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大広間にまで流されてからちょっと手洗いに、と言って抜け出したハリーは医務室へと急ぐ。
「悪霊の炎とは…マクゴナガル教授。貴女は何か知っているのですかな?」
もう少しで医務室と言うところでスネイプの声が聞こえ、ハリーはあわてて物陰に隠れる。
「たしかに彼は高等な魔法をいくつも覚えていますがそれがなんでしょう。」
「きけば箒もなしに空を浮遊するすべがあり、切り裂く呪文を唱え…そしてバジリスクの炎を操る。そして…ポッター家の跡地から見つかった…。」
毅然と返すマクゴナガルに対し、スネイプはヴォルの魔法を上げて淡々と問う。
「あまりに名前が安直で疑うほどもなかったですが…。まさか彼の正体は…」
「セブルス。その話はそこまでじゃ。ハリー。彼が目を覚ますまでそばにいてあげなさい。」
スネイプの声が強張る様になるとダンブルドアがそれを遮る。
ダンブルドアは隠れていたハリーに向かって声をかけると、ハリーは驚いて頭を思いっきり引いて壁にぶつけた。
「あ…はっはい。」
恐る恐る顔を出すとニコニコとしたダンブルドアと、顔をしかめているマクゴナガル、そしてわずかに目を見張るスネイプを順に目に入れる。
慌てて頭を下げて医務室に入るとそっと足を忍ばせてカーテンが引かれているベッドに駆け寄った。
「ヴォル?」
顔をのぞかせると元々青白い顔をさらに青白くし、悪夢を見ているのかうめく姿を目に入れる。
手を握ると気がついたのか、握り返し眉を寄せていたのが消え静かな寝息を立てる。
何が起きたのか明確ではないが、どうやらまた無理をして体のキャパを超えてしまったらしい。
あまり無理をしてほしくないが、こればかりは仕方がない。
眠るヴォルの隣でうつらうつらするハリーは緑の閃光と男女の悲鳴と…赤ん坊の泣き声を遠くに聞いて…。
はっと目を覚ましたハリーは握ったままの手をたどり、すやすやと眠るヴォルを目に入れる。
見ていた悪夢と…スネイプの言葉と…口を引き結ぶハリーは眠っているヴォルの顔を軽くなで、そのまま眠りについた。
バタバタと言う足音共に、ハリーと声をかけられ、毛布から顔を出す。
「ヴォル見てない?朝からいないみたいだけど…。ちょっと課題聞こうと思ったのに…。」
「ヴォル…?さむっ!…もしかして雪降ってる?」
ロンに起こされたハリーは顔に感じる冷気にぶるりを体を震わせる。
「あーうん。昨日の夜から降ったみたい。」
「だからかな。ちょっと待ってて…。」
ロンの言葉に何かを納得したハリーは顔をひっこめ、もぞもぞと動きだした。
隙間からナギニが這い出てくると誰もいないヴォルのベッドを見たロンはまさかと、まだもぞもぞ動くハリーのう毛布を見る。
よしっという声が聞こえるとハリーが毛布をがばりと開けた。
「無理…寒い。」
「もう、昔からヴォルは寒いの苦手なんだから。」
ハリーの腰に抱きつくようにして丸まっていたヴォルはハリーから毛布を取り返そうとしてだめ、と阻まれる。
うめくヴォルは観念したように起きるとぶつぶつと言いながら着替えた。
「叔母さんの家ではいつも一緒のベッドだったけど…もう、ヴォルも冬一人で寝ないと。皆に呆れられちゃうよ。」
「世間体とか周囲の目とかくそくらえだ。俺はどうでもいい。」
「家でいる時ならいいけど…寮だと…せっかくかっこいいのに…ヴォルが笑われたりしたら嫌なの!」
どうでもいいよそんなの、というヴォルにだめだからね、と言うとハリーはそのままぱっと部屋を出ていく。
「あー…先行ってるよ。朝食…忘れないようにね。」
家ならいいのかと考えるロンはヴォルを一人残してハリーの後を追った。
残されたヴォルはぼそっと小さな声で言われたかっこいいのにという言葉に悶える。
そんな風にお願いされたらもぐりこめない。
…けど、寒い夜はもぐりこみたい。
でも…そういう風にかっこいいのにと言うと言うことは少なからず意識してみてもらえているというわけで…。
クリスマス休暇になり、ハーマイオニーはあの部屋の中に何が隠されているのか、何とかそれを調べられないかと、三人に相談しつつも家に帰ってしまった。
少なくとも何か大きなことが起きている、と考える三人だったが、久々にハグリッドの小屋に遊びに来ていた。
「3つ首の犬?あぁフラッフィーか。なんだそこは立ち入り禁止だろうが。」
「偶然はいっちゃたんだよ。っていうかそんな名前なんだ。」
彼ならば少しぐらい話しても減点などはないだろうというヴォルの提案で、あの犬の事を話すと、案の定ハグリッドはすぐに答えた。
ハリーの言葉にふわふわだからな、というと、何かを入れたかごにせっせと火をくべている。
「そんな犬がなんであんなとこに…」
「ダンブルドア校長に頼まれてニコラス…あー。まぁ…なんだ。きにしねぇでくれ。」
ハリーが首をかしげると、ハグリッドは何かを言いかけて慌てて口をつぐむ。
それを見ていた三人は次に調べるべきものがわかり、小さく頷きあった。
火をくべている籠の中には何やら黒い卵が入っている。
「黒い卵…ノルウェー・リッジバック種の卵?どこで手に入れたんだ?」
遠目からそれを見ていたヴォルはその色と特徴から眉を上げた。
「もしかしてそれって…ドラゴン!?え?ハグリッド、個人が勝手にドラゴンを飼うのって禁止されてるってチャーリーが言ってたけど…。」
「えぇっと…そのなんだ。ちぃっとな。おぉ!孵るぞ!!」
「ハリー、ロン。下がってた方がいい。」
興奮気味に身を乗り出すロンにハグリッドは口を濁し、卵にひびが入ったことを確認する。
ヴォルは思わず身を乗り出そうとしたハリーを抑え、ロンにも忠告すると、殻を弾き飛ばしくべられていた火を飛ばすドラゴンに目を移した。
火を払い落したハグリッドは嬉しそうにその生まれたばかりの小さなドラゴンに手を伸ばし、噛まれそうになって慌てて手をひっこめる。
「少し性悪な顔だな。」
興味深げに話すヴォルは課題をさっさとかたずけて暇な時に読んでいたドラゴンの図鑑に載っていた大人の写真とは違う、生まれたばかりのドラゴンの顔にけちをつけ、部屋の寝台に残してきたナギニの顔を思い浮かべる。
やっぱり蛇が一番だな、と考えると小さな炎を吐く姿にちらりとハグリッドの家を見た。
森の番人らしく見事な木製。
これはまずいだろうと腕にいるハリーと目を合わせる。
「ハグリッド…いくらなんでも…ドラゴンはまずいんじゃないかな…。ほら、この家燃えちゃうよ。」
おずおずと切り出すハリーにハグリッドは小さく唸るが、手放す気はないようだ。
やれやれと三人は顔を見合わせると、気をつけてね、と言い残し夕食のため城へと戻って行った。
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