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 ヴォルのいう通り、サインと聞いたロックハートはろくに手元も見ずに大きなクジャクのペンでささっとサインをする。
「だから言っただろう?トロールの腰布だって喜んでサインするぞ。」
 動かなきゃなんにでも書く、というヴォルにロンは吹き出しハーマイオニーは聞かなかったことにして慎重にサインのついた紙を仕舞う。
 ピクシー妖精に懲りたのか、自伝を基に再現をするロックハートはハリーを相手役に指名したがっていたが、そのたびにヴォルの無言の睨みか、ハリーの腰に手を回した手を離さなかったり…あの手この手で阻止されてネビルたちを代わりに指名していた。
ハリーの矛盾したお願いを聞いてからはヴォルは不安を与えないように今までに近いスキンシップをしていた。
 それでもどこか距離を置くような仕草を見せることもあってハリーのため息は尽きない。
「この材料は…生徒用の材料置き場にはないわね。きっと教員用の戸棚だわ。どうにかしてスネイプを出し抜いて…。」
「ハーマイオニー!?気は確かかい!?」
 ブツブツと算段を立てるハーマイオニーにロンは驚き、狭い個室の中腕をぶつけた。
「いてて…なんだってこんなところで…。」
 3人が入っているのはマートルがいる女子トイレの個室。ここならだれにもばれないわ、というハーマイオニーに僕たち男だぞというロンの反論は聞き入れてもらえず、今にいたる。
 ヴォルは何か気になることがあるらしく、今はいない。
「いい?スネイプよりも怖い何かが今まさにホグワーツを徘徊しているかもしれないの。ばれなきゃいいんだから大丈夫よ。」
 つべこべ言わないの、というハーマイオニーにロンとハリーは顔を見わせる。
 一年前の彼女と今の彼女…ギャップに思考が追い付かない。


 マルフォイの鍋か誰かの鍋に花火をほうりこんで騒ぎを起こしている間に取ってくるというハーマイオニーに花火役のハリーは不安で仕方がない。
 材料を刻もうと分量を確認しながら手を伸ばしたハリーは違うものをつかんで思わず顔を上げる。
同じようによそ見をしていたらしいヴォルと手を握りあってしまい、みるみる顔が赤くなる。
顔を赤くしたハリーと緩く繋いだ手にヴォルははじかれたようにその手を振りほどく。
 振り払うようになってしまった手にしまったとヴォルは驚いた様子のハリーを見て、ずしんと何かが体の中にしこりの様に落ちた。
 ショックを受けたようなハリーにヴォルもまた心をざわつかせてふいっと視線を逸らす。
そんなヴォルにハリーの中で何かがきれる。
「触れるのも嫌なぐらい嫌いなら嫌いって言ってよ!」
 ずきずきと痛む胸にハリーは我慢できずに声を張り上げた。
「そしたらもうヴォルに迷惑かけないから…。」
 俯くハリーにヴォルは違うと同じように声を張り上げる。
「誰がハリーの事を嫌いだなんて言った!」
「ヴォルだよ!僕がそばにいるとずっと何かいいたそうな顔してため息ばっかりで…。」
 しん、と二人の声以外の音が消え、全員の注目が注がれる。
「違う!」
「違くないでしょ!僕は今のヴォルがいいって言ったのに、去年までと違ってぎゅっと抱きつくこともないし、触れても少し距離を置いて…。」
「違う!ハリーが大事だから…。」
「大事だから何!さっきみたいに手を振り払ったり全然わからないよ!」
「俺だって、ハリーに触れたいし、押し倒したいし、抱き絞めたい!ハリーが無防備だから…生まれて初めて我慢しているんだ!!!嫌いだったらとっくにぶちぎれてる!大切だから…傷つけたくないほど大切なものを持ったこと自体初めてなんだ!!」
 わからないというハリーにヴォルは声を張り上げて机を強くたたく。
目を瞬かせるハリーにヴォルは苛立つようにだから、と口を開きつつハリーの顎を救い上げ、腰を抱き寄せる。
驚きで動けなハリーはなすすべもなくじっと見つめる赤い瞳に目を奪われ…。

 先ほどよりも大きな音が響き、ハリーとヴォルは首をすくませて、はっと辺りを見回した。
 ぴきぴきとこめかみをひきつらせるスネイプは杖をしまうと、グリフィンドール10点減点、と口を開く。
「痴話げんかは授業外でやっていただけないかね?」
 こいつはもう更生の余地などないとスネイプはヴォルを見下ろす。
 我に戻った二人は気まずそうに顔を見合わせた。
 まったくもう、とあきれるハーマイオニーはローブの前のふくらみを隠しつつ、ちょっと二人の言い争い見たかった、と小さくため息をついた。
 
 
 




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