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パブを抜け、路地の様なゴミ箱のところに出るとハグリッドがレンガを不思議な順番に傘で叩く。
壁に穴ができると穴をくぐり、人通りの多い商店街にでた。
「なんなんだあの教授。吹けば飛ぶようなあのおどおどした態度。気持ち悪い。」
漏れ鍋から出て聞こえなくなったであろう距離になるとヴォルはいつもの態度に戻り、はっと鼻を鳴らした。
大勢の魔女や魔法使い、そして何の怪物なのかそれともそういう人なのか様々な人を目に入れ、ヴォルはハグリッドを仰ぎ見た。
「なんちゅうか…昔はしっかりしちょったんだけど…去年だったかに凶暴なトロールに襲われたとかであんな風になっちまったんだ。」
「トロール?そんな子供向けの絵本に出てくるような怪物まで魔法界に入るのか?」
クィレルの変貌について説明するハグリッドにヴォルは眉をしかめるとなんとなく人ごみに気後れして手をつないだ先を見る。
「ハリー…絶対危険なことはするなよ。」
「しっしないよ!ヴォルの方こそ変なことに首突っ込んだり、変なことしちゃダメだからね!」
あたりをきょろきょろと見回すハリーにヴォルが念を押すと、ハリーからも念を押された。
仲のいい二人の様子になんだかなと内心思うハグリッドだが、極力触れないでおこうと大きな建物に二人を案内した。
あの鍵はどこしまったかなと言いながらポケットの中をひっくり返すハグリッドを置いておき、ハリーとヴォルは働くゴブリン達の姿を興味深げに見つめていた。
宝石と金貨をはかりにかけているゴブリンや、帳簿をつけるゴブリン…。
どこかに出かける際に偶然見る程度だった銀行よりも忙しそうなゴブリン達を見ていると、ハグリッドはようやく鍵を見つけたのか二人を呼んだ。
「ハリー。おめぇさんの家の跡から見つかった両親が残した銀行のカギだ。なくさねぇように気ぃつけるんだぞ。学費やら何やらは全部こっからでちょる。セルパンのは…鍵も見つかったんだがその…おれは詳しい話は全く知らねぇけど、癖のある人だったとかで…あー…ちょっと危険なものが大量にあるとかで…未成年のおめぇさんに鍵を渡すことができないことになっちょる…。」
「へぇ。」
あたふたと必死に言い訳のように話すハグリッドをヴォルは胡乱な眼で見ると、それじゃあ俺の金はどうすればいいという。
「とりあえず今日は僕の両親が残したっていうところから一緒に使おうよ。あ!そうだ!ハグリッド!ペットって飼っていいの?」
「出世払いで返すよハリー。そういえばペットOKとか書いてあったけど…皆飼っているのか?」
うちのハリーほんといい子だ、と抱きつくヴォルにハリーはそうだ、というとゴブリンに案内されて歩くハグリッドを見る。
「あぁ、あとで寄ろう。梟なんか特に便利だからな。」
「ヴォル、後で絶対行こう!」
「あぁ…うん。どうしたんだハリー。」
ついていく二人にハグリッドが答えると、ハリーは嬉しそうにヴォルの手を握り、行こうね、と繰り返す。
始めてみる硬貨を手にした二人はハグリッドの案内の元、制服を扱う店にやってきた。
先にハリーが通され、仕立て屋の主人が寸法を測っていると、隣に薄い金色…プラチナブロンドの様な髪を持つ少年が丈を直していた。
「お前もホグワーツか?」
「うん。一緒に来ている…幼馴染と一緒に今年はいるよ。」
少し上から話すような口調の少年にハリーは気後れしつつも、少しニュアンスが違うものの、ハリー以外をやんわりと見下している相方を思い出す。
多分プライドが高い子なんだろうな、と考えるハリーに少年は様々話しかけてくるかちんぷんかんぷんなことばかりだ。クィディッチがどうのとか、寮はスリザリンがいいとか…。
「ま、ホグワーツでまた会おう。」
「うん…じゃあ…またね。」
喋るだけ喋って丈の直しが終わると出ていく少年をハリーは見送ると、入れ違いで入ってきたヴォルにほっと息を吐く。
「なんかぺらぺら得意そうにまぁ理解不能なことを…。でもそうか。寮があるのか。なら俺はハリーと同じ寮がいいな。」
聞こえていたらしいヴォルはあいつと一緒はめんどくさそうだと、制服に身を包んでいるハリーを見る。
どれほどたくさんの生徒がいるかわからないが…堂々と…ハリーと同じ服が着れる、と心の中で喜ぶヴォルは鏡に映る自分の姿に近視感を覚えた。
そういえばここ最近妙に見たことがあるような不思議な感覚に陥るな、と首をかしげつつ、先に外に出たハリーを追って外に飛び出た。
「おぉそうだ。ハリーの杖を買いに行きゃにゃならん。あー…おれはちょっと中に入りづらいんで…セルパンと一緒に外でまっちょるからハリー中に入って話を聞くとえぇ。」
「なんで?あんたはともかく俺はいいだろう。」
オリバンダーの店の前に二人を連れてきたハグリッドは、ハリーだけ入るように言い、自分とヴォルは外で待っているという。
「あぁっと…その…セルパンの杖は少し特殊でな。杖選びの際に邪魔になるといかんと思って。」
必死に考えながらしゃべるハグリッドにヴォルは眉を寄せるが、ハリーは困った挙句とりあえず中に足を踏み入れた。
「お前さんは…その傷。ハリー・ポッターじゃないか。」
「えっと…はい。」
出迎えた老人はハリーの額の傷に気がつくとあぁ、もうそんな年か、と棚から杖を取り出した。
「よ〜く覚えているぞ。その傷をつけたのはほかでもないわしのつくった…ん?外で待っていると気が散る!中に入んなさい。」
外で待っている二人に気がついたオリバンダーは図体が大きく邪魔になっているハグリッドと、興味深げに中を見る少年を中へと引き入れた。
「お前さんも杖を買いに来たんじゃないのかな。」
「いえ。僕はダンブルドア?と言う方からこれを使うようにと渡されているので買う必要はありません。ただハリーの付き添いできました。」
きょろきょろと積み上げられた杖を見ていたヴォルはオリバンダーに声をかけられ、これが、と言ってあの杖を取り出した。
反応がないことにいぶかしみ、顔を上げると驚きで目を見開いた老人が杖とヴォルとを見比べ、そして首をかしげるハリーを見る。
「ヴォルの杖…結構長いんだね。ほら見てよあんなに小さいのもある。」
首をかしげつつも周りが気になるハリーはヴォルの杖を手にとり、小さな杖を示した。
金色の光がほんのわずかでると、オリバンダーはさらに目を見開き、ハグリッドを見つめる。
「まっことに不思議じゃ…。その杖はイチイで芯は不死鳥の尾羽…。まさか…。ハリー・ポッター。これはどうじゃ?柊で芯は…まぁ振ってみなさい。」
かすれた声をひねり出すオリバンダーから杖を手渡されたハリーは不意に指先が暖かくなる感覚を覚え、軽く振ってみた。
金と赤の光が踊るように飛び出ると、まるで小さな花火のように弾ける。
「うわーすごい!ヴォル!今の見た!?」
「ハリーにぴったり。何の芯が入ってるんです?」
はしゃぐ姿にヴォルは自分のがおとぎ話に出てくる不死鳥ならハリーのはなんだろうかとオリンバンダーを振り向き、思わず優等生の顔を素に戻した。
「まっことに不思議じゃ…。まっことに…。その杖は…そこの少年の杖と同じ不死鳥から特別にもう一枚貰ったものを使用しておる。数多くある杖の中で兄弟杖と呼ばれる杖が…このような巡り合わせを引き起こすなど…。」
信じられん、と首を振るオリバンダーにヴォルは少し冷めた表情のまま近くにある杖を取ると軽く振ってみる。
何の反応もないことを確かめてからハリーの杖を受け取り振るうと自分の杖ほどではないが緑色の光が溢れることに小さく頷いた。
「ヴォルと同じ不死鳥の羽が入ってるんだね。なんだか嬉しいな。」
「やっぱりハリー…赤ん坊のころから一緒だけど、これはもう…生涯共にすべきっていうやつだ…。俺とハリー…兄弟杖か…。」
はにかむように笑うハリーにヴォルは嬉しそうに飛びつくと、杖を握る手を互いに上から握り、笑いあう。
「ハグリッド。後でいいから何がどうなっているのか…説明してくれるかな。」
オリバンダーの鋭い眼光が絶対に、とハグリッドに言うとほらお金払って出るぞ、と声をかける。
「あぁ。そうだ。兄弟杖はお互いに対峙することを好まん。万が一何かしらの呪文がぶつかった場合に共鳴しあい、力の弱いほうの杖に直前魔法をかけるなど…正常に作用しないことがある。くれぐれも気をつけるように。」
兄弟杖で喜ぶ二人にそう扱いの注意を伝えると、オリバンダーはどっと疲れたように椅子に腰をかけた。
もうこのやり取りだけで20歳は歳を取った気がする、と大きくため息を吐いたのだった。
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