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薬草学の授業に向かう途中、暴れ柳の方から苛立つスプラウトと帽子をちょっと斜めにかぶった着こなしをするロックハートが歩いてくるのが見え、温室前で立ち止まる生徒達に向かってくる。
その後ろには包帯で吊っている暴れ柳が立っているのが見え、その痛ましい姿にまたハリーはため息をついた。
 
「やぁ。みなさん!私がスプラウト先生に暴れ柳の正しい治療方法をお見せしておりましてね。あぁ勘違いなさらないでください。私の方が薬草学に詳しいのではなくたまたま旅先で暴れ柳と言うエキゾチックな植物に出会ったことがあるからでしてね。」
「さぁ三号温室へ!」
 得意げな様子のロックハートに不機嫌なスプラウトはさぁ、と危険な植物が多く栽培されている温室を示した。
 ハーマイオニー達と共に温室へと入ろうとしたハリーは突然肩を掴まれ、にこやかなロックハートを振り向いた。
ちょっとハリーを2,3分よろしいでしょうか、とスプラウトの返事も聞かずに扉を閉めると、ハリーの肩に手を置いた。
「ハリー、君と話がしたかったんだ。君が車で来たことを聞いた時、私は自分を責めたよ。」
 戸惑うハリーをそのままににこやかに話すロックハートはいわく自分が“有名虫”をハリーにつけたがためにハリーが目立とうとして車で来てしまったと…そう言っているらしい。
 
「『チャーミング・スマイル賞』に5回も続けて私が選ばれたことに比べたら『名前を呼んではいけないあの人』とかいうことで少し名前が知られている君がしたことは大したことがないでしょう。それでも…」
「ロックハート先生、これからマンドレイクを抜くようなので、ハリーのためにももういいですか?貴方のその自意識過剰な意見とかどうぞトロールにでも自慢しててください。あと帽子曲がってますよ。ハリー、早く入りな。」
 戸惑うハリーの背後で扉が開くと、ヴォルが顔を出し大人しい生徒ですと言う顔で目だけは冷たいまま告げるとロックハートが反応するよりも前にハリーを抱き寄せながらその鼻先で扉を閉める。
 
 ハリーが中に入ると、スプラウトは授業を始めた。
 ヴォルの言うとおり、マンドレイクの植え替えをおこなうと言うことで待っていたスプラウトはまだ不機嫌な様子がぬぐえないようだったが、ヴォルの声が聞こえていたらしく、ふんと頷いてみんなにマンドレイクの説明を始めた。
 ちらりとハリーがヴォルをうかがうと、怒っているのか黒いオーラがうすら漂う。
「あの糞…。ヴォルデモートを倒したことがくだらない賞に5回も選ばれたよりも大したことがないだと?俺様よりもあの気持ち悪い笑みで5回選ばれたことが上だと?他にあの気持ち悪い顔の奴がいなかったの間違いだろう。」
 あぁそれで怒っているのかと、ぶつぶつと他の人に聞こえない音量で…蛇語で悪態をつくヴォルに小さくため息をつく。
 あの先生、もしもまたやめるとしたらヴォルのせいかもしれない、と少し苛立ちを覚えるハリーはヴォルの手を握らず、耳当てを被った。
 
 授業が終わってもヴォルの怒りと…そしてヴォルに対してハーマイオニーの怒りが始終4人をぴりぴりとした空気で包み、ハリーとロンはそろってため息をこぼした。
 ヴォルが苛立っているのはわかるが、何故ハーマイオニーがヴォルに対して苛立っているのか…全然わからないとこがね虫をあっという間にボタンに変えたハーマイオニーを見るが答えは全く分からない。
 
 
「あっあの!!ハリー=ポッターってあなたですよね!」
 中庭で休憩時間を堪能していると、突然声をかけられハリーはその声の主を振り向いた。
 そこにはホグワーツに来た際に組分けされていた少年がカメラを手に顔を輝かせながら息を弾ませていた。
 そうだけど、と頷くと更に顔を輝かせ、あの、と更に大きな声を出す。
「グリフィンドールのコリン=クリビーっていいます。マグル出身で…その…魔法使いについて調べていたらあなたの名前を見て…それで父や母に一緒の学校にいるって証拠を見せたくて。写真とってもいいですか!?」
 写真、とカメラを持ち上げるコリンにハリーはへぇっ!?と声を上げて目を瞬かせる。
なんだか恥ずかしい、とだっだめと慌てて首を振る。
「ぼっ僕、この学校に来ていろいろと聞いて…例のあの人についてとか…。ちゃんと現像すれば動くって聞いたので。そっそれでもしよかったら一緒に写ってもらってサインを入れてほしくって。」
 ぐいっと前に出てくるコリンはハリーの稲妻形の傷痕を見るとさらに興奮したかのように顔を紅潮させカメラを前に出す。
 サインと言われたハリーはなんだかあたまがくらくらする、と恥ずかしさやらで声が出ない。
「さっサイン入りだなんて…。」
「あいにくハリーは…あーなんだっけ?チャーミング賞とかいうくっだらない賞をもらった馬鹿と違って有名人じゃない。それに、例のあの人なら自分だって倒せたってクソ間抜け馬鹿に言われるぐらいなんだからそんなにすごい事じゃない。のと…今俺の機嫌が最高に悪いから…カメラしまわないと頭ごと弾き飛ばすぞ。」
 困っているハリーをぐいっと抱き寄せるヴォルはさりげなく前に出ながら冷たい目で見下ろす。
 言葉の端々に普段優等生ですと言う風なことを装うことも気にしない素のヴォルがちらちらと見え、コリンの命が危ないとその意味でもハリーはあたふたとする。
「おやおや、ポッター。サイン入りの写真を配っているのか?おいこっちきてみろよ、ハリーがサイン入りの写真を配っているとさ!」
 あーどうしようと考えるハリーをよそにマルフォイの声が聞こえて、ハリーは収拾がつかなくなってきたと頭を抱えた。
 
「おや!なんの騒ぎかと思えば!ハリーまた会えたね!」
 心底今会いたくないです、とだんだん不機嫌なオーラが増していくヴォルの手を握りながらハリーは聞こえた能天気なロックハートの声に深々と溜息をつく。
 脅されていたコリンは赤く目を光らせるヴォルから目を移すと、有名な…ヴォルいわく“クソ間抜け”をみてロックハート先生、と声を上げた。
「よし、クリビーくん、さぁ私と一緒の写真だ。さぁハリー!」
 どう収集つければいいんだろうと悩むハリーをよそにヴォルとつないだ手が離れ、またむりやり肩を掴まれるとはしゃぐコリンを見ていられず…。
 バーンッという派手な音と共にロックハートの帽子が吹っ飛び、ロックハートとハリーは驚いて振り返る。
 ロックハートの背中すれすれに落ちた落雷はぶすぶすとロックハートのマントを焦がしていた。
 びっくりした反射でカシャッと軽い音が聞こえたが、ロックハートとしては晴天だったはずの落雷に驚いたらしく中庭は危ないから屋内に入るようにと言うとそそくさと退散していった。
 慌ててヴォルの前に駆け寄るハリーはヴォル?と声をかける。
だが、よほど苛立っているのか返事はない。赤い目がコリンを見ていることに気がついたハリーはヴォル、と強く呼びながら顔を自分に向けさせた。
 両手で挟んで覗き込むハリーにようやく目の焦点が合うヴォルは若干顔を赤くして飛びずさり、びっくりしたとため息をつく。
「とにかく、あんまりハリーを困らせると俺がぶちぎれそうだ。あんまりしつこいとナギニの毒飲ませるからな。」
 ハリー可愛かった、と心の中で呟くとコリンを見下ろしてわかったな、というとハリーの腕を引いて次の教室へと足を向け…次の授業を思い出して舌打ちをした。
 
 
 




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