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「クッションがあってラッキーだった…。」
「ラッキーだったですって!?皆、早く離れないと!」
 ほっとするロンにハーマイオニーは早くと三人を促した。
 ハーマイオニーが落ちたと同時に動き出した地面にヴォル達はぎょっとすると、ハリーは持ち前の俊敏さを生かして蔦が絡む前に脱げだし、ヴォルも同じように抜け出す。
「何なんだよこれ!」
「悪魔の罠…スプラウトの守りか。」
 焦るロンは一人逃げ遅れ、素早くからみつく蔦を引きはがそうと暴れる。
「ロン、動いちゃだめよ!えぇっとどうしたらいいのかしら…。先生の説明では暗闇と湿気を好む…。」
「だったら燃やしてよ!」
 ぶつぶつと必死に頭をフル回転させるハーマイオニーに何とか首を絞められないように身をよじるロンが叫ぶようにいう。
「でも薪がないわ!!」
「ハーマイオニー、この前の教えた呪文を使え!」
 慌てるハーマイオニーに反対側の壁に寄っていたヴォルは、約束の手前呪文を使うのをためらうと、ハーマイオニーにクィディッチの試合中にハリーを助けるために伝えた呪文を思い出させる。
あ、というハーマイオニーは杖を構えるとリンドウ色の炎を悪魔の罠めがけ放った。
 
 緩んだすきに脱出するロンはこっちだと言うハリーのそばに駆け寄り、四人は次の部屋へ続く扉に入って行った。
「突然の事でびっくりて…一年間で魔法界の事覚えたつもりなのにいざとなるとだめね。」
「ありがとうハーマイオニー。でも薪がないだなんて…。」
 首をさするロンにハーマイオニーはため息をつくと、マグルの生活では近年まきは使わないの、と答える。
 
 
「さてと…。次の扉は真向いにあるけど…問題はこいつらだな。」
「横切った瞬間襲いかかってくるのかな。」
 ハリー達の言葉につられて上を見上げるハーマイオニーとロンは羽ばたく無数の奇妙な鳥に目を瞬かせた。
 とりあえず行こうと言うハリーの言葉に走って横切るが特に鳥の反応はない。
 扉には鍵がかかっており、ハーマイオニーの解錠魔法アロホモラでも開かなかった。
「鳥…あ!あれ鍵だ!鍵に翼が生えてる!!」
 ずっと見上げていたハリーが声を上げると、辺りを見回し頷いた。
「これは多分フーチ先生かフリットウィック先生の守りだと思う。ほら、箒があるし…。ほらっ!あそこ飛んでいる鳥の翼が一度捕まったみたいに折れてる!あいつだ!」
 壁に置かれている箒を手に取ったハリーはここはまかせてと言うと鳥たちの群れに向かって飛び立ち、銀製でできた羽の曲がった鳥をしめす。
「箒はまだあるわ。ハリー指示を出して!みんなで追い込むわ!」
 三人も箒にまたがるとハリーの指示に従い急降下や急上昇、そして壁側に追い込む軌道で逃げ場を失った鍵をハリーががしりとつかむ。
 バタバタともがく鍵を無理やり鍵穴に刺すと扉は開いた。
よろよろと飛び立つ鍵をしり目に次の部屋へと進む見上げるほど大きな石像が立っていた。

「チェスだな…。」
 地面の模様と並んだ駒を見るヴォルが呟くと、ロンは見慣れたチェスを思い浮かべて青ざめた。
 魔法使いのチェスは少々乱暴だ。
 それをこの見上げるほど大きな石像でやるのか、とごくりと唾を飲み込む。
「どうやらチェスで勝たないと先には進めないようだね…。」
 どうしようというハリー達は顔を見合わせて白の駒の向こうに見える扉を見る。
「ここは僕に任せてくれないかな。ほら、僕、唯一ヴォルにも勝っているし…。気を悪くしないでくれよ。でも…」
「この状況で誰が気を悪くすると思うんだ。指示はまかせた。」
「そうよロン。どこにたてばいいか教えて頂戴。」
「ロンなら大丈夫。どうすればいいか教えて。」
 名乗り上げるロンはこのゲームの怖さがわかり、三人の顔を見た後で覚悟を決めるように拳を握りしめた。
 そんなロンを励ますかのように返事を返す三人に頷き、せめて安全そうなコマの場所にと考える。
「ハリーはビショップ。ハーマイオニーはその隣のルーク。ヴォルはクィーンのとこだ。僕はナイトをやる。」
 ロンの指示通り石像がどくと各々の役割を持った配置についた。
緊張した面持ちのロンはポーンに動くよう指示を出し、自分と対になっているナイトを前にださせる。
次の番で相手の駒に倒され場外に運ばれる光景に目を見開いた。
「こうしなきゃいけなかったんだ。」
 震える足を叱咤するロンはハリーに進むよう指示を出すと、だんだんと相手の駒が減り、自分たちの駒もじりじりと減っていった。
 
 
 何かを考えるロンはハリーの位置と相手の駒の配置、そして自分の位置を考えるとこれしかないと拳を強く握り締めた。
「これ以上時間をかけているわけにはいかない。次のターンで僕がクィーンにとられる。そしたら開いたあそこにハリー、君が進むんだ。それでチェックメイトだ。」
 それしか方法がない、というロンにハリーとハーマイオニーはだめ!と叫ぶように返した。
「先にいった奴はもう石を手に入れているかもしれない!こんなところでぐずぐずしているわけにはいかないんだ!チェスには犠牲はつきものだ。それに、これきっとマクゴナガル先生の守りだ。いくらなんでも先生が仕掛けて誰か死なないようにって対策はしているはずさ。」
 だから先に進むんだというと、なおも心配げな二人と、本当に大丈夫かを見極めようとするヴォルを見る。
 大丈夫と目で返すロンは緊張した面持ちで前に進むと、つられてきたクィーンに殴られ、その場に昏倒してしまった。
 場外に運ばれるロンに思わず踏み出そうとしたハーマイオニーはすんでのところで足を止め、ハリーが指示通り動いたことで相手は完全に降伏を認めた。


 自由に動いても大丈夫と、そう判断してロンに駆け寄るハリーは気絶しているロンを揺さぶる。
「気絶しているみたいね…。」
「無理に動かさない方がいいだろう。」
 様子を見るハーマイオニーに怪我はないようだな、と言うヴォルはどうしたものかと考えていた。
「伝言を残して先に進むしかないと思う。」
 先を急がなければいけないなか、葛藤する二人にハリーは気絶したロンも心配だけど、という。
大丈夫と言った論を信じようというハリーにハーマイオニーとヴォルは顔を見合わせて小さく頷いた。
「もし気が付いたらダンブルドアに連絡してもらおう。ハリーの笛を置いておけばフラッフィも抜けられるだろう。」
 ポケットから小さな羊皮紙と短い羽ペンを取り出すと、さらさらとメモを書きロンの前に置く。
羽ペンをしまう時、チリンと何かがこすれる音が小さく聞こえ、ハリーはヴォルの腕を見た。
「あ、お守り。僕もちゃんと持って来たんだ。」
「貰ってからシャワー浴びる以外はずっと身につけてるからね。」
「僕もだよ。」
 小さく笑う二人はさぁ行こうとハーマイオニーと共に次の扉をくぐった。
 
 入るなりつーンとした刺激のある匂いに三人は顔をしかめ、思わず袖で鼻を覆う。
「トロール…。魔法生物と言うことはクィレルの守りか。」
「気絶しているみたいだ。早く行こう」
 厄介な奴がいた、と頭にこぶをつくり気絶している姿にヴォルは眉をしかめた。
恐る恐る跨ぎ越し、次の扉に向かうとヴォルは先にハリーとハーマイオニーを通し自分も通ろうとして背後から聞こえた音に扉を閉める。
「ヴォっヴォル!?」
「トロールが目を覚ましたらしい。ハリーとハーマイオニーは先に行っていてくれ。何かあっていざ逃げるときにこいつがいたんじゃしょうがない。俺はこいつをどうにかするから…ハリーは呪われている奴をどうにかして石を手に入れるんだ。」
 驚いた様子のハリーの声を背にした戸越しに聞いたヴォルは先に行くよう促す。
ふらふらと立ち上がるトロールはまだ後ろにいるヴォルには気が付いていない。
 前に倒したものより大きな姿に手加減している場合じゃないな、とヴォルは杖を構えた。


 
 




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