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そして一週間がたち、次の被害者が出ないことにほっとしつつ、警戒が溶けきれない生徒たちは一塊で行動することが増え、一人で歩いているとあからさまに避けるようになっていた。
疑いの強いハリーとヴォルに至ってはグリフィンドールの近い年代の友人らは普通に接してくれるがそれ以外ではたとえ二人で居たとしても逃げるように足早に立ち去ってしまうこともしばしばだ。
ため息をつくハリーとヴォルだが、気にするなよとフレッドとジョージに肩をたたかれ、玄関ホールに人だかりができていることに気が付いた。
「決闘クラブをするんだって!」
人だかりに戸惑うハリーとヴォルだが、そこに同室のシェーマスが気が付いてやってくるなり掲示物の内容を伝える。
「決闘クラブ?」
聞きなれない言葉にハリーは首を傾げ、同じように戸惑った様子のヴォルと顔を見合わせる。
「今日この後第一回目をやるって…近々役に立つかもしれないし…。」
何よりおもしろそうだと目を輝かせるシェーマスに遅れてきたロンもどれどれと掲示板を見に行って同じようにおもしろそうだと戻ってくる。
「もしかしてスリザリンの怪物が決闘するとでも思っているのか?」
ヴォルはそうつぶやきつつ、わくわくした様子のハリーを見て参加してみるかと…いやな予感からハリーを守るためにうなずいた。
夕食が終わったのちにやるという決闘クラブにはほとんどの生徒が参加するようで、大広間には多くの生徒が残っていた。
机がどこかに取り払われ、代わりにステージのようなものが設けられるとひそひそと誰が教えてくれるのかとざわめきが大広間に広まる。
若いころ決闘のチャンピオンだったという噂のフリットウィック先生じゃないかとか、いやいやスネイプあたりがダンブルドアに言われてだの、様々な憶測が飛び交う。
「あー…すっごい嫌な気がしてきた。」
ヴォルのため息にまさかと笑うハリーだが、ステージに立った姿にダメだこれとため息を吐いた。
どこからかは女子生徒の黄色い声が聞こえることに頭痛までしそうだとヴォルと視線を交わす。
「皆さん、お静かに!私の声が聞こえますか!?私の姿が見えますか!?ダンブルドア校長先生からお許しをいただき、この決闘クラブを私、ギルデロイ=ロックハートが開かせていただきました!私が数々経験した…詳しくは私の著書をごらんください!経験した実践を少しでも皆さんにお伝えできればとおもいましてね!助手をご紹介しましょう、スネイプ先生です!」
大広間に響くロックハートの明るい声に生徒らは静まり、ロックハートの背後にいたスネイプの表情に誰もが凍り付く。
今までハリー相手にも、ヴォル相手にも見せたことが無いほどの形相でロックハートをにらみつける姿にネビルがひっくり返る音が聞こえる。
「ではまず皆さんにどういったものかを実践して見せましょう!皆さん、ご安心ください。皆さんの魔法薬学の教授が消えてしまう、なんてことはありませんから!」
「いっそ消されてしまえばいいものを。」
ぼそりとつぶやくヴォルにロンが噴出し、ハーマイオニーがそれをたしなめる。
向かい合う二人は距離をとると、まずはお辞儀をとロックハートは腕をくねくねさせながら大げさに礼をし、スネイプは見えない何かに無理やりお辞儀させられたように不機嫌に軽く礼をして杖を構える。
「それでは、3つ数えたら最初の呪文です。大丈夫、デモンストレーションですから誰も傷ついたりしませんよ。」
誰に対してなのか、ウィンクして見せるロックハートにどこからかため息が上がる。
片や異様なほどに陽気な一方、今なら彼がヴォルデモートといっても信じる人が居るんじゃないかと思うほどまがまがしいオーラを発している方と…。
「1,2,3!」
「エクスペリアームス!武器よ去れ!」
ロックハートが杖を高々と掲げたところでスネイプから赤い閃光が迸り、ロックハートを吹き飛ばす。
女子生徒の悲鳴が上がる中、宙を舞う杖を手に取ったスネイプはそれをロックハートのいた位置に放り投げた。
よろよろと起き上がったロックハートは舞台に上がると杖を手に取り、わかっていましたともと軽く指を振るった。
スネイプ周辺の空気がさらに下がったことにも気が付いていない様子のロックハートはわかりますよと一人勝手にうなずく
「その呪文が来ることはわかっていましたがここはあえてどういった呪文であるか見せたほうがいいと判断した次第ですよ。これが武装解除呪文というものです。初手で放つことなど見え透いてはおりましたがね。」
殺気立った様子のスネイプにようやく気が付いたロックハートは慌てて二人で組む様にと声をかけた。
杖を使った訓練、と顔を見合わせたハリーとヴォルは互いの杖に視線を落としどうしたものかと周囲を見る。
オリバンダーでの忠告で今までやったことはないがやらないほうがいいだろうと、相手を探す。
「あぁそうだ!先ほどは一瞬でしたのでわからないことが多かったでしょう。セルパン君、君は大変力が強いと聞いています。であれば他の生徒よりも…スネイプ先生、是非とも彼の練習相手になってあげてください!」
二人でいつも一緒にいるはずがペアを組まないことに気が付いたロックハートがそうだと声を上げ、眼を瞬かせるヴォルを舞台にひっぱりあげる。
ペアを組もうと動いていた生徒はみな動きを止め、ひょろりと最近また背が伸びたヴォルとスネイプを見比べ目を輝かせた。
先ほどの殺気がまだ収まっていなかったスネイプだが、向かい合ったヴォルに思わず固まる。
スリザリン側からは生意気な奴であるヴォルが痛い目を見るのが楽しみなようで、期待のまなざしを寮監に向け…他の寮生らは噂に名高い下級生がどんな実力なのか…あわよくばスネイプが痛みつけられる姿が見えるのではないかと、好奇の目を向ける。
スネイプと真正面から向かい合うヴォルはようやく事態を呑み込み、これ以上ないほどうれしそうな笑みを浮かべた。
手加減なんて気にしないでいい相手と目を不穏に光らせるヴォルに冗談じゃないとスネイプはこの催しを許可したダンブルドアに苦情を言わなければ気が済まない。
遠くで見ていたマクゴナガルら他教員は嫌な予感にいつでも生徒を守れるよう動き、張り詰めた空気に身構える。
全身に悪寒による鳥肌が立つスネイプはロックハートの無責任な明るい声に今すぐにでも魔法薬をかけてしまおうかとにらみつけ…目の前の脅威にごくりとつばを飲み込んだ。
かくして…スネイプ先生対無害そうな生徒(元闇の帝王)という構図になり、生徒らは本能的に一歩舞台から下がった。
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