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 翌日、目が覚めると怒ったマダムポンフリーにハリーともども小言をいわれ戻る準備をしていると、面会者がきていますよ、とマダムポンフリーがいう。
 誰だと振り向いたヴォルとハリーの視界いっぱいにハグリッドの大きな体が広がっていた。
 小さな椅子…本来はそれで十分な椅子だが、それに座ると声を上げて泣き出した。
「おれがあやしい奴なんかにフラッフィの秘密をしゃべっちまった!もう酒はやらんぞ!ハリーをこんな危ない目にあわせて…。」
「ハグリッド!もう大丈夫だから!それに、ヴォルデモートの魂はきっと他の事でも出てきたし、ヴォルが二人にならずにすんだんだから。それに、ヴォルはハグリッドに聞く前にもうフラッフィーの弱点気がついていたし、いずれはヴォルデモートだって気がついていたよ!」
「その名前を言わんでくれ…と…え…?」
「あぁ、そうか。ハグリッドも俺の事知っているようだったな。俺が誰だったか…今回の騒動で思い出した。安心しろ。ハリーはハグリッドが思うよりもずっと強いし勇敢で優しいんだから。」
 大男が泣く姿に戸惑うハリーは大丈夫だから、という。
途中で聞こえたヴォルが二人にならずにすんだ、という言葉にハグリッドは泣きやむと、自分を見つめる赤目の少年を見た。
 
 ヴォルがかつてヴォルデモートであったことを思い出したと告げると、ハグリッドは驚き、目を瞬かせた。
「あぁ、以前のようにハリーに危害を加えるとか、そういうのは全く考えてない。」
 ハリーには全く危険はないと言うヴォルにハグリッドはぽかんと口を開け、ちらりとハリーをみる。
「そっそれじゃあ…。」
「あの夜の事もとぎれとぎれだが思い出した。ハリーは俺の事を俺が気がつく前に気がついていた。それでも一緒にいてほしいと言ってくれるハリーを守っていくって決めた。」
「ヴォルはヴォルだからね。ずっと一緒だったんだ。これからもずっと一緒だよ。」
 口ごもるハグリッドにヴォルはあの夜の事、と自分が赤ん坊になる前を覚えていると告げる。
 ハリーのこれからも一緒という言葉にありがとう、と張り付くヴォルをハグリッドは唖然としたまま見つめた。
「ほら、パーティーに行くならもう行かなければなりませんよ!」
 マダムポンフリーの言葉に飛び上がるハグリッドに椅子が悲鳴を上げ、きまり悪そうにハグリッドは咳払いをする。
 
 
 実はこれをハリーにと、小奇麗な革表紙の本の様なものを取り出した。
「昨日これをつくるのにダンブルドア先生に休みをいただいてな。本当はクビになってもおかしくねぇのに…。」
 なんだろうと、表紙をめくるとそこにはぎっしりとハリーに笑いかける男女の写真があった。
「リリーポッターとジェームズポッター…の写真か…」
 記憶にあるあの恐怖と憤りを携えた顔ではなく、笑顔の二人にヴォルは呟いた。
「ハリーの両親の学友たちに写真を送ってもらえないかと梟を送ってな。ハリーは一枚も持っていないだろうし…気に入ったか?」
 あの鏡の一件以来見ていなかった両親の笑顔にハリーは思わず言葉を失い、こくりと頷いた。
「あ、そうだヴォル。ヴォルがどうやって赤ん坊に戻ったかわからないけど、多分…多分ママが…おかあさんが赤ん坊だった僕に何かしらの恐怖のようなものを抱いているヴォルデモートに人生全く違う世界があるってこと、もう一度世界を見直してほしかったんじゃないかなって。だから…僕の両親はヴォルデモートに殺されたけれども、ヴォル=セルパンをこの世に生み出した…ヴォルにとっても親なんじゃないかな。だって今のヴォルってあの霧見たいなヴォルデモートとは全然違うから。」
 罪悪感からか胸が締め上げられるような思いのヴォルに気がついたハリーは、少し眉をしかめたヴォルの頬を両手で包むとね、と笑いかけた。
 もう一度生まれ変わってやり直すチャンスをくれた親…。
思い出せない記憶の中に自分の両親の事も含まれているヴォルは、親と聞いて嫌な思いしかしなかったのがハリーの言葉とアルバムから笑いかける男女の写真にじんわりとした温かな気持ちが心に広がっていく。
「そう…心から俺も思える日が来るといいな。今はただ、ハリーのその気持ちと、なんだか心が軽くなったようなこの気持ちだけで…うれしい。ありがとうハリー。」

 
 大広間へ向かうとスリザリンカラーに彩られた空間になっており、蛇の旗がなびいていた。
「ハリー、ヴォルこっちこっち。」
 呼ばれて目を向ければそこにはハーマイオニー達がいて、ちらちらを見つめる視線を掻い潜りながら二人は席へと着いた。
 ざわざわとした声が広がると同時にダンブルドアが入ってきて静かにするようにと号令をかける。
「また一年がたった!この一年で君たちの頭に何か残ってくれればよいのじゃが。さて、頭が空っぽになる夏休みがやってくる。それではここで寮対抗杯の表彰を行おう。」
 大広間に響き渡るダンブルドアの言葉に仕方ないか、と最下位のグリフィンドールの点数にハリー達は顔を見合わせた。
 一位スリザリンと言われたところでマルフォイらが大喜びしている姿にヴォルはスリザリンも変わった気がするなっと、そう考えたところであ、と思いだした。
 見たことがあると思ったこの城の外観は過去に入学していてその時はスリザリンだったと、その情報だけ不意に思い出す。
 騒いでいる中、ハリーはヴォルの表情から何かに気が付き、そっと耳を寄せる。
「ヴォルってやっぱりスリザリン?」
「そう。帽子が驚いた理由がやっとわかった。」
 念のためかパーセルタングで話すハリーにヴォルもハーマイオニー達に気付かれないよう小声でハリーに返事をする。
 まぁ静かにと声をかけるダンブルドアは大変よくやった、と言う。
 
「さて、最近の事について追加点を与えなければならない。ロナルド=ウィズリー!ホグワーツでも最高チェスの試合を見せてくれた!40点の加点とする!」
 ダンブルドアの言葉に喜び一色だったスリザリンから笑みが消え、点数を大きく入れることとなったロンは目を瞬かせた。
 あっという間にジョージ達にもみくちゃにされ、ハリー達は笑うとマクゴナガル先生を見た。
彼女の守りだったことからどういうことが起きたかはよく分かっているらしく、とても嬉しそうな誇らしげな顔でロンを見ていた。
 
「次にハーマイオニー=グレンジャー!その冷静な判断力と、友人を信じ抜いたその強い心に40点を加点する!」
 まさかの加点に嬉しそうなハーマイオニーは思わず机に突っ伏し、良かった、と肩を震わせる。
 
「次にヴォル=セルパン!大人でさえ一人で立ち向かうのは危険な大人のトロールに対し、冷静かつ勇敢にたたかい、あげく倒したその強さと勇気に40点を加点とする!」
 今度はヴォルが目を瞬かせる番だったが、それよりもトロールを倒したということに畏怖や尊敬やらが入り混じった視線がハリーの隣に注がれる。
 
「さて、4番目にハリー=ポッター!並はずれた勇気と、数々のヒントから真実を見つけ、それを受け止める寛容かつ柔軟、まっすぐなその心に50点の加点とする!」
 耳をつんざくほどの大音響は大広間に響き渡ると同時に、ダンブルドアが何を示して言った言葉かわかるヴォルはハリーに飛びついた。
 飛び付かれたハリーは驚いたものの、嬉しくてヴォルに負けじと強く抱きしめ返した。
これでスリザリンと同点になったと叫ぶ声が聞こえ、トロール倒したなら50点だっていいじゃないかという声も上がる。
 
 それを手で制するダンブルドアはさて、と咳払いをした。
「勇気には様々な種類がある。友を助けるための勇気。人を許す勇気。愛する者を守る勇気。敵に立ち向かうには大いなる勇気が必要じゃ。じゃが、時に友を助けるため友に立ち向かう勇気も必要じゃ。そこでわしはネビル=ロングボトムに10点を与えたい!」
 ダンブルドアの言葉でネビルは驚きのあまり顔が白くなり、あっという間に他のグリフィンドール生らに取り囲まれて見えなくなる。

 模様替えをしなければの、とダンブルドアが手をたたくとスリザリンの旗はすべてグリフィンドールの旗に変わり、緑と銀を基調とした内装が赤と金を基調とした物に代わっていく。
 見てみろよハリー、とロンが示す先では唖然とした様子のマルフォイがおり、ハリーとヴォルは視線をかわすとにこりと微笑み合った。
 一角だけ落ち込んだまま他の寮と共にお祝いをするハリー達は皆にもみくちゃにされながらも波乱万丈だったけど楽しい一年だったと笑いあった。
 
 
 




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