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熱を出して寝込むヴォルにハリーは心配しつつ来るクィディッチの試合に向けて練習に参加していた。
へとへとで戻ってくると、そこにはすっかり仲良くなったハーマイオニーとロンが席をとって夕食を食べていた。
「ヴォルは?」
「頭痛いから無理って。ナギニ用になんか持ってきてって言ってたけど…。」
もともと頭が痛いと言ってたのに調節せずに魔法を放ったりした影響か、それとも風邪なのかまいっているヴォルの伝言をハリーに伝えるロンは、何がいいんだろうとハリーを見る。
「ヴォルのそばにいるならヴォルにもなんか持っていかないとね。適当に見繕うよ。」
何がいいかなと選ぶハリーにすぅっと梟が飛んできた。
「こんな時間に配達?」
大きな荷物を持ったフクロウはハリーにそれを落とすと飛び去っていく。
机に落ちる前にキャッチしたハリーは包みをほどいて目を輝かせた。
「すごい!新しい箒だ!」
喜ぶハリーは不意に感じた視線に顔を上げるとマクゴナガルがウィンクして見せる。
明日さっそく飛んでみよう、と嬉しそうに笑うと近くにあったパイやらを紙に包み、箒をもって飛び出していく。
ロンとハーマイオニーはやれやれ、と顔を見合わせるとそのまま夕食をとることにした。
「ヴォル、見てみて!マクゴナガル先生が新しい箒をくれたんだ。」
部屋に入るなり興奮気味に話すと、毛布の塊と化しているベットに近付く。
「ヴォル?まだ頭痛い?」
「ハリーの声聞いたら少し元気でた。何?新しい箒?」
顔を上げるヴォルにハリーは心配げな顔になると大丈夫?と聞く。
ハリーは目を輝かせながら、起き上がるヴォルに箒を見せる。
「へぇニンバス2000か。ダイアゴン横町で売ってた最新モデルだっけ。明後日の試合、これで楽勝だ。」
喜んでいるハリーを手招き、抱きしめるヴォルは、ハリーの喜びが伝染するように心がほぐれていくことに顔をほころばせる。
「なんか本当にハリーと一緒にいると元気になる。ねぇハリー…。もっと抱きしめていい?」
「僕でよければギュってしていいよ。最近昔みたいにギュっとしてないからちょっとさみしかったし…。」
ハリーを抱きしめたまま問うヴォルにハリーは笑うとぎゅっと抱きしめた。
んっと強く抱きしめ返すヴォルはホグワーツに来てからなんか変だ、と徐々に収まる頭痛になんなんだろうかと考えた。
とうとうやってきたクィディッチ戦。初戦相手は何の因果なのかスリザリンだ。
わーと上がる歓声にヴォルは観客席に座ってからずっと眉間にしわが寄っている。
「うるさい…。」
「しかたないわよ。なんたってクィディッチの試合でしかも因縁のあるスリザリンとの対戦よ。」
「そうそう。それに100年ぶりの一年生シーカーが出るんだから余計にね。」
耳栓的な呪文でも調べてくればよかった、とうめくヴォルにハーマイオニーとロンはうきうきとした顔のままたしなめ、選手の入場を待つ。
「あぁハリー。むっさくるしい中、一番かわいい。…今ハリー睨みつけたスリザリンのシーカー…顔覚えたぞ。」
「ヴォル、本当にあなたってハリー一筋なのね。貴方とハリー…それぞれでちょっとしたファンクラブの様なものがあるの知ってるの?」
入ってきた選手がそれぞれ火花を散らしながら、フーチに言われるがままに荒々しく握手をすると上空に飛び立つ。
敵対している寮として、何より最年少のハリーに対して睨みつけたスリザリンのシーカーはぞくりとした寒気に観客席を振り向く。
凶暴な蛇に睨まれたような、目をつけられたような…そんな気がし、ぶるりと体を震わせた。
「で…これってどういうルールなんだ?」
飛び交う箒とボールに首をかしげるヴォルはボールを目で追うハーマイオニーに問う。
「三人のチェイサーがクォッフルっていうあの飛ばないボールを投げて点を取って、ブラッジャーっていう選手を妨害するボールを相手に打ち込むのがフレッドたちビーター。でハリーは150点が入るスニッチを探して取るの。それで試合は終了。」
スリザリンのビーターが打ったブラッジャーがオリバーにあたり、落ちるのにハーマイオニーはあぁ、と他のグリフィンドール生と共にため息をつき、口早に説明するとそういえばハリーはと探す。
「誰だ?」
急に立ち上がるヴォルは観客席を見回し、鋭く呟く。
「ハリー?どうしたんだろう。」
上空でハリーの箒が不気味に揺れ、乗っているハリーを振り落とそうと震えている。
「誰かが呪いをかけているんだわ!」
ハーマイオニーの言葉にロンは驚き、ヴォルを恐る恐る見上げる。
ギラリと光る眼は一点を見つめている。
ハーマイオニーとロンがその方向を見ると上を向いて何かを呟いているスネイプの姿。
「まさかスネイプが呪いを!?」
「いや、あれは反対呪文だ。俺が立ちあがったと同時に唱えだした。それでも解けないってことは生徒の力じゃない。」
だれだ、と見回すヴォルだが、ちょうど口元が隠れている教師が数名。
ちっと舌打ちをすると他の生徒もハリーの箒の状態に気が付き、ちらちらと上を見始めた。
「早くしないとハリーが落ちるわ!」
焦るハーマイオニーにヴォルはこっちだ、というと二人を連れて移動をする。
「どうするつもりなんだよ。」
「気がそがれればいいんだろう。俺が失敗したらすぐさま誰かしらの教師の服に火でもつけて大騒ぎさせてくれ。」
ロンに対し念のため、とハーマイオニーに万が一の呪文を教えるヴォルは杖を取り出した。
ちょうど教師がいる観客席の死角でハリーも見える場所にいくと、杖を構える。
赤い炎が吹き出ると蛇の様な形になり、教師たちの席に向かって伸びあがった。
蛇そのものの頭をかたどる炎は意思があるかのように口を開き、教師に向かって牙をむく。
驚きで声が上がると、炎は消えてハリーの箒の震えが止まった。
「やったわ!」
声を上げるハーマイオニーはやったというが、ヴォルからの返答はない。
崩れるように倒れるヴォルを慌ててロンが支える。
気を失っているヴォルに二人は顔を見合わせると気を失っているヴォルを連れて慌ててその場を立ち去った。
ハリーを見上げればすっかり箒のコントロールを取り戻したようでスニッチを追いかけ、急降下をする。
地面に降り立つと何か…スニッチを吐き出し、試合は終了となった。
できればヴォルの前でかっこよく捕りたかったハリーはチームメイトによくやった、とねぎらいの言葉をかけてもらいながらヴォルがいた場所に目を移す。
だがそこにはヴォルどころかハーマイオニーもロンの姿もない。
「ヴォル?」
そういえば箒が制御できなくなった時、どこかで炎が見えた気がした。そのあと急に箒が言うことを聞くようになり、慌てて金の光を追ったらいきなり動き出したハリーに驚いたのか、口に飛び込んでしまった。
不安になって辺りを見回すと走ってくるハーマイオニー達の姿が目に入り、勝ったことを知らせてきょろきょろとあたりを見回す。
「あのね、ハリー…」
事情を話そうとするハーマイオニーだが、勝利に喜ぶ人々の声にかき消され、んもう、とため息をつく。
「後で必ず話すわハリー!」
「ヴォルはとりあえず医務室にいるよ!」
勝利で押し流されるハリーに声を張り上げる二人だが、医務室、と聞いてハリーは青ざめた。
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