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ダドリーの腕時計がそろそろ0時になるその瞬間、突然扉をたたく音が小屋に響き、素早くヴォルが起き上がるとハリーをその腕に抱きかかえ扉をじっと睨みつける。
飛び起きたのはダドリーも同じで敵襲だ!と叫びながらバーノン達のいる奥の部屋に逃げてしまった。
ヴォルは懐から何かを取り出すと力を使ってそれらを宙に浮かせる。もう一度力強く戸をたたく音がき、ついに扉が力尽きるように倒れ込んだ。
そこにいたのは見上げるほど大きな大男。
おおっといけねぇという大男は中に入ると扉をつけ直す。
さて、と振り向き自分に向かって釘が宙に浮いていることにおぉっと声を上げた。
そしてそれを浮かせているのが誰なのかをみるとびくりと肩を震わせた。
少し睨む時間が続くと、力を使ったせいか、疲れた様子のヴォルは青白い顔をさらに青くし、ふいにハリーにもたれかかる。
「ヴォっヴォル!?」
「なんか…頭痛くなってきた…。」
釘が落ち、ちょっと無理というヴォルはハリーの肩に顔をうずめるとそのままゆるく抱きつく。
「えぇっと…なんでしょうか。」
ハリーはとりあえず、ヴォルのこともきにはなるが、目の前の大男の事も気になる、と対処の順番を考える。
抱きついているヴォルはなんとなく機嫌がいいので、そのうち復帰できるから置いといたとして、この目の前の大男がなんなのかはっきりさせなきゃ、と判断を下した。
ハリーに抱きついたままのヴォルもそういえば、と振り返り大男を見上げる。
「おっ…おお!お前さんたちに手紙があってな。えぇっとどこにしまったか…」
動揺する大男は気を取りなおすように手をたたき、ポケットを探ると封筒を取り出し、ハリーに手渡した。
「ホグワーツ魔法学校入学案内…?」
「副校長ミネルバ・マクゴナガル…」
「「魔法!?」」
なにこれ、と顔を見合わせるハリーとヴォルはほぼ二人同時に食い入るように手紙を読んでいく。
「何か知らないけど、この手紙読んでたら嫌な予感と嫌悪感しかない。」
げんなりするヴォルは驚いてはいるものの、それ以上の何かがあるらしくうめいている。
「魔法って…やっぱりヴォルの力、魔法だったんだ!」
すごいね!というハリーにハリーだって力があるじゃないかと返す。
何とも言えない微妙な顔をする大男はヴォルの反応はともかく、ハリーの反応に驚き目を丸くした。
「かっ家宅侵入罪ですぞ!」
奥から飛んできたバーノンの声にいっせいに振り返ると何やらライフルを片手に叔父がたっていた。
「魔法って…僕たち魔法使いだったの黙ってたの!?」
振り返るなり声を上げるハリーにペチュニアはそっちは知らなかったけどもね、と言う。
「妹のリリーは同じように11歳の誕生日を迎えた頃に来た手紙を受け取ってその魔法学校とやらに行ったわ!休みになるとポケットにカエルの卵いっぱいにして帰ってきて…」
「えぇ!?」
ただ驚くしかないハリーにペチュニアとバーノンは口々に奇人だと言い放ち、お前が行くのはそんな学校じゃないと言う。
「ハリー!あんな頭のいかれた親から生まれたんだ。お前も当然そうだと思っていた!」
困惑するハリーだが、魔法の力を使うものは奇人だと、へんてこな奴らだというバーノンの言葉にはっと隣を振り向いた。
バーノンのまたハリーの隣にいる少年に目を向ける。
びきびきと音がなっているのではと錯覚するほど青筋が立っているものの、わずかに微笑みを口元にだけ浮かべるヴォルは赤い目をギラリと光らせながらまだ言い足りないのでは?と促した。
空気が夏場だというのに冷え始め、バーノン達三人は顔を青ざめる。
「僕の事はさておき。ハリーの事を…みょうちくりんだとか、頭がいかれているとか…。」
あぁ、そこなんだ、とハグリッドが思うところだが、部屋を満たすような憎悪に慌てて傘を取り出し、話題を変えるためこそこそとしているダドリーに向ける。
光がほとばしり、尻尾が生えるとバーノンらは悲鳴を上げ、奥の部屋へと引っ込んで行った。
「だっ大丈夫だよヴォル。それにしても…僕のパパとママも魔法使いだったんだね…。ペチュニア叔母さんは違うのかな?」
赤い目を光らせながら静かに怒っていたヴォルを宥めるハリーはペチュニア達が消えた奥を見つめながら呟いた。
「おい。そこのでかぶつ。ハリーの両親の事知っているのか?」
いつもの優等生のような顔をせず、ハリーの前以外ではめったに見せない本性を覗かせながら大男を睨むように見つめる。
「あーうん。直接会ったことはねぇんだが…ハリー…とえぇっと…。」
「ヴォル=セルパンだ。」
困ったように頭をかく大男は二人を見ると、ヴォルは名乗りお前はという。
「おれはルビウス=ハグリッド。ホグワーツで森の番人をしとる。えぇっと…どこまでしっちょる…?」
髭で顔が半分隠れているようなハグリッドが名乗るとどこかで聞いたきいたことのあるような、とヴォルは考えようとしてまぁいいかと頭を切り替えた。
「えぇっと…ヴォルと僕がまだ赤ん坊だった頃、ハロウィンの次の日にプリペッド通りの叔母さんちの前に置いてあった…までかな。」
「ハリーとは兄弟ではなく、俺は両親出身共に不明だが、置いてあった手紙からやむおえなく預かることになったまでだな。」
ハリーとヴォルの説明にハグリッドは顔を手で覆い、あーそうかそこかー、とうめく。
「何なんだいちいち!さっさと話せ!」
苛立つヴォルの眼が再び赤く光り始めるとハリーがすかさず落ち着いて、と声をかける。
これ以上苛立ってもしょうがないと判断するヴォルはハリーを後ろから抱き締めるとずきずきと痛む頭をハリーの肩にのせた。
「あー…。うん。まぁ…その…。少し前に、名前を出すのも恐ろしい魔法使いがいてな…。魔法が使えない人間…マグルや、マグルから生まれた魔法使いや魔女を標的に殺りくを繰り返していた奴がいた時代があってな…。何が起きたかは誰も知らん。だが、ハリー。おめぇさんの両親の家を襲撃し、二人をその…。」
「殺した…の?」
歯切れの悪いハグリッドの言葉からハリーが続きを呟くと慰めるようにヴォルが少し抱きしめる力を増やす。
「まぁ…。そうなんだ。その時、まだちぃさいハリーにも杖を向けたそうなんだが…何が起きたのか奴は…あ…あー…と…消えちまった。その額の稲妻のような傷はその時にできたっちゅう話だ。」
眼鏡の奥から瞳を震わせるハリーにハグリッドは頷くと、ちらりと頭が痛むらしいヴォルをうかがい見る。
「それで…おれが家に着いた時に…あー…ちょうど知り合いから預かっていたらしいおめぇさんとハリーを助けたっちゅうわけだ。」
ハグリッドの言葉を聞きながらハリーはときどき見る悪夢…緑の閃光と男性と女性の悲鳴のようなものを思い出し、まさかあれはと体を震わせた。
それにしても、とハリーは両親の事がわかり、少し安心するがヴォルの事が結局わからず小さくため息を吐いた。
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