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「ヴォル、誕生日おめでとう!」
 ぼんやりと目を覚ましたヴォルは満面の笑みを浮かべるハリーに言われ、目を瞬かせると差し出されたラッピングのされた箱に鏡を見た夜の事を思い出す。
「ヴォルの誕生日って年末だったんだ。おめでとうヴォル。僕は今知ったからプレゼントはないけど…ハリーのがあれば大丈夫そうだね。」
 隣の寝台で起きたロンは嬉しさでハリーを抱きしめるヴォルと、喜んでもらえて嬉しそうなハリーに笑う。
「ヴォル、よく何か書きつけたりメモしてるから新しい羽ペンセット。ダンブルドア先生に誕生日聞いてからヘドウィグで梟便の通販試してみたんだ。来年はもっとちゃんと探すね。」
「俺自身の誕生日はあんまり興味なかったけど…ハリーに祝ってもらったらなんか好きになれそうだ。ロンはまぁ言葉だけもらっとくよ。ありがとう。」
 本当にハリーいい子だ、と喜ぶヴォルはついで、とロンに礼を言うともらったプレゼントをさっそく開けて羽ペンとセットになっているインク壺を取り出し大事に使わせてもらうなという。
 
 
 年が明け、冬休みが終わるとあの廊下にはニコラスとの共同研究の成果である賢者の石があるんじゃないか、と言う三人にハーマイオニーはなるほどね、という。
 ハグリッドがドラゴンをこっそり飼い始めたところになると、あんぐりと口を開き、それって危ないじゃないと小声ながらに叫ぶように言う。
「ちゃんとハグリッドには注意したんだけどね…。」
 でも昨日もボヤ騒ぎがあったみたいと言うハリーにハーマイオニーは当たり前でしょうと返す。
「実は上の兄で…ほら、ドラゴンの研究してるチャーリー。ヘドウィグ借りて手紙出したらノーバートの種類は本当に危険だから回収しないと危ないって。そう返事が来たんだ。必要であればすぐ引き取ってくれるって。ほら、ハグリッドに渡す手紙もあるんだ。今朝届いたからこれから渡しに行こうと思って…。」
 ロンは封筒を手にハーマイオニーに説明すると説得しなきゃいけないわとハグリッドの小屋へと急ぐ。
 昨夜降った雪が深く、冷え込んだためか、ヴォルは寒いの無理と賢者の石についてを図書館で調べているため、珍しく三人だけでの行動だ。
 お目付役としてナギニがハリーの服にはいっているが、二人はまだ気が付いていない。
 手紙を受け取ったハグリッドは難しい顔をし、ひくく唸ると先ほどからくしゃみと共に火を吐き出すノーバートに目を向けた。
「本来山の頂上で暮らすようなものなんでしょ。この季節にこの部屋は熱いんじゃないかしら。だからって寒くするとファングが今度は風邪をひいちゃうし…。外に出すわけにもいかないんでしょ。」
 だるそうにするノーバートに目を向けるハーマイオニーにハグリッドはその方が幸せかも知れん、と小さくつぶやいた。
「だがどうやってチャーリーに渡すんだ?」
「連絡をすればすぐ来てくれるって。それにちゃんとハグリッドが怒られないようにしてくれるよ。」
 さみしそうにつぶやくハグリッドにロンは大丈夫だからと言うと、ハグリッドと共に手紙をしたため、ハリーの肩にいたヘドウィグに手紙を渡す。
 
 羽ばたくヘドウィグにハリーはあ、と言うと先に城にナギニ連れて行って、と懐から蛇を取り出し、その足に掴ませる。
「城の入口で大丈夫だから。頼んだよヘドウィグ。ナギニ、ヴォルに伝えて。」
 飛んで行く姿を見送るハリーは仲がいいのはわかっているが、まるで捕食されるように見えて今度専用の袋でも買ってあげようかなと考える。
「え、ナギニだっけ。ずっと君の服の中にいたの?」
「うん。ほら、今冬だしいつもはヴォルの服の中だけど、ヴォルの体温低いから僕の服に移ってきたりで…。寝るときはいつも僕の寝台にいるよ。」
 服から出てきたナギニにロンは少し驚くと、ハリーの説明にハーマイオニーが気がつかなかったわと言う。
 ナギニが一緒に寝ているのはロンも知っているため、そういう理由だったのかと頷いた。
「ナギニってそんなにハリーのところに来ているの?」
「あぁそっか。ハーマイオニーは朝の男子寮にあんまり入らないから知らないか。雪降ったりでひときわ冷え込むとヴォル本人がハリーの毛布にもぐりこんで寝てるから…ナギニが一緒に寝ているのはまぁ普通の光景さ。」
 蛇って冬眠するんじゃないかしら、と言うハーマイオニーにロンは魔法界の蛇だしね、と肩をすくめて見せる。
 
 ノーバートの事でさみしげだったハグリッドはもぐりこんで寝ているという話にぽかんと口を開いたまま固まる。
「ヴォルって…なんというかハリー依存症ね。」
 少し気難しげにハーマイオニーが呟くとハリーは何それ、と笑って返す。
チャーリーの返事が来たらまたくるね、と三人が立ち去るとハグリッドはもごもごとわかったと返すだけでヴォルとハリーを想い浮けべ何が何だかとソファーに座ろうとして愛犬ファングの上に座りそうになり飛び上がった。

 
 チャーリーが返事が来たのはそれから間もなく。
「一番高いところって…そんな無茶な…。」
「ハリーの透明マントを使って運ぶしかないかな…。あとは場所を変更してもらうか。たとえば森の湖のそばとか…。あそこなら広いし、フィルチがいる危険のある校内よりも近いと思うけど…。」
 チャーリーからの返事にうめくロンにヴォルは流石に透明マントで運ぶにしても無理だと言う。
「どうせハグリッドの小屋まで行くんだし…たしかにそれがいいかも。ハグリッドが心配するだろうからハグリッドには展望台に行くとか言って…。どうかしら。」
「ハーマイオニーの案に賛成。ハグリッドが行けばいいけど土壇場で泣き叫んだりされちゃかなわないからね。運ぶ時間が短いことはいいと思う。」
「ロン、お兄さんに手紙書いてもらってもいいかな。ヘドウィグ、おいで。」
 簡単な地図を描いて考える4人は少し森を歩くことになるけど、と湖を示す。
どうせ運ぶならできるだけ近いほうがいいと、できればノーバートが少し重いとか言ってお願いしてみて、と言うヴォルにロンはわかったと手紙を書く。
 
 ナギニから教えてもらった湖へのルートはハグリッドの小屋からいけることがわかり、この案が通ればいいけどとハーマイオニーはため息をついた。
「それにしても…この道…。どうやって調べたの?」
「あぁ、この前暇なときにちょっと。」
 蛇との会話ができる人はパーセルマウスと言うらしく、めったにいないと書いてあった。
それに闇の勢力の物が使うことがあったと言うからナギニと会話できることは未だ内緒だ。
ヴォルが自分で適当に歩いたことにすると、森に行っちゃだめじゃないと、ハーマイオニーは睨みつけ、ハリーにもちゃんとヴォル見てないと、と言う。
「ヴォル、意外と好奇心強いから僕が言ったところで止めないよ。ね。」
「ハリーがどうしてもっていうなら考えるけど…。ハリーの場合は僕も一緒に行く、だからね。」
 寒いからとハリーを抱き寄せるヴォルにハリーが確認を取ると、ヴォルは肩をすくめて見せる。
考えるだけで止めるとは言わないヴォルにロンは笑うと、ハーマイオニーはため息を吐いて諦める。
 
 
 笑うロンを見ていたハーマイオニーはそういえば、と上機嫌にハリーを抱きしめるヴォルを見る。
「ヴォルが声を出して笑う姿って見たことないわ。笑うことってあるのかしら?」
 ねぇハリーと小声でたずねるハーマイオニーにハリーはあーと言うと、ハリーの肩越しにロンとチェスをするヴォルを少し振り向く。
「あんまり笑わない…かな。ちょっと声を出して笑うとびっくりするかもしれないけど…。なんというか…本人気がついてないけど…うん。何と言うかな感じの笑いかただから。」
 別に僕は本当に気にしてないんだけどね、と念を押すハリーにハーマイオニーはそっそうというと、チェスが意外に得意なロンと互角に戦うヴォルのチェス盤を見る。
 成績はハーマイオニーと同じもしくはそれ以上だが、どうもこうもチェスに関してはロンの方が上らしく、たびたびこうして対局している。
「ヴォル、僕邪魔じゃない?」
「ぜんぜん。むしろいないと寒くて無理。」
 片腕に持ったままじゃ邪魔じゃないかと言うハリーにヴォルはそんなことはないとハリーを抱き寄せた。

 

「あ、そうだわ!ニコラスって名前で一つ思い出したの。ちょっと待ってて。」
 ポンと手をたたくハーマイオニーは急いで女子寮に続く階段を上がると、ちょうどチェスに決着がつくと同時に大きな本を抱えて下りてきた。
「前に図書館で借りたこの本に載ってたのを昨日思い出したの。その項目はクリスマス休暇前に読んでたものだからすっかり失念しちゃってたのよね。」
 ぱらぱらとめくるハーマイオニーに男三人が覗き込むとここよここ、と一つの項目を示した。
「賢者の石とはどんな金属も黄金に変え、飲めば不老不死になる命の水を生みだす。ね、これのことよ。」
「なるほど…。でも誰がこんな石を欲しがるんだろう。あと、なんであいつは自分一人で解決しようとしてるのか…あほなのか。」
 ひそひそと声を落とすハーマイオニーにヴォルは不老不死、と小さくつぶやき腕の中にいるハリーを見る。ハリーと飲むならいいけど、今は興味ないなと考え誰が狙っているのかと首をかしげる。
「スネイプも実はほしかったり…とかは?」
「あんな根暗。不老不死になってなんかやりたいとか考えてないだろ。」
 ロンの言葉にヴォルはないないと言う。ハリーをいじめることに本気で怒っているらしいヴォルのスネイプに対する言葉は誰よりも酷い。いつもならハリーがそれは言いすぎじゃないかなと言うが、ハリー自身スネイプを苦手としている以上何もいわないことにしているらしい。
「推測だけど、先生方による守りの呪文が唱えられているんだろうし、あのフラッフィーもいる。それになによりもダンブルドアがいる以上、そうそう事は起きないだろう。」
 あの禁じられた廊下には何があるのか、それがはっきりしただけでもヴォルにとってはまぁまぁ満足いく結果だ。
「そうね…。それよりもそろそろ学期末の試験の勉強を始めないと。進級できなくなっちゃうわ。」
「そのまえにハリーのクィディッチ戦がある。」
 羊皮紙をひっぱりだすハーマイオニーは予定表をかきだすと、早いよ、とロンは顔をひきつらせ、そういえばとハリーに話を振る。
「そのあとにノーバートだね…。」
 はぁとため息をつく四人にハリーの名を呼びながらオリバーがやってきた。
「聞いたかハリー!今度の最後の試合、スネイプが審判にやるって!!」
「えぇ!?あの動体視力と反射神経が悪そうな根暗の蝙蝠が!?あいつまじであほなんじゃないのか?」
 オリバーの持ってきた知らせにヴォルはまったく配慮などは考えず思ったことをそのまま口に出す。オリバーとせっする時は猫をかぶっていたヴォルの素の言葉に知らせに来たオリバーはきょとんと眼を瞬かせた。ハリーの呪い云々の話しを知らないオリバーからすればヴォルのこの暴言のような言葉が出るとは思っておらず驚いているようだ。
「もしかして例の呪いを警戒してる…とか?」
「大体そんなところだろ。どうせ手に負えてなかったんだからさっさとダンブルドアなりに頼ればいいのに…。」
 顔をしかめるロンはまさかというと、ヴォルはだろうなと頷く。なんとなく黒いオーラが見えた気がするオリバーはまぁ、優勝させたくないんだろうと言って他のメンバーに声をかけに行った。心配そうなハリーにヴォルは少し笑うとそうだと立ち上がり、ポケットから何かを取り出すとハリーの背後に回った。
「ちょっとしたお守り。呪い一回分くらいなら多分耐えられる。一応試作品は俺の呪い3回耐えたから…大人の呪いでもどうにかなるはず。」
 ナギニの脱皮した皮、と肩に手を置く。首元に下がったペンダントに視線を落とすハリーは少し薄い色の蛇の皮を球体状に加工した飾りを見つけ、顔を赤らめる。
「あっありがとう…。ヴォルの呪いに耐えたなら絶対大丈夫だね。」
 嬉しそうに笑うハリーが振り返るとやっぱり?とハリーを抱きしめた。ハリーといるときだけ微笑むヴォルにロンとハーマイオニーは顔を見合わせ、ちらりと談話室内の様子をうかがう。ハリーにだけ見せるヴォルの頬笑みにはぁと上級生などからため息が漏れている。ハリー以外には作った笑みさえも見せないヴォルに声をかけて、玉砕した人の話しは女子生徒の間だけでなく、おそらくハリー以外全員が知っているほど有名だ。
 ちなみに男子生徒の中でも声をかけたものがいたらしいが、怪訝な顔で男だろうが女だろうがハリー以外に興味はないと言い放ったとか何とか。
 ハリコンね、とハーマイオニーはロンに肩をすくめて見せ、ロンもまったくだね、と同意する。
 




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