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 呪文学では背の小さなフリットウィック教授が二人一組になるようにと言うと、ヴォルは嬉々としてハリーとペアを組み、ロンはちょうど隣にいたハーマイオニーと組むこととなってしまった。
やる呪文は羽を浮かせること。
これにはハリーはヴォルと共に家で練習していたため問題なくでき、ヴォルは皆が終わった後にでもやるよ、と肩をすくめて見せた。
「ウィンガディアムレビオーサー」
 ロンの呪文が聞こえ、ヴォルは振り向くと微妙に違う発音のためか浮かない羽根にやきもきする姿を目に入れる。
「ちがうわよ。貴方のはウィンガディアムレビオーサー。ウィンガーディアムレビオーサ。」
「そんなに言うならやってみろよ!」
 発音が違うと言うハーマイオニーにロンは癇癪を起こし、やってみろよという。
ハーマイオニーの完璧な発音で浮いた羽根にロンは悔しそうな顔をし、もう一度呪文を唱えるがやっぱり発音が違う。
 あらかた終っていることをみまわすヴォルは微調節微調節、と羽根に杖を向けた。
「ウィンガーディアムレビオーサ。」
 羽根が浮き、ほっとするハリーだが周りの羽根が一斉に浮いたことにあぁ、とため息を吐いた。
「なっなっなんと!ヴォル=セルパン。落ち着いて目の前の羽根以外が地面に降りていく様子を想像するのです。」
 フリットウィック教授の言葉に一生懸命制御するヴォルは目の前の物以外を徐々に机に降ろし、最後に残ったものだけを少し高く上げ、そして机に降ろす。
「すばらしい。部屋の物を一斉に浮かせることにも驚きましたが、その絶妙な調整能力。グリフィンドールに10点を追加しましょう」
 小さな手で拍手すると、満足げに頷き、鐘の合図とともに授業を終了する。
 
 
「すごいな。あんなにいっぺんに羽根を浮かせるなんて…。あの女、発音が悪い発音が悪いって。あんなんだから友達がいないんだ。」
 微妙な調節で若干疲れたヴォルにロンはすごいや、というとハーマイオニーのまねをしながらふん、と鼻を鳴らした。
 そんなロンの後ろから足早で追い越すハーマイオニーは、半ばかけって行くように袖で目元をぬぐいながら大広間とは違う方向に消えて行ってしまう。
「まったく…。少しはあのグレンジャーがどうしてあぁなのかなど考えたりしないものか。」
「あれって性格だろ?」
 少し決まりが悪そうなロンにヴォルはため息をつくとハリーを見る。
「どうかなぁ。女の子って、結構傷つきやすいと思うし…。」
 うなるハリーはヴォルに告白して、気丈で人気のある子がきっぱり断られたことで号泣したり、強気で少し高飛車な子が、好きな気持ちを伝えるのをしつこいと、容赦なくその子が覆った心の鎧をめった刺しにし、しばらくの間見る影もないほど憔悴している姿を見ていただけに、なんとなくハーマイオニーが泣いた理由を思い浮かべた。
「まぁ僕には関係ないけど…女性を泣かせるのは男として失格だとおもうから気をつけないと…一生独身だよ。」
 早く行こう、と手を引くヴォルはロンに小声で伝えると、大広間の装飾にすごい、と声を上げた。
「そういえば今日はハロウィンだね。」
「どうりで朝から頭が痛いわけだ…。いやな夢も見るし…あんまり好きじゃないな。」
 ハリーの言葉にヴォルは顔をしかめ、憮然とした様子のロンに冗談だよ、と言うと夕食の時間を待つ。
 
「ハーマイオニーどうしたの?」
「あぁ、なんか2階の女子トイレで少し一人にしてって。」
 グリフィンドールの同級生の少女たちの声がたまたま聞こえ、ますますロンは居心地悪そうにちらちらと入口を振り返った。
 いよいよ晩餐が始まる、と言うところで扉を開いて現れたのはハーマイオニーではなく、慌てた様子のクィレルだった。
「たっ大変です!地下にトロールが!トロールが入ってきています!!」
 慌て過ぎたのか、そこで気を失うクィレルにしん、と静まりかえる大広間だが、誰かの叫びに次々に恐怖が伝染していく。
「静まりなさい!監督生は速やかに寮生を寮に案内すること。」
 恐怖で満たされた大広間にダンブルドアの声が響くと、寮の監督生たちはすぐさま反応し、自分の寮の生徒を集め、寮へと向かう。
 教師たちもまた動き出し、何名かが地下へと向かって行った。
 
「まって。ハーマイオニー…この事知らないよ!」
「2階の女子トイレだったか…。急ごう。」
 慌ててヴォルを引きとめるハリーにロンは顔を青ざめた。
ヴォル達が走り出すとロンも一緒に列を抜け出し、2階へと向かった。
ふと、そのさらに上に黒いローブを翻したスネイプが見え、三人は眉をしかめる。
だが、考えている間もなく悲鳴が聞こえ、三人は急いで2階の女子トイレへと向かった。
 中では壁の隅に追い詰められ震えているハーマイオニーと、腐臭の様な不快なにおいを発している2,3倍はありそうな背丈のトロールがこん棒を振り回していた。
「何でもいい、気をこちらに向けるんだ!!」
 ヴォルの声にハリーは杖をふるうと浮遊呪文を唱え、落ちていたがれきをその頭にぶつける。
 大したダメージはないようだが、ロンがとっさに拾って投げる小石やこっちを向けよと言う怒鳴り声に反応してゆっくりと振り向く。
 そのすきに素早く身をかがめ逃げようとするハーマイオニーだが震えてうまく立てずにその場にぺたりと座ってしまった。
 
「グレンジャー!その壊れた水道管にすがりつけ!ウィンガーディアムレビオーサ!」
 ハーマイオニーはヴォルの言葉にわけもわからずとっさに壊れた水道管にすがりつくと調整を一切していない呪文が唱えられる。
 瓦礫と言うがれきが宙に浮き、ハーマイオニーもまた浮きかけるが水道管にすがりついていたおかげで助かる。
 浮かせた瓦礫に驚くように辺りを見回すトロールにヴォルは杖をふるうとその瓦礫をトロールへとぶつける。
 たまらずひるむトロールは瓦礫が全て落ちると怒りにも似た叫びを上げた。
とっさに前に飛び出たハリーにトロールは目を向けると、やみくもにこん棒を振り回した。
ハリーはそのこん棒をかわすとえいっと飛び乗り、杖を鼻に突き立てる。
 暴れるトロールに対し、ロンがこん棒を浮遊呪文で奪い取るとそれで思いっきり殴り、トロールはそのままその場に倒れ込む。
 
 動かないことを確認しハリーは杖を引き抜くと、それをトロールの腰布で拭い、後でしっかり洗わないと、とそれをしまう。
 ようやく立ち上がったハーマイオニーはなんとかハリーに支えられ二人のところに来ると、再び座り込み、だめだった、と涙を流す。
 ずきずきと痛む頭を抱えるヴォルはハリーが飛び出て言った瞬間、驚きで声をかけようとして吐きそうなほどの強い頭痛に襲われていた。
無事だったからよかったものの、ハリーに抱きつき、よかったと小さく囁く。
 
 遠くから騒ぎを聞きつけた足音がし、ほっと息を吐いているとガラガラと何かが崩れる音が聞こえ三人はその音のもとを見た。
 トロールが再び起き上がったことに気が付くと、ヴォルはハリーを自分の後ろにかばう。
「セクタムセンプラ!!」
 ヴォルの唱えた呪文はトロールとの間の空間を切り刻みながらトロールに襲いかかると、その身を引き裂く。
 呪文が聞こえたのか、顔を青ざめるマクゴナガルは中の惨状に驚き、ハリーに抱きかかえられながら気を失っている少年を見た。
「何事ですか!」
 血を流して気を失っているトロールと壊れたトイレ…そして埃まみれの四人に鋭い目を向ける。
「えっと…。」
「すみません。私が勝手にここに来ました。」
 言いよどむロンは自分に倒れてきたヴォルを必死に呼ぶハリーに目を向けた。
そこにハーマイオニーのいつものはきはきとした声が入り、えっと顔を向ける。
「どうしてこんな愚かなことをしたのです!」
「本で読んで…私にも退治できると…そう思ってそれを試しに来た私を三人が駆けつけて助けてくれたんです。」
 ハーマイオニーの言葉にマクゴナガルは怒りを込めた目で見つめ、ハーマイオニーはまるで最初から用意していたと言わんばかりの言葉をいつものようにはっきりといい、三人は悪くありませんと言う。
「まったく…グリフィンドールから10点減点。」
 マクゴナガルの言葉にしょんぼりと肩を落とすハーマイオニーをロンは驚いて見つめ、ハリーの声に振り向く。
 目を覚ましたらしいヴォルは痛む頭を支え、荒く浅い息を繰り返す。
「ミスター・セルパン。強力な呪文を唱えた際に起きる体の拒絶反応でしょう。一晩ゆっくり休めば大丈夫です。」
 成長するにつれて制御できるようになる力が赤ん坊に戻ったことで0に戻ったということはなく…ほぼ大人と同じ力をそのまま持っているヴォルだが体はまだ少年。
 よくもまぁ今まで暴発しなかったものだと考えるマクゴナガルは目の前の惨状にはぁとため息を吐いた。
とりあえず、ダンブルドアに報告し対策を練らなければ、と考えていた。
「一年生がトロールを相手にここまですることはめったにありません。貴方達三人にそれぞれ5点を差し上げましょう。」
 とりあえず今は生徒として扱いましょうと加点をいうとロンとハリーはやった、と声を上げる。
ぐったりとするヴォルをハリーとロンが支え、ハーマイオニーもそれに加わりながら寮に戻っていく姿を後から来たスネイプは疑いの目を向け、気絶したトロールの惨状に目を見張った。




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