------------
深く腰を折って丁寧にお辞儀をするヴォルは片時もスネイプから視線をそらさず、つられるようにして同じように先ほどより深くお辞儀をするスネイプに目を細める。
「では私がカウントしましょう!1,2,3!」
「プロテゴ!」
スネイプの前に現れた盾が鈍い音を立て、一撃で壊される。
何が起きたかわからない生徒は杖を構えたヴォルの楽しそうな表情にぞくりと背筋を震わせた。
「インペディメンタ。」
「エクスパルソ。」
スネイプの杖から発られた呪文がヴォルの唱えた呪文にぶつかり、爆音を立て大広間の窓を震わせる。
とっさに見ていた教師陣が生徒を守る呪文をかけたため、ひっくり返ったロックハート以外誰も怪我はしていない。
「ラングロック。」
「ルーマス ソレム!」
ヴォルが呪文を唱えたと同時に眩い閃光をスネイプの杖先から放たれ、一瞬目がくらむ。
「コンフリンゴ」
「アグアメンティ」
ヴォルの呪文が聞こえ、スネイプが水を放つ。
閃光が消えて視界が戻った生徒らは空中でぶつかったために二人を濡らした水に何が起きたのかと楽しげなヴォルと、真剣な表情のスネイプを見比べる。
「ステュー…っ!」
杖を振るおうとしたヴォルの濡れた手から杖がするりと落ちる。
あ、という顔をしたヴォルにスネイプはニヤリと笑い、杖を振るう。
「ヴォル!」
「インカーセラス」
スネイプが唱えるより前に動いたハリーは手元にある自分の杖をヴォルに向かって投げる。
拾うために体勢を崩すよりもと、ヴォルは杖をつかむと盾の呪文を唱えてスネイプの呪文を防いだ。
「は、はい!杖を落としてしまったセルパン君の負けということで…盛大な拍手を!」
這うように起き上がってきたロックハートの声にようやく肩の力を抜くスネイプは自分の杖を拾い、ハリーに杖を返す少年を見る。
通常では他人の杖では防ぐほど強い盾は出せないはずが、ハリーの杖を使ったにもかかわらず盾で防いだ。
いったい何なのだと軽くにらむスネイプは自分とセルパンに乾燥させる呪文を唱え、今は少年の悔しそうな顔を見る。
「ハリーの前でもう少し俺様の実力見せたかったのに…。手がすっぽ抜けるとはな。」
久々の臨戦で興奮しているのか、昔のヴォルデモートの口調が出ているヴォルにハリーは苦笑し、かっこよかったよと声をかける。
そうか?と首をかしげるヴォルだが、大きなあくびをし眠たげに頭を振った。
「調子に乗りすぎた。ちょっと医務室で寝てくる…。」
まだ肉体が12歳だからなのか、ヴォルは力の配分間違えたとつぶやいて、医務室の方角へと歩き出す。
ハリーとしては付き添いたいが俺一人で大丈夫と手を振るヴォルに残ろうと振り向いてロンと目が合う。
杖が折れていて怖いが、ロンとなら、と近寄るハリーを目ざとく見つけたスネイプはマルフォイを呼び、ハリーと組ませた。
「それでは皆さん、武装解除呪文をとなえるのですよ!1.2.」
ロックハートの2が聞こえた瞬間、ハリーは強い衝撃にくらりと頭を揺らした。
マルフォイがどうやら2で呪文をかけたと理解すると、くすぐりの呪文を唱えるl
あっちこっちで爆発音が聞こえることから誰も武装解除呪文なんて唱えていないのだろう。
笑い続けるマルフォイに杖を向けるハリーだが、そもそも先ほどのヴォルとスネイプの合戦のせいでみんな興奮しているんじゃないか…そう思うとなんだか申し訳ない気持ちが沸き起こる。
笑いすぎて息も絶え絶えなマルフォイが踊れ、と唱えると反応が遅れたハリーの足が勝手にダンスを踊り始める。
「フィニート!インカンターテム!」
スネイプの呪文により、マルフォイにかけられた呪文も、ハリーにかけられた呪文も全て解け、大広間がようやく落ち着いた。
必死にシューマスに謝るロンは多分折れた杖が原因だろう。
スネイプによってくまされたハーマイオニーとスリザリンの女子生徒に至っては肉弾戦でもはや魔法使いの戦いになっていない。
あちこちで何が起きたのかと問いたくなる惨状にやっぱりヴォルを医務室に連れて行けばよかったとため息が出るハリーはきょろきょろとするロックハートと偶然目があってしまった。
「誰か前に出て順番にやりましょう!よし、じゃあハリー!と…」
「マルフォイでどうかね?」
指名されたハリーの見せた嫌そうな顔をスネイプは見ていたらしく、先ほどの腹いせになのか得意げなマルフォイを押し出した。
「それじゃハリー、こうやって…。」
くねくねと動きながらお辞儀しようとして杖を取り落とすロックハートに大事な人のを見ていたから大丈夫だと、内心で思いつつ落ちた杖を視線で追う。
「おっと、私の手は元気すぎたようだ。それじゃあ今の通りに。」
「え、杖を落とすんですか!?」
なんの助言をしに来たんだと慌てて振り向くハリーにロックハートは頑張るんだよと離れていくだけ。
どうにでもなれ、と半ばやけくそで構えるハリーとなぜか得意げなマルフォイ。
「それじゃあ1,2,3!」
「サーペンソーティア」
今度はちゃんと3まで待ったマルフォイの杖先から黒い蛇が這い出てハリーに向かって牙をむく。
魔法で作られた蛇、と驚くハリーはとにかくこの蛇をどけないとと視線を落とすと、何を思ったのかロックハートがわきから出てきて蛇を消そうとして…高く打ち上げた。
落ちる際に空中で動いたせいか、壇上から離れた場所に落ちた蛇は興奮して周囲にいる生徒に威嚇する。
ハッフルパフの生徒…ジャスティンが思わず座り込んだ近くに移動する蛇にハリーは慌てて壇上から飛び降りるとしっかりと蛇を見て待て、と声を上げた。
「何もするな!去れ!」
ナギニと会話するときのように…パーセルタングがハリーの口から飛び出る。
ぎょっとしたように道を開ける生徒のおかげで蛇のそばに来たハリーは振り返って自分を見る蛇に何もするな、と強く言いつけた。
蛇はそれでも獲物を欲しているのか、きょろきょろとジャスティンとハリーを見比べ、鎌首をゆらゆらと動かす。
|