思いつくなということをぺらぺらと話すこと。
冗談だと分かっているハリー達は意味ありげにウィンクする姿に冗談やめてよと笑って返す。
 本気にしているのはなぜかロンの妹、ジニーだ。二人のしぐさに涙を浮かべてやめてよと訴える。
妹をからかうのが楽しい二人はさらにエスカレートしそうになって、ヴォルの視線に蛇の王様がお怒りだーとおどけたように逃げていった。
この二人にはばれていないはずだが、とヴォルはじろりと見るが、おどけた様子に二人からはよくわからない。


 クィディッチの練習から戻る途中、雪に足を取られたハリーが転ぶと、大丈夫か?と声がかかった。
雪を払いながら立ち上がったハリーが振り返ると死んだ雄鶏を手にしたハグリッドが雪を踏みしめながら近づいてくるところであった。
「今週でもう3羽目だ。誰かに絞められていることは明白なんだ。」
「誰がそんなことを…。ハグリッド、また森に変なのが住み着いたとかそういうことはない?」
 危険な生物じゃなきゃいいんだが、というハグリッドにハリーは軽く眉を寄せる。
またユニコーンを害するような…あれはクィレルだったわけだが、そんな生物がいるのかと死んだ雄鶏を見る。
「吸血お化けとかいろいろな。とにかく鳥小屋の回りに魔法をかけることを許可してもらわんと。」
 いろんないきものがいると答えるハグリッドはこれから校長室に行くというので、ハリーに別れを告げ、ハリーもまた手を振ってこたえる。
 そういえばハーマイオニーたちは薬完成間近だといっていたなと階段を上がっていく。
 突然悲鳴が聞こえ、その声の元へと向かう。
 その後ろから悲鳴を聞いたらしいハグリッドもまたかけてくる音が聞こえ、廊下を曲がったところで何かにつまずき、ハリーは膝をしたたかに打ち付けた。
 何につまずいたのかと振り返れば薬草学でも、あの決闘クラブでもいたハッフルパフのジャスティンが動かない姿で倒れていた。
視界が妙に暗いと顔を上げれば驚いた様子で固まったグリフィンドールの幽霊…ほとんど首なしニックが灰色の霧となってその場に浮いている。
 悲鳴を上げたのは女子生徒で、やはりこの状態を見たことが原因のようだ。
追いかけてきたハグリッドが慌ててとまると、浮いたままのニックに驚きの声を上げる。
 ジャスティンとニックが医務室に運ばれるとより一層生徒は固まって動くようになり、教室の移動も一団となっていた。
 全く面倒だというヴォルは自分のペースで歩けないことにため息をついて見せる。




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