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 朝になるとクリビーが襲われたという知らせは学校中に広まり、疑いの視線は自然とハリーとヴォルに向けられることとなった。
以前からコリンがハリーを追いかけまわしていることは知られていることだし、ハリー自身も迷惑がっていたのと、顔を合わせるたびにヴォルが殺気立っていたのだから当然といえば当然だ。
おまけにミセス・ノリスの時も近くにいたとなっては言い訳のしようもない。
 ヴォルはダンブルドアに呼ばれ、ハリーは一人でハーマイオニーたちの姿を探した。

 きょろきょろとしているとパーシーとばったり出会い、彼にハーマイオニーとロンを知らないかと尋ねる。
「談話室にはいない。それより今は一人で歩くべきじゃないと思うからフラフラ歩き回らないほうがいい。」
 図書館の入口で出会ったパーシーはどこか機嫌がよさそうで、朝食後に談話室から出たっきり見ていないと首を振るう。
パーシーの言うこともそうかな、と頷くハリーはじゃあと周囲に誰もいないことを確認してマートルのいる女子トイレへと足を踏み入れた。
 案の定声がひそひそと聞こえ、個室の戸を叩き僕だよと声をかけると扉が開いてハリーを取り込んで閉まる。
狭い部屋の中、ハーマイオニーは材料をチェックしながら次はこれ、とロンに指示をしてロンがそれを鍋へと入れる。
「コリンのこと聞いて少しでも早く作らなきゃって。」
「うちの親父が言うようにマルフォイの父親が例のあの人とつながっていたというなら、今回のことにも何かかかわっていると思って。」
 鍋を混ぜて具合を見るハーマイオニーはお見舞いに行けなくてごめんなさい、といいポリジュース薬を作ることを優先させたという。
 ハリーはそれよりも伝えなきゃいけないことがいくつかあると、夜にドビーがやってきたことを伝えた。
「ヴォルがちょっとそのあと…うん…ちょっと…その…我を失いかけたというか…それでスネイプが来て、すぐにコリンが運ばれてきて…。」
 昨晩起こったことをかいつまんで伝えるハリーはヴォルに覆いかぶさられたことは置いていこうと少し顔を赤らめて運ばれてきたとことを見たという。
 幸いにもハーマイオニーもロンもドビーの言葉を今までやったことを聞いて、撹拌する手をは止めずに顔を見合わせる。
「じゃあ駅を塞いだのその屋敷しもべ妖精の仕業なのか。ブラッジャーまで…。」
「どうにか止めないとハリーの命…より先にヴォルが罪を犯しちゃいそうね…。秘密の部屋は以前にも開かれた…。何年前の話なのかしら。」
 やれやれというロンにハーマイオニーはもう撹拌はいいわと手を止め、考えるように唇に手を当てた。
「わかった!前に開かれたのはマルフォイの父親の時だ!今回はマルフォイがその開け方を聞いてやったに違いない!」
 猶更早く聞かなきゃ言い出すロンにちらりとハーマイオニーはハリーに視線を送る。
ハリーは昨日聞いてしまったヴォルのパーセリングとダンブルドアの会話からもしかしたら、と視線を落としていた。
ヴォルは…ヴォルデモートはかつてこの学校にいた。
 でも今回は断じて違う。では誰が…と考えたところでロンの間違いないという言葉を聞き、もしかしたらと視線を上げる。
「ポリジュース薬ができたらマルフォイに問いただしましょう。幸い、マルフォイもクリスマス休暇には残ると書いてあったわ。決行は多分…クリスマス前後ね。」
 例のあの人との接点がある人なんてマルフォイの父親ぐらいしか考えられない、とハーマイオニーはここに置いといても大丈夫とマートルが水を入れないよう鍋を覆い、いいわねとハリー達を見た。


 ダンブルドアに呼ばれたヴォルは内心であの爺の部屋に行くのはとぶつぶついい、ガーゴイル像の間の壁に向かう。
あの爺、合言葉を伝えていないな、と開かなかったから引き返したとでも言ってと踵を返したところで背後に立っていたスネイプと目があい、露骨に嫌な顔をする。
 スネイプもまた眉間のしわをこれ以上ないほどに深くし、ほとんど囁くように…言いたくない言葉を無理やり音にしているように合言葉を口にし開いた壁にヴォルを振り返る。
 スネイプと同じく眉間のしわが深くなるヴォルは大きくため息をつき、動く階段に乗ってスネイプとともに校長室へと足を踏み入れた。
「連れてきました。」
 ノックし、来た用件だけを伝えるスネイプだが、扉はそれに答えるように開き、不機嫌な二人を呑み込む。
「よく来たセブルス。石化解除の魔法薬の材料はどうじゃ?」
「まだまだといったところでしょう。ほかの材料を集めてはいますが新鮮なマンドラゴラはやはり栽培したものでなければ手に入らないようですな。」
 石化してしまった生徒が出た以上、早めなければというダンブルドアにスネイプは静かに首を振る。
歳を取ったマンドラゴラではなく、それなりに若く新鮮なもの、と限定すると今育てられているものが最善だという。ダンブルドアもわかってはいたのか、上々と頷くとスネイプの後ろに視線を送った。
「呼び出した理由はわかっておるじゃろ?何か覚えていることがあればと思っての。」
 腕を組み、ぶぜんとした表情のヴォルはダンブルドアに目を向けて、プイッとそっぽを向いた。
「思い出していればとっくに行動している。それにしてもダンブルドア、未だに原因も犯人も特定できていないとは怠慢なんじゃないのか?」
 長く教師としてここにいるだろうにいまだに尻尾すらつかめていないとは情けない、と鼻先で嗤う。
 思い出せないには思い出せないが、それよりも以前開いた後、放置していたのかとあざ笑う。
 前回開いたのはこいつか、と視線を送るスネイプだが、今回に関しては彼の関与は考えにくい。

「それに関しては耳が痛いの。おそらくはと目星はついてはおるが、それがいつもどこにいて、どうやって制御されているのか…それを特定までこぎつけるまでには至っておらん。さらに言えば今回誰が開いたかに関して、おぬしがかかわっていないこと以外何もわからないのじゃよ。」
 わかっていると頷いて見せるダンブルドアの言葉にヴォルは顔を曇らせ、静かに首を振る。
その反応に眉を上げるスネイプは以前マクゴナガルに問われたことを思い出した。
「分霊箱…。」
「あぁ、おそらくはな。せめて形状だけでも思い出せればいいのだが…。ただ、前回の例を踏まえて考えれば、俺様のことだ、少なくとも他にペンダントとカップ…それはあるだろう。」
「スリザリンのロケットとハッフルパフのカップじゃな。そうじゃな、以前の様子を考えればそれは当然じゃろう。じゃが、少なくともそれらに入っているのはクィレルに憑りついた様に晩年…というのが正しいかの。最全期に近い魂じゃろう。石化では済ませないと考えるのが妥当じゃ。」
 スネイプの言葉にうなずくヴォルは爪をがりッと噛み、手に入れているかどうかなど、考えるまでもないと深く考え込む。
ダンブルドアもまた石化が最大だとしても、今回は違う気がするとヴォルを見つめる。
今回もまた彼のかつての魂が関係しているとあれば、全くの無関係ではない。
「何か思い出したらすぐに伝えてもらいたい。今回は…今回こそは最悪の事態になることを避けねばならん。」
 ダンブルドアの強いまなざしに、スネイプはわかっていると目を細めて答える少年を見つめた。




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