9:未来から持ってきたもの

 ダンブルドアが来訪してきてから一か月。飛んで来た梟に書かれていた日時にさて、と考えるハロルドはトランクを開ける。あれからいったい何がトランクに入っているのか、あの秘密の書庫で確認を行って、ハロルドは呆れてため息をついた。

 中でもとびぬけて呆れたのはあのデルフィーニ事件の発端となったタイムターナーが出てきたことだ。肖像画のハーマイオニーはあー処分に困っていたのよね、と入れる前の記憶までしかないらしく、一人納得したようにうなずくだけだった。おかげでやりやすくはなったけどと笑い、探知不能拡張呪文のかかった袋に入れる。

 デルフィーニ事件以来、どうしてもホグワーツの授業で必要な生徒がいるからと最大半日だけ戻ることのできるタイムターナーが作られたがそれ以上は製造することはもちろん、所持することが禁止され、名称も変えられることとなった。
 マルフォイ家にあった最後の金色に輝くタイムターナーも魔法省の大臣であったハーマイオニーが預かり、破棄したものと言われていただけに、まさかのまさかだ。だがこれはこれでよかったかもしれない、とハリーは袋に入れたそれを見つめるように、袋を握り締めた。

 通常のタイムターナーは行ったきりだ。1時間前ならば1時間前に行ったまま戻ることはない。だが、あのレプリカとこのタイムターナーはそうではない。発動させた場所、時間に戻ることができる。

 そして本来ならば同じ時間の自分に会うことはタブーだが、ハリーには明確な目的があり、それは同じ時間に存在することが必要だった。そしてそれが終わったのちに未来から来た方は元の時間に戻ればリスクは最小限になる。
 
 今回の孤児院でも同じ時間に存在しつつ、無駄な時間を減らすことができる。夜中に使い朝に戻って用事を済ませ、そして夜に戻って休む。日中は昼寝でもして過ごせば問題はないだろう。タイムターナーを使う場に戻らなければならない、というリスキーなことをしないことがとても大事だ。

 そのほかにはロンはW・W・Wの製品で役に立つものなどをたくさん入れてくれた。変装用に使える道具やまだこの世界にはない仮病をするためのお菓子も入っていたことには思わず笑ってしまったほどだ。ネビルからは様々な魔法薬の材料である薬草を貴重なものから何までたくさん用意してくれた。
 結婚したハンナが漏れ鍋にいたこともあり、ダイアゴン横丁やノクターン横丁でのちょっと変わったものも入れてくれたらしい。それと、色々な噂や店の情報まで、住人でなければわからないような情報もきちんとまとめてくれた。

 ドラコからは例の資金袋の他に換金用の様々な備品と、17歳までの間にマルフォイ家先代……ルシウスが行っていた献金先や魔法省の派閥、経済の動きなどを書いた書類が用意されていた。さすがに3人に聞かせる話じゃないと判断し、例のトランクの中にドラコの肖像画を持ち込み、二人きりで話をした。

「いくら何でも私達が集めたあの金だけでは足りないだろう。そこで、資金を増やすための工作と、“仲良くなった”方が後々動きやすくなるだろう人物のリストを使った方が良い。それと、できる事ならばあのアンブリッジをどうにかしてほしい。あいつは本当に最悪だ」

 とにかく権力は役に立つ、というマルフォイらしい言葉にハロルドは笑い、わかっているさと頷いた。30後半に局長になってから半世紀ほど魔法省を見てきたハリーにとって、権力があるかないかで自分の動きやすさが大きく変わるのは実体験済みだ。シリウスが遺したブラック家という財産を相続したハリーはその遺産にすり寄ってくる連中も見てきた。闇払いの仕事で癒着が発覚した貴族も知っている。

 皆でこつこつと貯めてみたあの袋のお金はもしかしたら足りなくなる可能性もある。年齢的に稼ぐことができない以上、何としても増やさねばならない。
 だが、その手のものは苦手で、アルバスの一件以降飲みに行く仲になったドラコに呆れられながらレクチャーしてもらい、やっと覚えた程度だ。だからこそ、この指南書はとても役に立つ。

「考えているあの方法で未来を変えるのならば、マルフォイ家にも顔を売っておかなければならないだろう。あと、ファッジもだ。父上と母上の好みなども書いてある。何かあればそれを使って近づくといい。ハリー、君は止めたところで人の忠告を聞かないことはよくわかっているからこそいうのだが、闇に潜入するのであればこの2つのことは必ず行う事だ」

 あの3人には黙っておく、とドラコはこれでどうにかしてくれという。かつて話し合う中で、グリフィンドール組には話さなかった秘密の計画だ。
 ドラコからの贈り物を確認し、少し考えるハロルドはねぇドラコ、と顔をあげた。

「両面鏡を使うから、協力お願いしてもいいかな」
「あぁ、あれを使うのか。この記憶と絵具でしかない私にできる事ならいくらでも」
 書類を取り出して問いかけるハロルドにドラコはもちろん、と頷いた。闇に入る準備はできた。


 そのほかには絵画にかける布が入っていた。
「ハリー、私たちはこの通り休憩も何もいらないわ。だけれどもハリーは生身なの」
「きっと話したくない時間や、聞いてほしくないことだってあるだろう?」
「プライベートは大切だからね。僕らと何か話すとき以外はこれを僕らにかけて欲しいんだ」
 これはネビルがホグワーツで知り、そして手に入れておいてくれたものだった。肖像画の住人は寝ているときもあるがあれはあくまでも、記憶による行動であり、彼らが必要としているわけではないのだという。

 彼らはキャンバスに描かれた絵具と記憶。人と違うのだ。疲れるのも眠くなるのも、すべては“記憶によるまやかし”。ホグワーツだって寝室には絵はなかった。いくら友人の前とはいえ着替えとか少し気を使ってしまう。そんなハリーの為にと用意したらしい。

「この布を被せると肖像画は強制的に眠らされる。運ぶ際にどこかに行ってしまわないようとどめるためのものだな」
 個別に話すのにも使える、とドラコに言われて最後に見つけたハリーはじゃあ運ぶ必要なかったんじゃないか、とため息を零した。