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 それから数日がたち…ロックハートに遭遇したくないヴォルはハリーを連れて遠回りすることがあり、ハリーはありがたいけどとため息をついているとパタパタと軽い足音が聞こえて更にため息を吐く。
「やぁハリー、元気かい!?」
 ひょいと顔をのぞかせるコリン=クリビーに瞬時にヴォルの気配が変わったことにため息が止まらない。
「やっやぁコリン…。」
 ぱっと嬉しそうな顔をするコリンと対照的にどんどん顔の影が濃くなるヴォルの杖を持った手をハリーはギュっと握った。
 一日に5・6回は遭遇するコリンにいつかとんでもないことになるんじゃないかとヴォルを促す。
 彼のためにも迷惑だと言うことはそれとなく伝えたが、校内で魔法の使用は禁止ですから大丈夫ですといって聞かない。
 そんな規則…ヴォル単体の時に君が遭遇しないから守られているだけで、規則とか気にしていたらあぁなってなかったからとギュっとヴォルの手を握った。
 ふと、そういえば最近あんまりヴォルとスキンシップしてない、とつないだ手の先を見る。
ん?と首をかしげたヴォルになんとなくぎゅっと抱きつくと、ヴォルの鼓動が跳ね上がったことにハリーはくすくすと笑う。
「どっどうしたハリー…。」
「ん…。なんか最近ヴォルとこうして抱きついていない気がして…。」
 抱きしめ返すヴォルにハリーは嬉しくて笑うと、どうせ次は昼食だしもう少しいい?とヴォルに擦り寄る。
 
 パラパラと人がいる廊下での行動にヴォルは嬉しいけど…どうしたものかと…ポンと両肩に置かれた手にこいつらに遭遇したくなかったとため息をぐっと答える。
「悶々と悩みすぎて肝心なこと見逃してると…。」
「あとで後悔すると思うぞ〜。」
 通り過ぎる双子にうるさい、と心のうちで怒鳴るヴォルは首をかしげるハリーに何でもないと言うと、なんとなく額に口づける。
 ぱっと顔を赤らめるハリーはいきなりごめんね、というと大広間に向かって走って行ってしまった。
 先に大広間にいたハーマイオニーとロンは走って来たハリーと、後から入ってきた平常心平常心、とぶつぶつと呟くヴォルに何があったんだろうと首をかしげる。
 
 
 早朝にオリバーにたたき起されたハリーはつられて起きたナギニを肩に乗せて大広間で朝食をとると、箒をかついで競技場へと向かう。
 ふと、背後から聞こえた足音にハリーは深々と溜息を吐く。
なんというか…。昔ヴォルに猛アタックしていた女の子を思い出す。
幾度となく廊下で待ち伏せをして好きになってもらおうと、ハリーを巻き込んでアタックしていた女の子…。
ヴォルが素を出して迷惑がっていたのに意を介さず、自分勝手だった子にヴォルは辟易していた。
その時の気持ちが今はよくわかる。
「おはようハリー!さっきハリーを呼ぶ声が聞こえたから…。クィディッチのすごい選手だって聞いたけど…。」
 朝から元気なコリンにハリーはため息をつく。
 彼のせいでヴォルが始終イラついて…。知らずハリーもいらだちを募らせていた。
 ぴたりと足を止めると、そばにやってきたコリンをじっと見つめる。
「あのね、僕あまり言いたくないけど…。はっきり言って迷惑なんだ。僕は両親が死んだのに一人生き残ったことをめでたいとは思ってないし、有名人とかこれっぽちも思ってないのに追いかけられて…。僕はただヴォルのそばにいたいだけなのに、君が来るとヴォルの意識が君に向いて君と別れた後もいら立って僕のこと見てくれないのは嫌なんだ。だからもう追いかけてほしく無い。それにヴォルがもしも怒りに我を忘れて…誰かを傷つけたりするのは見たくない。」
 口早に告げ、もう関わらないで、というと競技場へと半ば駆け足で向かっていった。
 
ヴォルが誰かにいら立って…視界から僕が消えてしまっているような気がして…とてもいやだ、ともやもやする気持ちが収まらない。
  たとえヴォルデモートであったとしても…。
  史上最悪の犯罪者であっても‥。
 今はヴォルだ。ヴォルには今まで通り…特別感情を動かすようなことは僕に対してだけじゃなきゃ嫌だ、とオリバーの説明もあまり耳に入らず、ハリーは小さく溜息をこぼした。
 最近ヴォルが過去を思い出してから少しよそよそし気がして…何だろ、この気持ち、とピッチに出る。
 大体、“あの約束”をしてきたのはヴォルなのに…なのにどうして守ってくれないのだろう、ともやもやは静まらない。
 あーもう!とハリーは自分でもよくわからない感情にただ、ため息を吐くしかできなかった。
  
 ベンチではのんびりナギニが日向ぼっこをして…ふとスリザリン生が入ってきたことにハリーは目を瞬かせた。
「新しいシーカーのために練習許可をいただいたのさ、」
 ほら、スネイプ先生の許可書だ、とやってきたスリザリンチームのキャプテンは詰め寄るオリバーに突き付ける。
 新しいシーカー、と前に出てきたのは得意げな様子のマルフォイだ。
 スリザリンは皆最新式のニンバス2001を誇らしげに見せつけ、古い箒ばかりのグリフィンドールを馬鹿にする。
 
 
 朝ご飯を取ったらしいロンとハーマイオニーがやってくると、金の力でチームに入ったのか、というロンにマルフォイはふん、と笑うとグリフィンドールチームを馬鹿にしたように見る。
「グリフィンドールのチームもそのクイーンスイープ5号を慈善事業の競売にでもかけて新しい箒を買えばいいさ。」
 スリザリンチームがその言葉に爆笑するとグリフィンドールチームはじろりとにらむ。
 
「少なくとも、グリフィンドールの選手は誰一人お金で選ばれたりしてないわ。純粋に才能で選手に選ばれたのよ。」
 ハーマイオニーの言葉にアンジェリーナ達はそうよ、と頷きマルフォイはおもしろくなさそうに眉を寄せる。
「誰もお前の意見は聞いていない。出来そこないの穢れた血め。」
 マルフォイが吐き捨てるように言うと、途端に轟々と非難の声がグリフィンドールからわき上がり、何を言われたのかとわからないハリーとハーマイオニーにもそれがひどい侮辱だと言うことはわかった。
 相手チームのキャプテンであるフリントに抑えられるフレッドとジョージに金切り声を上げるアンジェリーナ。
 
 ロンはかっとなると、以前折れてからテープで補強しただけの杖…暴発ばかりを起こす杖を構える。
「くらえマルフォイ!」
 どんな魔法を使ったのか、特に唱えなかったロンだったが、逆噴射した杖によって大きなナメクジを吐き出した。
 ゲラゲラ笑うマルフォイ達からハリーとハーマイオニーは慌ててロンを抱え、その場を立ち去った。
 …後でナギニ本人からハリーが聞いた話では追いかけるナギニがマルフォイに毒を吐きかけ…たまたま這っていたナメクジにあたり、あたりにひどいにおいをまき散らしながら溶かしたことでスリザリン選手は一斉に黙ったとか…。
 ちょっと溜飲が下がるハリーはハーマイオニーとやってきたハグリッドの小屋で、あげてもいいともらったネズミの死骸をナギニに与え、その頭を優しくなでる。
 
 
「めっずらしくセルパンの姿がねぇが…なんだハリー、喧嘩でもしたのか?」
 出し切ったほうがいいと洗面器をロンに渡すハグリッドは最近見ないなと元闇の帝王を目で探す。
「ヴォルは休みに日だとこんな朝から起きないよ。家だと早かったけど…ホグワーツだとよく寝てるよ。最近は顔を隠すように寝るからどれぐらい熟睡してるかわからないけど…多分そろそろ起きてロンも僕もいないから…あ、来た。」
 ノックもせずに扉が開くと、やっぱりここか、とヴォルが入ってきて…ロンから距離をとる。
何があったんだ?というヴォルにひとしきり話をすると、聞いたハグリッドはそんなことを言ったのか、と目を丸くして、ロンと同じように唸り声を上げる。
 ヴォルはヴォルであいつ馬鹿だなと、頭を抱えた。
「いったい何のことかわからないけど…もちろん、失礼な言葉だって言うのはわかるわ。」
「あいつの考えつく限りで最悪の侮辱の言葉だ。」
 顔を上げたロンの言葉にハグリッドもそうだ、と頷く。
「穢れた血っていうのは両親とも魔法使いじゃない人を示す最低のけがらわしい言葉なんだ。魔法使いの中にはマルフォイ一族みたいなのを純血って呼ぶものだから誰よりも偉いって思っている連中がいるんだ。」
 げっぷをした拍子にナメクジが飛び出し、それを洗面器に投げ入れる。
「もちろん、そういう連中以外はそんなこと関係ないって言ってるよ。ネビルなんて見てごらんよ。あいつ鍋をさかさまに火にかけかねないんだぞ。」
「ロンのいうとおりだ。ハーマイオニーは使えない呪文なんてねぇんだしな。」
 くだらない、というロンにハグリッドも頷くと、ハーマイオニーは嬉しさに顔を赤らめる。
 
「大体、マグル生まれの魔法使いやマグルと結婚していなきゃ魔法使いは絶滅さ。」
「ロンの言うとおりだな。」
 なんとか平常心を装うヴォルはちらりと見るハリーの視線から逃げるように、窓の外を見た。
「そりゃあロンがやっこさんに呪いをかけたくなるのもわかるな。」
 そんなヴォルの様子をちらりと見ていたハグリッドはロンに逆噴射して良かったと、その背を叩く。
 
 
 




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