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 監禁二日目
二人でパンを分け合い、冷えた缶のスープを食べるとどうしようか、と帰ってこないヘドウィグを探して空を見る。
 やっぱりどこかに避難したんだろうと、ハリーはため息をついた。
「ハリー。一応この機会に聞くけど…俺…その。」
 やることがないな、とダドリーの昔のおもちゃを弄ぶヴォルは空を見るハリーに声をかける。
 何?と振り向いたハリーは気まずそうなヴォルを見て正面に向き合う。
 言いよどむヴォルに小さくため息をつくとあのね、とハリーが口を開く。
「前に言ったように、僕はヴォルが好きだし、たとえヴォルがまた暴れそうになっても僕がちゃんとみてるよ。それに、ヴォルが昔を思い出しても僕にとってはヴォルはヴォルだから。だからそんなに責めたりしないで。じゃないと…寂しい。」
 自分の正体がヴォルデモートだと自覚してから戸惑うことが多くなったヴォルの手を握り、だいじょうぶだから、と念を押す。
 本当に?と目で問うヴォルにハリーが頷くと、ハリーと言いながらぎゅうっと抱きつく。
「ありがとうハリー。俺の時代にハリーがいてくれたらよかったのに。生まれた時代を呪いそうだ。本当に大好きだ。」
 ハリーは俺の癒しだ、と額に口づけてさらに強く抱きしめた。
勢いで大好きだと言ってしまい、顔が熱い、とヴォルは抱きしめたまま焦るあまり、耳まで赤くしたハリーには気がつかずしばらくそのまま抱きしめ続けた。
 
 
 すやすやと眠る寝息にぱちりと目を開けたヴォルは眠れない、と心の中で呟く。
 ゆるく抱きしめる形で眠っていたハリーの寝息に若返った体が反応してしまう。
肘をついて頭を起こすと眠ったハリーの髪を手ですく。
 ふと、寝息を静かにこぼす唇に目を止め、どきりと鼓動を跳ね上げる。
車の音が遠くで聞こえるなと考えながら吸い寄せられるようにして唇に顔を寄せ…。
 がたがた、という音にはじかれるようにして離れると、そのまま寝台を転がり落ちる。
 ヴォルが落ちる音で目が覚めたハリーが窓を見ると、気まずそうな赤毛が頬をかいていた。
「あー…なんかごめん。」
 黙ったまま起き上がるヴォルにロンはなんというかと言いよどむ。
「本当に二人は一緒に寝ていたんだな。」
 何故かにやにやとするフレッドかジョージかが顔をのぞかせ、ヴォルは暗くてよかったと顔を手で覆う。
「どうしたの!?というかどうやって…」
 鉄格子に飛びつくハリーは宙に浮く車にぽかんと口を開き、ヴォル見てよ、と引っ張り上げる。
 
 初めて見るものに目を瞬かせるヴォルは車の屋根にいる梟に目をとめた。
「ヘドウィグ!もしかしてナギニもロン達のところに行ってたのか!?」
「そ。だから何かあったんじゃないかって。親父の車借りてきたんだ。ロン、鉄格子外すぞ。」
 話はあとだ、と鉄格子を車の力を使って外すと、荷物は?と二人に問う。
階段下の物置と答えると、ヴォルはハリーを押し上げ、先にのるように促す。
 マグルの知恵だよ、といって多分フレッドと思われる方がヘアピンで鍵を外すと、ロンと二人静かに下りて荷物を取りに行く。
 ヴォルもまた手伝いに行くと、ほどなくしてトランクをひっぱりあげてきた。
 なんとか車に引っ張ると、早く行こうとロン達が乗り込む。
ヴォルが窓枠に手をかけるとガチャリと言う音が聞こえて、思わず全員で扉を見つめた。
車の音に気がついたのか、起きたらしく、廊下を歩く音が聞こえる。
「ヴォル、早く!」
 焦るハリーがヴォルに声をかけると、廊下にいる人物も気がついてしまったのか、扉が開く。
 ヴォルが窓枠を飛び出し、車に乗り込むと驚いた様子のバーノンが扉にたっていた。
 小僧ども!と駆け寄ると同時に車を発進させ、また来年の夏に、と言って呆然とするバーノンを置き去りに空のドライブへと旅立っていった。

 
「それで、手紙の返事が来ないから心配していたら突然ナギニ入りの袋を持ったヘドウィグが来て…。」
「手紙にあった通りそのままご飯あげてから戻したんだけど…今度はナギニだけ連れてやってきて。」
「ナギニは何があったのか脅えて袋から出てこないし何かあったんじゃないかって。それで今夜迎えに行こうって。」
 ロンと双子が交互にここに来た経緯を話すと、何があったんだ?という。
やってきた屋敷しもべ妖精ドビーの話しをすると、変な話だなと3人は首をかしげた。
「屋敷しもべっていうのは金持ちの魔法使いに家にいるんだけど…。そいつは悪戯じゃないかな。」
「俺もそう思うんだが…なんとも奇妙な感じで…。」
 思い出しただけで腹が立つ、というヴォルは杖が戻ったことにほっとして今度会ったら呪いをかけてやる、と黒いオーラを出す。
 そろそろ見えてきた、というと車は高度を下げていく。
「これ飛ばしたことはおふくろも親父も知らないんだ。だから夜にこっそり戻って。」
「夜にどんな客が来たと思う!?って…いう…んだけど…」
「やばい。ママだ!」
 薄暗い中、不思議な車を車庫に戻して朝焼けにぼんやりと見える家に向かう途中、こそこそと話すフレッドはジョージの言葉に顔を上げてロンともども顔を青ざめる。
 
 腰に手を当てて背の高い息子たちを見上げる恰幅のいい赤毛の女性は何かいうことは、と視線で促す。
 母親より背が高い3人は小さくなりながらえーっとと目を泳がす。
「素敵な朝だね!!」
「すがすがしい朝だ!」
「ベッドはもぬけの殻!車はなし!どれだけ心配したと思っているの!!!」
 ごまかそうとするフレッドとジョージを叱り飛ばし、体を膨らませるとなぜか息子たちよりも大きな存在に見えてハリーとヴォルは寄り添う。
「誰かに見られたりでもしたらお父さんは職を失うかもしれなかったのよ!」
「でも見られないように高く飛んだし…。」
「そういう問題じゃありません!!」
 すっかり小さくなった息子たちに怒鳴ると、説教が続きやがて3人が完全に打ちのめされると今度はハリー達に顔を向ける。
 
 あまりのことに圧倒されていたハリー達だが、ウィーズリー夫人はにこりとほほ笑んだ。
「まぁ何かあったんじゃないかって明日にでもうちに誘いに行こうと思っていたのよ。疲れたでしょう。狭いけど、ゆっくりしてってちょうだい。」
 さぁいらっしゃいと先ほどの怒りはどこへ行ったのか、にこにこと笑うとヴォルとハリーを促す。
 あくびして俺たちも休むか、というフレッドとジョージにウィーズリー夫人は顔を怒りの顔に変えると眠れなかったのはあなたたちの勝手でしょうと言って許さない。
 不満げな声を上げる息子たちをおいたてると、二人を家へと招き入れた。
 
 
 




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