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あっと、ヴォルは違和感に気がついて自分の左腕を見た。
ハリーから貰った大切なあれがない。
「ブレスレットじゃったらヴォルデモートの魂からお主を守ったのか、黒くすすけて割れておった。」
残骸だけならサイドテーブルにあるじゃろう、とダンブルドアにいわれ割れてバラバラになった腕輪を見つけた。
ヘドウィグの羽根から作ったそれは少し魔法が解けてしまったのか、バラバラになった羽根が断面から覗いていた。
小さくため息をつくヴォルにハリーは役に立ってよかったと笑う。
「ハリーのペンダントも直さないとな。」
「ヴォルのお守り少しひびはいっちゃったけど、僕の事守ってくれた。ありがとう。さすがヴォルのだね。」
手に口づけられたことで顔を赤くしたハリーはペンダントを握りしめて自分を覗き込むヴォルを見上げる。
どれだけ時間が経ったのか、ダンブルドアの咳払いで慌てて離れると、ヴォルはこの爺の前だったと、背を向けた。
「明日は学期末のパーティーじゃ。マダムポンフリーから今夜一晩ゆっくり眠ったら出てもよいといっておった。」
そろそろ失礼するかの、というダンブルドアにまだ顔の赤いハリーはそうだ、と顔を上げた。
「ありがとうございます。えっと…ダンブルドア先生、質問してもいいですか?透明マントを僕にくれたのが誰か…というのとなんでスネイプ…先生は僕の事を嫌っているんでしょうか。」
「おぉ、あの透明マントは君の父上、ジェームズがたまたまわしに預けておったのじゃ。在学中はそれを使って夜で歩いていたようじゃな。それとスネイプ先生じゃが、あまり仲が良くなくて顔を合わせるたびに呪いをかけあっておった。そして、スネイプ先生の命を…別のとある友人の悪戯で危うかったのをジェームズが助けた。命を大嫌いなものに助けられたと借りができてしまったことが許せなかったようじゃ。この一年間、君を守ることで借りをなくそうとしたようじゃが…大体をセルパンにとられてしまったからの。来年もまた同じような態度じゃろう。」
スネイプがハリーを嫌う理由と、箒の呪いを解こうとしたこと、率先して危うい場面に一人で向かっていたこと…
それらを説明するダンブルドアにヴォルは噂程度の誰かの言葉を思い出した。
相変わらずかつての記憶があいまいだが、多分それは興味がなくて聞き流していたからだろう。
「おぼろげではあるが…スネイプは…三角関係がどうだとか、馬鹿なことをしてふられた逆恨みだとか、寝とられ乙という話を誰かしらが言っていたのを今思い出したが…。そういうことがあったのか。なるほどな…。」
まさか今になってからこの情報が意味をなすとは考えていなかったヴォルは首をかしげるハリーに気にしないで、と笑いかける。
ヴォルの言葉にニコニコとした笑みを浮かべていたダンブルドアはそのままの表情で微妙な空気を出す。
言ってやるなと言わんばかりの空気にヴォルは肩をすくめて見せた。
外で待っている者がおる、とダンブルドアが外に出ると入れ替わりでハーマイオニー達が駆け込んできた。
「あぁよかった!二人とも全然目を覚まさないから。」
「本当によかったよ。学校中この話でもちきりだったんだ。何があったんだい?」
よかったというハーマイオニーにロンもまたほっとした表情で笑い、あれから何があったのかと二人にきく。
ちらりと顔を見せあったハリーとヴォルはそれぞれの戦いを二人に話した。
その中でヴォルの正体だけは一切触れずに、ヴォルデモートの魂と出会い、戦った話だけをする。
ヴォルデモート魂と、クィレルの変貌…それとハーマイオニーを見送った後のトロールとの戦い。
それを伝えるとハーマイオニーとロンはヴォルデモートの魂だけでも口をあんぐりと開けていたのに、さらにそれを撃退したことと、と大人のトロールを倒したという話に驚きを通り越して目が点になって、話し終えた後もしばらく言葉を失っていた。
「二人はあれからどうしたんだ?俺はトロールを倒した後気絶したから、どのタイミングでダンブルドアが来たかわからないんだが…。」
「僕は…名前を呼ばれた気がしたけど、すぐ気絶したから…。」
まだ自分が何者かわからない時に、まさか自分でも大人のトロールを倒せるとは思ってもいなかったヴォルはそりゃおどろくな、と頬をかく。
ハリーとヴォルの言葉にはっとなるハーマイオニーはトロールの部屋から脱出した後の話をする。
「ロンを起こして…なかなか起きなかったの。それでほら、鍵の部屋の箒。笛を吹きながらあれで飛び出して玄関に行ったところで向こうからダンブルドア先生が走ってきて‥。」
「ハリーはもう行ってしまったんじゃなっていうなり矢のように駆けっていったんだ。まるでハリーがこの騒動に入っていったのを知っていたみたいに。」
ダンブルドアってホント変わってるというロンにヴォルは怒りを表面に出さないよう気を付ける。
あの狸爺知っていたならどうにかしておけと内心毒づくと、ハリーの手を握る。
「たぶん…ダンブルドア先生は僕が誰と対峙することになるかわかっていたと思うんだ。僕がヴォルデモート…例のあの人に対しどうするのか、どう考えるのか、その機会をくれたんだと思う。おかげでいろいろ考えたりすることができたから…危なかったけど、絶対ヴォルが守ってくれるって信じてたし。」
ね、というハリーに怒りを離散させるヴォルは長い溜息を吐いてだろうな、と口の中で呟く。
それよりも自分の正体とかに気がついていたハリーが、ずっと自分を信頼していたことに今すぐ抱きつきたい衝動をぐっとこらえる。
ちょっとそわそわとするヴォルにハーマイオニーは気がつくと、本当にこの二人は仲良しねとくすりと笑った。
「そうだ、明日は学年末のパーティーよ。マダムポンフリーもきっと許してくれるわ。」
「得点は全部集計が終わって、まぁスリザリンが優勝したんだ。レイブンクローとのクィディッチの最後の試合でこてんぱんにやられちゃったしね。でもごちそうはあるから。」
明日は学期末最後のパーティーで、もうすぐ夏休みが来ると言うことを告げるハーマイオニー達にヴォルとハリーはそろって渋い顔をする。
ヴォルとしてはハリーの腕を見込んでシーカーに抜擢しておいて、点数を大幅に減らされたぐらいでつまはじきにして…
一勝したぐらいであの騒ぎだったくせにハリーを除いて勝てるはずがないだろうと、クィディッチの選手を思い浮かべて毒づく。
「さぁ!もう就寝の時間です!」
マダムポンフリーが手をたたくと、さぁさぁと言ってハーマイオニー達を追い出すと、ハリーの隣にいたヴォルに自分のベッドに戻りなさいと一喝して二人が横になるまで見張り続ける。
マダムが部屋を出て行ったのを確認すると、ヴォルはハリーに飛び付く機会を失ってため息を吐いた。
それにしてもこれから先、ダドリーの家でどういう反応をすればいいのだろうと家を出るべきだろうなと寝返りを打った。
布がこすれる音がして振り向こうとしたヴォルの背にハリーが寄り添う。
「ヴォル、お願い。ずっとそばにいて。僕がヴォルを見ているから。それに、ヴォルが僕の事守ってくれるんでしょ。なら、僕がヴォルの事守るから。だから…いやかもしれないけど、まだダドリーの家で一緒にいてよ。」
抱きつくハリーの言葉に、家を出ると言う選択肢が一瞬で消えるヴォルはくるりと振り向いてハリーを抱きしめ返した。
しばらくして、ハリーの言葉を頭で判読するヴォルはん?と首をかしげた。
ずっととか、まだとか、継続する言葉が出たということは…。
「ハリー…ハリーも俺の事をその…想ってくれて…。」
顔が赤らむヴォルはハリーに問いかけると、反応がないことに顔を覗き込んですっかり寝てしまったことに肩を落とした。
自分がかつて付けてしまった稲妻のような傷痕に口づけると柔らかなハリーの髪をなでる。
仕方がない、とそのままヴォルは深い眠りへと落ちて行った。
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