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「ヴォル…?大丈夫?」
 震えている体に、ハリーは苦痛に顔をゆがめるヴォルに気がつくと振り向き、そっと顔を覗き込む。
 痛みに耐えるため、歯を食いしばるヴォルにハリーは血相を変えると頭を抱き込むようにしながら熱を測る。
 異常に冷たく、めったにかかない汗を流す姿にハリーはおろおろとハグリッドを仰ぎ見た。
「あぁ。おそらくは杖を使わずに魔法の力だけを放出したがために体調がわるくなっちまったんだろう。ダンブルドア校長に頼まれてこれをセルパンに。」
 コートの中を探るハグリッドは棒状の物を取り出すと、それをハリーにと手渡した。
鮮やかな金色の光がこぼれるが、ハリーはそれに気がつかずセルパンの腕に押しつける。
鮮やかな緑色の光が溢れると痛みで目をつぶっていたヴォルが顔を少し上げた。
「な…何だこれ…。」
 まだ痛むのか顔をしかめているが、手に持った棒状の物に目を落とし、目を瞬かせる。
「それはあー…ダンブルドア校長がおめぇさんは力が強いから普通の杖じゃ耐えきれないだろうと…その…用意した杖らしい。」
 セルパンの杖だ、というハグリッドに徐々に頭痛が治まったヴォルは40センチ弱の棒を不思議そうに眺め試しに炎のない廃れている暖炉に向けた。
鮮やかなリンドウ色の炎が吹き出ると部屋の中を青白く照らす。
「その…ダンブルドア校長?っていう奴は何者なんだ。」
 自分の杖と暖炉を見つめるヴォルは名前を言うだけでわき出る嫌悪感と共になぜか白いひげの老人を想い浮かべまさかな、と心の中で呟いた。
「ホグワーツの校長をしちょる偉大な大魔法使いだ。例のあの人でさえ、…あー…戦いたくないほどの力をもっちょる。」
「例のあの人?ハリーに杖を向けた奴か?」
 再び言葉を濁すハグリッドにヴォルが軽く首をかしげるとハグリッドはどうしたものかと頬をかいた。
「名前がちょっと紛らわしいんだが…あー…一度しか言わないぞ。名前を出すのも聞くのも恐ろしいんだ。その奴の名前は…ヴォルデモートといってな…闇の魔法使いだ。」
 名前を言った途端ぶるりと体を震わせるハグリッドはこの色の炎じゃ気分的に温まらんだろうと傘を取り出し、何度かつつくと赤い温かな色の炎へと変わった。
「あぁ、だから先ほどから言いにくそうだったのか。最初のスペルが全く同じなのか。」
 その様子に眉を上げるヴォルだが、何か引っかかるような気がしつつもヴォルの名前に似てるね、と不思議そうなハリーを見て心のうちで可愛いと呟く。
「まぁ消えたようで幸いだ。今こうしてハリーと触れあえるんだからな。」
「両親がそんな奴と戦っていたなんて…。でも…もし二人が守ってくれたことで今生きているなら…。あの日ヴォルを預けたヴォルの両親か親戚の人のおかげでさみしくない…。」
 再びハリーを背中から抱き締めるヴォルの言葉にハリーもヴォルと二人一緒でよかった、という。
「本当は誕生日前に封筒を贈るはずだったんだが…セルパンの杖についてあー…準備が間に合わなかったということで遅くなっちまった。明日、ホグワーツの入学に必要なものを買いそろえに行こう。今日はもう遅い。色々あってびっくりしただろうけど、ゆっくり休まなきゃならねぇ。おっと!こいつを忘れるところだった!」
 ごそごそとポケットを探るハグリッドは時計を取り出すとこんな時間だ!と声を上げ再びポケットを探る。
 引っ張り出したもみくちゃになった物体…生きた梟を取り出したハグリッドは何かを羊皮紙に書き、封筒にいれると梟にもたせ、嵐の外へと放り出した。


 頭が痛いというヴォルの頭を抱えるようにして眠りにおちたハリーはぼんやりと目を覚まし、なんてすごい夢を見たんだろう、と辺りを見回した。
 ふと、扉の前で横になっている大きな塊に目を瞬かせ、ハグリッドがいることを確認する。
ハリーにすがりつくように眠っていたヴォルの寝顔をのぞき見るハリーは顔色が戻っていることにほっと息を吐きつつ夢じゃなかったんだ、と心の中で呟いた。
 腕の中で身動ぐヴォルに目を落とすといつも先に起きるヴォルの貴重な寝ぼけた表情になんとなく優越感を覚え、くすくすと笑う。
 その声にすぐにしっかり覚醒したヴォルが少し不満げにハリーを見上げた。
「おはようヴォル。いっつも先に起きて掃除始めるからヴォルの寝顔、久々に見ちゃった。」
「頭痛かったせいでハリーの寝顔見れなかった…。俺の寝顔なんかみてたって面白くないだろ。」
 むすっとするヴォルはハリーの腕から抜け出すとハグリッドを振り返り、手に持ったままの杖を見つめる。
「夢じゃないのか…。」
 起き上がったハリーが見つめる中、杖を軽くふるうと鮮やかな緑色の火花が弾けるように飛び、天井付近で消える。
 
 
 目が覚めたハグリッドはポケットからいくつか食材を取り出すと、暖炉に火をともしそれを二人にも分ける。
 ハグリッドのコートと出されたものを不審なものを見るような目で見るヴォルは小さく鳴った腹に眉間にしわを寄せたまま口に入れ、手早く済ませた。
 外に出ると三人はロンドンへと電車を乗り継ぎ、魔法用品があるというダイアゴン横町に向かうこととなった。
「まずはハリーの杖を探さにゃならん。そのまえにグリンゴッツっちゅう銀行でお金をおろして…。」
「え?ぼっ僕たちお金…もってないよ。」
 歩きながら説明するハグリッドに足早についていく二人は顔を見合わせ不安げに尋ねる。
「あー…まぁ行きゃあわかる。」
 通りを歩きながらポケットのどこだったか、と探るハグリッドは一軒の店の前で立ち止まった。
「ここだここ。魔法使いとか、特別な地図を持ったマグルでねぇと入れないようになっている専用の入口だ。」
 漏れ鍋、と書かれている少しさびれたバーの様な扉を開き、中に入るハグリッドにハリーたちは顔を見合わせるとその広すぎる背を追いかけて中に足を踏み入れた。
「おぉ!はっはっハグリッリッドくんじゃっじゃないか。きっ君がマッマグルのほっほうからくっ来るのはめっ珍しいじゃないか。」
「クィレル教授。今日はダンブルドア校長の言いつけでな。今二人を案内しちょったんだ。」
 ハグリッドの巨体で見えないが、おどおどとした様子の声を出す男にハグリッドが大きな声で応じると、この二人、とわきによけハリーとヴォルを見せる。
クィレルと呼ばれたターバンを巻く見るからにひ弱な男はおどおどとしながら少年二人を見つめた。
「そっそのいっ稲妻のきっきずはもっもっもしかしてハッハリー=ポッポッター君じゃっじゃいかい。」
「はい…。えっと貴方は…。」
 せわしなく動く目に少し下がり気味のハリーはそっとヴォルの腕に手を置き、返事を返す。
「クィレル教授だ。ホグワーツで教鞭をとっちょる。えぇっと確か専門は…。」
「やっ闇の魔術にたったいするぼっ防衛術をっおしえている。よっよろしく。えっえっときっ君は…。」
「ヴォル=セルパンといいます。クィレル教授。」
 握手を求めるクィレルは手を伸ばし。ハリーと握手を交わす。
ふとその時初めて気がついたように隣にいるヴォルに目を向けると、ヴォルもまたいつもの優等生の顔をしながらにこりと挨拶をする。
 





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