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 まったくもう、とか余計な事を、と怒ったポンフリーの声に目を覚ましたハリーは大きな瓶を目の前に置かれて目を瞬かせる。
「骨を再生させるだなんて…折れただけなら簡単に直せるのに。」
 これを全部飲んでもらいますとなみなみつがれたビーカーにハリーは思わず言葉を失う。
「今夜は荒療治です。」
 一口でむせるハリーをヴォルが宥め、何とかビーカーの中身を飲み干す。
泥だらけのユニフォームのままクィディッチのメンバーが現れると、マダム・ポンフリーはギラリと睨みつけてハリーには休養が必要なのだから出て行きなさいと杖で追いたてた。
 ハリーが着替えるのを手伝うヴォルは骨のないハリーの左腕を袖からひっぱるのにいら立ちを思い出したのかぴきっとこめかみをひきつらせる。
「マルフォイの奴、悔しそうな顔してたぜ。」
 一緒になって手伝うロンがあの騒動の後の事をハリーに話すと、ヴォルはあいつ馬鹿だなという。
すぐ顔の近くを飛ぶキラキラしたものに気がつかなかったなんて、よっぽどハリーに注目していたのか、とそう考えたところで胸の中にどす黒い何かが渦巻く。
「ヴォルがうっかりロックハート先生を打ち上げちゃった時なんて女子生徒から悲鳴が上がったのよ。」
 反省してよね、というハーマイオニーにヴォルはうっかりねぇとこぼす。
「うっかりハリーの骨を抜いたうっかり教師をうっかり高く打ち上げてしまったわけだからまぁお互い様だろう。」
 ちょっと制御間違えたなーと感情のこもらない声で答えるヴォルにハーマイオニーはため息しか出ない。
無表情のヴォルに気が付いているロンはそりゃあ仕方ないさと笑いをこらえるのに必死だ。

「それで…なんで俺の腕にハリーとつながる鎖が付いているわけだ?」
 これ、と光でできた鎖のような帯を持ち上げるヴォルにハリーもそういえばという。
「これ以上ヴォルが暴走しないようにって、スネイプ先生が付けたのよ。マダム・ポンフリー先生にもさっき説明してたから、ヴォルはこのままハリーのそばにいてね。」
 明日の朝になれば自然と消えるそうよ、というハーマイオニーにあの根暗、とヴォルは内心で舌うちをする。
ハリーが大変な今、下手なことはできない。生殺しにするつもりかあいつ、とつないだ先のハリーの手を緩く握る。
「それじゃあ、ハリー。また明日ね。」
「骨、ちゃんと生えてくるって。」
 じゃあと立ち去る二人に残されたヴォルとハリーは顔を見合わせて、なんだか照れ臭そうに笑いあう。
 さぁ寝なさいというマダム・ポンフリーに言われてヴォルは隣のベッドに入ると、ハリーの方へ顔を向けた。
 カーテンが引かれてしまって顔が見えないが、かえってよかったとためいきをつく。

「ハリー。聞いてほしい。起きてるか?」
「起きてるよ。何?」
 マダム・ポンフリーが立ち去ると、ヴォルは静かにきりだした。
迷いながらも口を開くと、まっさきにごめんという。
「多分…。うろ覚えだが、今回の怪物騒動にまた俺様の過去の魂が関係してそうだ。あちらこちら廻ったが、過去にも何か似たような出来事があった。そう感じる。」
 まだ確証はないが、というヴォルにハリーは見えないながらにもこくりと頷く。
「またハリーを巻き込むのは…嫌だ。だからハリーには極力かかわらないでほしいと思う。」
「そう。でもヴォルわかってると思うけど、僕だってヴォルが危ない事をするのはとても怖い。だから…関わるなっていわれる方が無茶するかもよ。」
 諦めたようで頼むからというような声のヴォルにハリーは抱え込まないでと返す。やっぱりハリーはそう来るだろうな、とため息をつくヴォルはなら、と声をあげた。
「絶対に俺様が…俺が危険だと警告したらそれ以上はやめてほしい。今日身にしみてわかった。ハリーに何かあれば俺は…俺様に戻るかもしれない。何もかも破壊したくなるほどの憎悪が…湧きあがりそうだ。」
 ハリーのそばにいたいから約束してくれ、と続けるヴォルにハリーはうんと頷く。
「その代わり、ヴォルに危険がせまったりしたら…僕だって何するかわからないよ。だから、一人で危険な時は僕も一緒に行かせて。」
 そうすればお互い気にし合って守れるでしょ、とハリーは笑う。


 ぎゅうぎゅうと内側にとげをびっしり入れられたかのような痛みにうめくハリーが目を覚ますと大きな二つの目がじっとハリーを見つめてた。
 ハリーに浮かんだ汗をスポンジで取っていたらしい大きな瞳の生き物…あの屋敷しもべのドビーが心配気にハリーを見つめ、涙を流す。
「ハリー=ポッターは学校に戻ってきてしまいました。」
 悲しげにつぶやくドビーはおとめしたのに、というとまた涙をこぼす。
ぞくっとした嫌な気配とともにドビーがひゃっと言ってベッドから転がり落ちる。
「ハリーに何の用だ…。」
 唸るような声にほっとする半面、自分の近くで争い事はやめてほしいとも思う。
「ひぃ!」
「ブラッジャ―に細工したのも、駅の入り口を閉じたのもお前だな。」
 飛び起きてきたヴォルは転がったドビーに杖を突き付け、ハリーをかばうように立ちふさがる。
「そうです!ドビーがふさぎました。だからドビ−は帰ってから自分の手にアイロンをかけなければいけなかったのです。」
 そう言って包帯を巻いた長い指を見せるドビーにヴォルとハリーは何と言えばと顔を見合わせた。
「ドビーはハリー=ポッターがホグワーツに戻ったと聞いた時、驚いてご主人様の食事を焦がしてしまいました。あんなに激しく鞭で叩かれたのは初めてでございます…。」
 しゅん、とするドビーになんだかかわいそうになるハリーだが、そこにほだされないのがヴォルだ。
それがどうしたと言わんばかりの顔でうるさいと一喝する。
「俺様に八つ裂きにされるよりは幾分ましだろうな。」
 いっそその時に主人にもっと手ひどくやられればいいものを、と口調が元に戻っているヴォルの袖をハリーはそっと握った。
「次ハリーに危害を加える様な事をしたら…おまえの主人を家族もろとも…」
「ヴォル!それ以上はだめ。」
 深紅に染まった瞳にハリーの額が痛み、すがりつくようにハリーは腕にすがりつく。
はっとなるヴォルは軽く頭を振るとハリーの手を握り返す。
「このままこの城にいては危険なのです!!またしても秘密の部屋が開かれたのです!」
 必死に訴えるドビーに眉をひそめると、ハリーはもしかしてと口を開く。
「今皆が脅えているスリザリンの怪物について…何か知っている?」
 はっとなるドビーに問いかけたハリーはやっぱりと唇をかむ。
でもどうしてドビーはそれを知っているのか。
 目を泳がせるドビーは言えないのですと絞り出すような声で言うなり水差しで頭を殴り始めた。
「ドビーは悪い子!ドビーは悪い子。」
 突然の行動に驚くハリーにヴォルは冷静になった頭で考える。
「つまり…この仕組まれた怪物騒動におまえの主人が関係している…というわけか。」
 呟くヴォルの言葉にふらふらとしていたドビーは顔を青ざめ、口をしっかり手で覆う。
どういうことかと首をかしげるハリーにこいつらはそういう生き物なんだとヴォルは静かに答えた。
「屋敷しもべ妖精っていうのは本来は主人には絶対服従をちかっている。こうして警告をしていることは本来主人の意に反することなのだろう。だから罰としてアイロンで焼いたり頭を打ち付けたり。…屋敷しもべ妖精は魔法使いの家…特に古い家などには大体1、2匹はいるはずだ。誰の家かは絶対に口を割らないだろう。それこそ、主人を危機にさらしかねないとして、習性に反する。」
 だから嫌いなんだ、と口の中で付け足すヴォルは戦慄くドビーを静かに見つめ、一体だれの…と考えたところで一つ何かを思い出しかける。
よぎった記憶はかげのようなもので全く捉えられない。
「ブラック、マルフォイ…しもべ妖精がいそうな名家は…ゴイルとかクラッブの家にはいない…いや、いたか?あとは…。純血の家にはたしかいた筈…クラウチ…もいたはずだ…カロー…レストレンジ…っ」
 影の様なかすれた映像の様なものを無理矢理鮮明にしようと目を向けて…ずきずきと痛みだす頭にヴォルは目を閉じた。
この服装どこかの家で仕えるしもべ妖精の服装だ、と必死に考えるが頭痛と共に記憶はより不鮮明になり、色どころか線も破たんしていく。




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