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談話室の隅に座るとヴォルは唸るように今夜だなと呟いた。
「そうね…。今日はダンブルドア先生もいないし、テストが終わって勉強していた人も皆安心して眠ると考えると…。それに先生方も今夜は採点やらで忙しくて見回りもフィルチだけになる可能性があるわ。」
ハーマイオニーも賛同するとロンも頷く。
「それに、もうすぐ夏休みになる。そうなったときにダンブルドア先生も石を移動させるだろうからチャンスは今夜だけかもしれない。」
いったい誰が何のために、と考えるが流石にわからない。
きっと狙っている犯人もそう考えているに違いないと四人はそろって頷き、どうすればと考えていた。
「ねぇ…もしも悪用するために狙っているなら先に僕たちが取るっていうのはだめかな。何が起きるかわからないけど、多分…あのユニコーンの血で呪われていることが関係していると思うんだ。そうでもして生き延びたい奴…。傷が痛くなった時から嫌な予感がしてて…絶対に渡したらだめだとそう感じるんだ。」
出し抜いて先に手に入れる。
そうすれば最悪の事態は避けられるかもしれない、というハリーにハーマイオニーとロンはぽかんと口を開けた。
普段おとなしいハリーの考えに驚いた二人だが、それもそうかもしれないわねと頷いた。
「あ!でっでも僕の予感が外れて…その…退学になることもあるから…その…。」
「俺はハリーの案に賛成だ。ハリーと一緒なら俺はどこでも文句はない。」
「あら、私だってそうよ。ここまで来て、結果を待つだけなんていやよ。それに、最悪なことがあってもきっと後悔しない…そんな気がするの。」
「ぼっ僕だって同じ気持ちさ!それにいざとなったらヴォルが僕たちに魔法とか教えてくれればいいだけだし。」
「俺の個人レッスン費は高くつくぞ。」
言いよどむハリーにヴォルはにこりと微笑むと、ハリーの肩を抱き寄せる。
ハーマイオニーとロンもここまで来たんだ、最後までつき合わせてよ、と言う。
ロンの言葉に悪戯っぽく返すヴォルは少し影のある笑みを浮かべ、ふとロンの後ろに目を移した。
「ネビル、なんだ。」
「そっその今、今夜だとか最悪退学とか…」
ヴォルの言葉にハリー達も目を向けると、見られたネビルはおどおどと視線をさまよわせ、そんな話が聞こえたからなんだろうって思ってと答えた。
ヴォルが少し威圧的だからか、ネビルはいつも小さくなりがちで、今回も必死に勇気を出してもう寮の点数のためにもそんなことをしてはいけないと言う。
「別に何か企んでいたわけじゃない。今夜採点が行われるだろうって話しと、あまりにひどい点数だと最悪退学になるだろうなって話をしていただけだ。」
深刻な話じゃない、と言うヴォルにでも、とネビルは食い下がる。
「君たちは夜に出たって罰則と150点の減点もやったんだ。もうそんなことはしちゃダメなんだ…。」
「ネビル、本当に何でもないのよ。さてと、じゃああ私は自己採点するから…。また明日ね、三人とも。」
本当に誤解よ、と言うハーマイオニーは女子寮に続く階段を上がると、ハリー達もそろそろ部屋に戻ろうと階段を上がって行った。
「ご主人様、ハリー。フラッフィが眠らされたわ。」
仮眠を取ろうと横になっていたヴォルに戻ってきたナギニが告げると、暗い中でもわずかな光できらりと光る赤い目を開けたヴォルは起き上がった。
その気配にハリーも目を開けると眠れずにいたロンの足に触れていこうと促した。
誰もない談話室に降りてくると、ヴォルを起こした後ハーマイオニーを呼びに行ったナギニとハーマイオニーが続いて降りてくる。
「ナギニにはフラッフィが眠ったら戻ってくるようにと伝えていたんだ。早くいかないと…。」
正確には見張るようにと伝えてのその報告だがハーマイオニーとロンは真剣なまなざしで行こうと頷いた。
「やっぱり夜に出歩くんだね。だっだめだよ!」
不意に聞こえた声に出口近くに目を向けると、どこかに隠れていたらしいネビルが震える体を叱咤しながら出てきた。
「ネビル、これはとても重要なことなの!お願いわかって!」
「だめだ!そんなことをして、もしみつかったら今度こそ寮の点はなくなっちゃう!そんなのダメだ!どっどうしても行くって言うならぼっ僕が立ち向かう。」
ハーマイオニーが説得をしようとするが、震えつつも杖を取り出すネビルはだめだ、と首を振った。
「ネビル、こんな馬鹿なことしてないで、通してくれよ。」
「ばっ馬鹿なことじゃない。」
ロンも通してくれと言うが、ネビルはだめだと再び首を振った。
はぁーとため息をつくヴォルにハリーは目で手荒なことはだめだからね、と伝えるがネビルをどうすればと考えていた。
「ペトリフィカス・トタルス!」
呪文が聞こえ、ネビルの両手が脇に張り付き、足がぴたりと閉じられ、バランスを崩してその場に倒れる。
「ごめんなさい、ネビル。訳はあとで話すわ。」
呪文をかけようとしたヴォルは杖を構えるハーマイオニーを振り向き、口角を上げた。
ハリーの透明マントで四人隠れると先導するナギニに従って、あの廊下の前までやって来た。
「わずかだけとハープの音がする…。」
静かに戸を開くヴォルは聞こえてきたハープといびきに今ならと三人を振り返った。
「まさかあの日…コンパートメントで出会った二人とこんなことになるなんて思いもしなかった。」
「あ、本当だ。まさかこんなことまでつるむ仲になるなんて思いもしなかったよ。」
ニヤリと不敵に口角を上げるヴォルにロンは確かにと言うと、そうだわ、と言うハーマイオニーを見る。
「ねぇヴォル。先生方が仕掛けた防御の守り…私たちに解ける範囲であれば私たちが対処するから、貴方は本当に危なくなった時とかに動いてもらってもいいかしら。魔法が強力だっていうのもわかっているけど、いざという時に使いすぎてしまったら意味がなくなるわ。」
準備はそれなりにしてきたつもりよ、と言うハーマイオニーの言葉にヴォルは少し考えるとわかったと頷いた。
「正直そうしてもらわないと困るかもしれない。ハリーの事は全力で守るけど、二人の事までとなると守りきれる自信があまりない。呪文は使わないようこらえるから、できる限りはお願いしたかったところだ。」
「僕だって一応ここにいる中で生粋の魔法界育ちだからね。三人にまかせっきりじゃなくて僕だってやるさ。」
任せてよ、と言うハーマイオニー達は顔を見合わせると頷いて禁じられた廊下へと入っていた。
いびきをかいて眠る大きな3つ首の犬に横にはハープが置かれ、静かな音色を響かせていた。
「音が出ていればいいらしいな。ハリー、ハグリッドの笛持ってきた?」
「うん。万が一はこれを吹くよ。」
ポロリと音を紡ぐハープを一瞥するヴォルは前脚で抑えられた扉に目を向けた。
「これぐらいならみんなで協力すれば動かせるな。」
「ハーマイオニー、僕たちがどかすから笛持ってて。」
三人がかりで足をどかすと、ふと、後ろから梟の鳴き声のような音が聞こえ、扉を開けたヴォル達は顔を上げた。
ぐるぐると唸る犬はハーマイオニーの奏でる笛の音にトロンと目を細め、やがて再び眠りにつく。
「僕が先に行くよ。大丈夫だったらすぐ合図するから。」
大丈夫、と言うとヴォルが止める間もなくハリーは床の扉に身を投じると闇の中へと消えていった。
ぼすん、と言う音が聞こえ大丈夫だよ、と言うハリーの声がすぐ聞こえるとヴォルが飛び降り、ロンが続いて、最後にハーマイオニーが飛び降りる。
頭上でぐるぐると言う犬の鳴き声が聞こえるが、とりあえず牙の餌食にはならずに済んだ、と自分たちを受け止めたクッションにほっとヴォルは息を吐いた。
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