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 そして…ハリーはヴォルの正体がばれるのではないかとひやひやとする…胃の痛い授業を迎えることとなった。
 午後は闇の魔術に対する防衛術。
 ヴォルも一応教科書としてロックハートの本は持ってきてはいたが、全て表紙を焼いた…黒いカバーをしているような見た目をしている。
 それが机に置かれるとハーマイオニーの眉が更に釣り上ったのをロンとハリーは気が付き、二人に挟まれながらきりきりと胃が痛いような気がして深々と溜息を吐いた。
「さて、授業の前に皆さんがどれだけ私の本を読んでいるのか、覚えているかのための小テストを行います。どのくらい覚えているかのチェックですからね。」
 さっさと配られた紙を見たハリーは隣から漂うオーラが一気に下がったことにきりきりと胃が痛む。
 
【ギルデロイ=ロックハートの好きな色は? : お前に興味がない】
【ギルデロイ=ロックハートの密かな大望は?: ゴキブリに埋もれること】
【ギルデロイ=ロックハートの…      :この一年間、五体満足に終われるといいですね。】
 さっと一瞥して最後まで書き込んだヴォルは一応小テストだからと真面目に考えるハリーと…ブツブツ言っているロン…。
 そしていつも以上の気迫で望むハーマイオニー…。
 なんとなくそういうことかと、納得するヴォルは何食わぬ顔でそれを提出し、物思いにふける。
 パラパラと答案を見るロックハートはちっちっち、とにこやかに笑う。
「わたしの好きな色がライラック色だと言うことはほとんどの生徒が知らないようですね。雪男とゆっくり一年で述べていますよ。理想のプレゼントは魔法界と非魔法界のハーモニーですがウィスキーの大瓶でも構いませんよ。」
 ウィンクしながら話すロックハートにシューマスとディーンは笑いをこらえ、ハーマイオニーはうっとりと聞いている。
 
「ミス・ハーマイオニー=グレンジャーは素晴らしい。私の密かな大望についても全て満点です。ハーマイオニー=グレンジャーはどこです?グリフィンドールに10点を差し上げましょう。」
 突然名前を呼ばれたハーマイオニーはびくりと体を動かし、名前を呼ばれて私です、と声を上げる。
 寮の点をもらえたことよりも名前を呼ばれたことに嬉しそうなハーマイオニーは嬉しさが抑えきれないかのようにため息をついた。
 
  
 さて今日は、と大きな籠を取り出したロックハートはさぁ授業ですがと声をかける。
「最初に教える授業はこの世でもっとも邪悪な生き物との戦い方です。安心してください、この私がいる限り皆さんに決して危害は加えることはありません。さぁ皆さん決して叫ばないように。彼らを興奮させてしまいますからね。」
 芝居がかった声で全員に声をかけるロックハートに笑っていたシューマスたちは笑うのをやめ、縮こまるネビル達と共にじっと籠を見つめる。
「捕らえたばかりのピクシー小妖精だ!」
 籠を覆う布を取り払うロックハートに思わすシューマスが噴き出し、ロックハートがどうしたと笑いかけた。
 ハリーはハリーであっけに取られ…ロンと一緒に隣に座るヴォルを見る。
「どうしたの?ヴォル。」
「あー…うん…。つぼにはまったみたい。」
 うずくまるヴォルに首をかしげるロンに、ハリーは震えている肩を見ながら大丈夫というとあらためて籠を見つめた。
「こいつらがそんなに危険なんですか?」
 笑いをこらえるシューマスにロックハートは指を振って甘く見てはいけませんという。
「こいつらは厄介で危険な小悪魔になりますぞ!」
 キーキーと甲高く声を出し、籠の中を飛び回っては近くの生徒に向かって舌を出すなどやりたい放題な彼らにハリーはついトロールを比べてしまい…どこが危険なんだろうかと元危険人物だった相方を見る。
 ここまで笑っているということはかつてのヴォルデモートにとって彼らで脅えると言うのは、"ヴォルデモートを倒すことよりも5回連続でチャーミングスマイル賞を取ることのほうが難儀"だというロックハートはつまりはそういうことで…。
 この教科では今後も役に立つことが学べなさそう、とハリーはため息をつく。
 
「それでは皆さんがピクシー妖精をどう扱うか…やってみましょう!」
 籠の戸を明け放つロックハートに自由になったピクシーたちは一斉に飛び出すと近くにいたネビルの耳を引っ張って持ち上げ、インク瓶が巻き散らかされ…。
 ロックハートが声高だかにピクシー妖精よ去れっ!と言った杖はピクシーに投げ捨てられ…。声を殺して笑っていたヴォルから漂う気になんとなく遠巻きだったピクシーたちは甲高く嗤うヴォルにびくりと動きを止めた。
 
 ついにこらえきれなくなった、と半分机の下に避難していたハリーはちらりとあたりを見回す。
どこから聞いても悪役な邪悪さを秘めた様な笑い声に一年生の頃ヴォルは声を上げて笑わないのね、と言っていたハーマイオニーは驚いた様に見つめ、端正な顔からは想像もできない様な笑い声に他のクラスメイトもピクシーを忘れてぽかんと見つめた。
 笑いをようやく鎮めたヴォルはまだくつくつと笑いながら杖をふるう。
 外に飛び出して行ったピクシーまでもが勢いよく籠に吸い込まれるようにして入れられると、どこからともなく鍵が現れ、ガチャリと錠をおろした。
「ピクシーに…害虫に分類されているようなピクシーに…。」
 まだ笑いが止まらないヴォルは咳でごまかそうとして思い出してしまったのか再び沈み込む。
 
「ヴォル上機嫌だね。」
 肩を震わせるヴォルにハリーは机の下から出てくると倒れた瓶を直す。
 ぱらぱらと机の下から出てきたネビル達はまだ笑っているヴォルを見てびっくりしたと口々に呟いた。
「前にハリーが言ってたちょっとびっくりする笑い声って…こういうことだったのね。」
 なぜヴォルがここまで爆笑したのか、それすらも吹っ飛ぶことにハーマイオニーはまだ心臓がドキドキ言ってると深呼吸を繰り返す。
 ロックハートもまた思わず伏せたがためにずれた帽子を直し、しっかりと鍵のかかった籠を見て目を瞬かせた。
 鐘が鳴り、出ようと促すハリーに笑いすぎて腹が痛いと言うヴォルはさっさと次の教室へと向かう。

 
 
 




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