------------



「ヴォル!」
 強く揺さぶられ、耳元で呼び掛けるハリーの声に、いつの間にか止めていた息を吐き、ぐったりとハリーに寄りかかる。
ギラリとひかる赤い目に驚くハリーは痛いほど強く抱きしめられそのままベッドに倒れこむ。
ドビーはヴォルが名前を読み上げたところで驚いたのか逃げて行ってしまい、この医務室にはヴォルと二人っきりだ。
 強く抱きしめるヴォルに息が苦しくなるハリーだが、それと同時に顔を摺り寄せ吐息が耳にかかるほど近づく。
 耳たぶにそのまま口づけるヴォルに顔を赤らめるハリーはドキドキと鼓動が早くなるのを自覚して頭が回らない。
耳にかかる吐息が移動し、口元にかかる。
真っ赤な目がハリーをじっと見降ろしてハリーの視線を絡めとる。

 バシン、という音ともに唇に重々しい衝撃があり何が起きたのかと考える前にヴォルの体が浮いて空いたベッドに放り出された。
「えーっと…。スネイプ…先生?」
 あまりの衝撃に驚いていると入口からコツコツという足音が聞こえて、ハリーは顔を上げずに声をかける。
ぴたりと足音が止まり、予想していた顔が現れる。
「油断も隙もない。起きたのかね?」
 気絶しているヴォルに杖を向けたままのスネイプは襲われかけていたハリーが起きていることに驚いた様子はない。
 ちらりとハリーに目を向けると腕の再生中なのだから寝ろ、と短くいう。
ヴォルに襲われていたところを目撃されたハリーは耳まで真っ赤になり、シーツを引き上げた。


 スネイプもまた遭遇してしまったことに軽く頭を抱えていた。
間に合ってよかったのか、もう少し早くにきておくべきだったか。
それとも、今回は命の危機というわけじゃなくて別の危機だったわけだからもう少し穏便にすべきだったか。
 元を想像するとさらに頭が痛くなるため、スネイプはもう考えるのはやめよう、と出口に向かおうとして廊下から聞こえる足音に足を止めた。
「あぁ、セブルス。マダム・ポンフリーを。」
「これは…。」
 ダンブルドアの背が扉に現れ、後ろ向きに何か石像のようなものを運んでいる。
マクゴナガルの声とともにスネイプのはっとするような声が聞こえて眠れずにいたハリーは顔をシーツに隠したまま耳を澄ませた。
ヴォルの隣のベッドに何かを下す音が聞こえ、ハリーはカーテンの隙間からそっと伺いみる。
スネイプが呼んできたらしいマダム・ポンフリーの声が聞こえてはっと息をのむ声に何か良からぬことが起きたと、ハリーの額に腕の痛みだけでない汗が浮かぶ。
「いったいこれは…。」
「また襲われたのじゃ。」
「この子の近くにブドウの房が落ちていました。おそらくはポッターのお見舞いに来ようとしたのではないかと…。」
 ひそやかな声で話す内容にハリーは目を見開いた。
まさか、そんな、と目の前が暗くなり、ぎゅっとこぶしを握り締めた。
「このこが犯人を写真に収めているとお思いですか?」
 何かをしているダンブルドアにマクゴナガルの声が聞こえて石になったのがクリビーであることがわかり、ますます身を縮こませる。
ぱかっという音とともにプラスチックが溶けたような鼻につく臭いが広がり、フィルムがだめになったことをその場にいる全員に伝える。

『スリザリンよ。ホグワーツ四強で最強のものよ…。穢れた血を…。力なきものどもに…。』

 シューっと空気の抜けるようなそんな声が隣から聞こえてハリーはやっとの思いで起き上がるのをこらえた。
ダンブルドアらにもパーセリングだけは聞こえたようで、静かにヴォルを見ている気配がする。
「私が見回りに来た際、彼はまた…いえ、少し違う意味でポッターに襲い掛かろうとしていたのを気絶させましたが…。外に出ていた様子はありませんでしたな。」
「そうじゃろう。今回のこの騒動に彼はかかわってはおらんじゃろう。じゃが、この一連の犯人についてあやつは何かを知っておるじゃろう。記憶がないのが幸いじゃが…今回はそうともいておれん。」
 ふむ、というダンブルドアの言葉にハリーは冷や汗を流す。
かつて開いたことがあるという秘密の部屋。
それがいつだったのか…嫌な予感がする。
「くしくも…あの当時おったものが数名…それももっとも疑わしくものと潔白だったと思わしきものが同時におる。」
 どきどきと耳元で鼓動が鳴り響き、もしかして、とその考えがぐるぐるとめぐる。

”ヴォルってやっぱりスリザリン?”
”そう。帽子が驚いた理由がやっとわかった。”

 かつてこの学校に在籍していたのちの闇の帝王。スリザリンで、パーセリングが使えて…。
眠気がすっかり冷めてしまったハリーはヴォルが離れていきそうな気がして…シーツを握る手が震える。
ふいに柔らかな眠気に襲われ、気を失うように眠りに落ちていく。

 杖をしまったダンブルドアは怪訝そうな顔のマクゴナガルにこれ以上彼を悩ませてはいかんと少し寂し気に微笑む。
 予想以上に彼ら二人のきずなは強い。
そもそもが運命で結ばれていたというのもあるのだろうがそれにしても結びつきが強い。
「  これはよいことかそれとも…そう考えてダンブルドアは静かに首を振った。
少なくとも以前の彼ではない。
以前のようなずる賢さも傲慢さもだいぶ影を潜めている。

ハリーといることが彼にプラスの影響を与えていることは確かだ。
 それにハリーを通してではあるが損得なしの友好関係も築けている。もう少し様子を見ようとクリビーを見下ろした。




≪Back Next≫
戻る