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 ヘドウィグが戻ってきたのは二日後であった。
フクロウ小屋に行くというハーマイオニーとともに歩いていると、ヘドウィグが薔薇の花が傷まないよう旋回してハリーの腕へと降り立つ。誇らしげに鳴くヘドウィグにありがとうというと、その足に握られた薔薇を受け取った。風よけもかねて綺麗に梱包された薔薇の色を見てハリーはばっちりだと頷きメッセージを添える。飛んできたばかりだから少し休ませて、と考えるハリーの耳をかじるヘドウィグは数分後再び大空へと羽ばたいていった。

 それを見ていたハーマイオニーはよほどハリーの大切な人なのね、と笑いかける。ハーマイオニーは家族に送るのよ、とメッセージカードを小箱に添えて学校のフクロウにそれを託す。
「それにしても…深紅の薔薇っていうのかしら?ずいぶん色の濃いバラにしたのね」
 城に戻りながらハリーの送った薔薇を見ていたハーマイオニーは、ビロードのような光沢をもつ深紅の一輪の薔薇だったわねという。はにかむハリーはあの本をみてこれだと思ったと返す。

「もっと濃い、濃紅色にしたかったんだけどそうすると花言葉が変わるって書いてあったから……彼に似合うビロードの様な色をしたあの薔薇にしたんだ。本当は3本とか4本とか……11本とか……にしたかったけど、彼は飾ると思えないし呆れられると悲しいからせめて1本をと思って」
「一目ぼれね。いつかあなたがそれほど入れ込む相手がどんな人なのか見て見たいわ。」
 ハリーの恋人が極悪非道な男だとは露知らぬハーマイオニーの言葉に、本数の意味を思い返して顔を赤くしていたハリーは笑って、いつか紹介すると答えた。
「でも彼はバレンタイン、いい思い出がなかったみたいで……怖いなぁ」
 予測はしていたが、やはりトム=リドルは表向きは好青年だったせいか、彼の気を引こうと女子生徒同士の争いが起きていたらしく、危うく本性をさらすところだったとか。愛とはかけ離れた分、愛を囁くこの行事そのものを疎んでいる可能性さえある。

「あら?手ひどく振られたとかかしら?」
「逆。女子生徒から変なケーキが送られてきたとか、朝起きたら山ができていてうんざりだとかそっち方面」
 年上だとは知っているハーマイオニーにハリーは首を振ると、小さくため息を吐く。もしかしたら急にその話を出したのは、暗にいらないということだったのかもしれない。
 ヘドウィグなら危害を加えられないので安心だが、次に会う時が怖い。かっこいい彼を持つのも大変ね、と笑うハーマイオニーに全くだよと笑い返した。


 そして翌朝……バレンタイン当日。
 いつもと違って少しチョコが多めにならぶ大広間はどこからか薔薇の香りがして、ロックハートほどではないがダンブルドア自身が楽しんでいるのだなと、笑いあって席に着く。フクロウが飛び交い、バラの花束などを落としていくのを見ていたハリーはヘドウィグに気が付き、落とした荷物をキャッチした。
形的に花束ではないのは確実だが、なんだろうかと袋を開けると平たい箱と黒い薔薇がガラスドームに収めらえた置物が出てきた。花の数は4つ。

「うわ……黒い薔薇とか呪いなんじゃ……」
 横で見ていたロンはハリーの手にある置物に入った薔薇の色に驚き、それ呪いなんじゃないのかと繰り返す。
「4輪、黒……。ハリー、貴方の彼ものすごく独占欲強いんじゃないかしら?」
 同じように見ていたハーマイオニーは色と本数にもしかしてという。
「死ぬまで気持ちが変わらない、貴方はあくまで私のもの……愛されているのね、ハリー」
 見えるはずもない黒くまがまがしい執着のオーラが見えた気がして、ハーマイオニーは怖いくらいとつぶやく。メッセージカードはないが、まさか彼がこんなプレゼントをくれるとは思っていなかったハリーはよく彼が愛を囁くときに、ハリーの細い首元に手を置いているのを思い出し、ごくりと唾を飲み込んだ。お前の命は俺様のものだと、そういわれた気がして高揚感の様なものが身を包む。
  
「あれ?ハリー、もう一つ小箱があるけどそれは何だい?」
 蛇らしく執着心の強い彼の想いにどきどきと胸を高鳴らせるハリーに、ロンは平たい箱を示す。薔薇の衝撃で忘れていたと、テーブルに置き今度は平たい箱を開けるとそこには黒い紐の様なネックレスがおさめられていた。リングがぶら下がるネックレスを手に取ると意外と短い。
「チョーカー?」
 どうやってつけるんだろう、と首をひねるハリーはぶら下がるリングに違和感を覚えて顔を近づける。どうやらただのリングではなく、蛇が尾を噛んで丸まっているらしく彼らしいとほほ笑んだ。
 ロンは箱の中がネックレスだと分かると、何かを考える風だったが、頭に小箱が落ちてきてなんだよと開ける。入っていた一輪の薔薇のネクタイピンとハッピーバレンタインというメッセージカードにすごいやと大喜びして、こうかなとつけてみた。

「ねぇハリー。本当にその彼と仲良くしているのかしら?何かDV的なこととかされてない?」
 恐る恐るという風に小声で問いかけるハーマイオニーに、ハリーは目をしばたたかせた。意地悪には意地悪だが、付き合ってから命の危険を感じたことは……別に意味でなくはないが禁じられた魔法をかけられるようなことはない。ちょっと執着心が強いだけだというハリーを疑うように見つめるハーマイオニーは害がないのなら大丈夫かしら、とジニーにさっそくつけ方が変と言われて直されるロンを見る。
 
「今後ハリーにちょっかいを出す人が出ないように気をつけなきゃいけないわね……」
 つけてみようと苦闘するハリーを見かねて貸してと受け取るハーマイオニーはぼそりとつぶやいた。ネックレスはやはり短くて、支障はないがどこか締め付けているような感覚があり、再び彼の手を思い出す。苦しくはないが少し束縛されているあの感覚。それが心地よく感じてしまうのは、彼によって慣らされたのか、それとも彼の束縛が気持ちよく感じてしまう体質なのか。どちらでもいいかと、嬉しさで微笑むハリーをハーマイオニーもまた微笑ましく見つめる。

 ふと、99%ありえないとはおもうがまさかハリーの恋人って、と考えるハーマイオニーはいえまさか、そんなことはないわ、と頭に浮かんだ魔法界1危険な男の名を頭から消す。スリザリンの卒業生で、叫び屋敷で会うのが精いっぱいだというハリーの彼。
 ハリーを見えない鎖で何重にも囲い、逃さないよう繋ぎ止めているようなプレゼントに神聖なバレンタインのプレゼントのはずが、ロンの言う通り呪いの一式に見えて、ハーマイオニーは考え過ぎと再び首を振る。

 薔薇の置物を置いてから授業に行くよ、というハリーはサイドチェストにそれを置くと、チョーカーを外そうとして……あれ?と首を傾げる。ハーマイオニーに付けてもらった時は確かに感じた金属の冷たさがない。指で必死に探ってもどこにもつなぎ目がない。

「やられた……」
 彼のプレゼントということで危険はないと安心していたが、独占欲も支配欲も執着心も人一倍ある彼を忘れていたと苦笑する。これぐらいならば怒られないだろうことを祈って、ハリーは授業へと向かって行った。
 これでも彼が愛おしく感じられるのは、愛という名の呪いにかかったのかもしれないとハリーは次に会える日が待ちきれず、首元のリングに触れる。きっとこれは自分の薬指にぴったりなのだろうと、人生で一番幸せなバレンタインに思わず叫び出したいのを堪えて、傷を通して感謝の気持ちと愛しているという気持ちを送り込んだ。




 
~fin

 



ヴォル様の執着心ましましなバレンタインをと思いまして。
愛とは無縁過ぎてアクセサリーなどを贈るという知識から選んだ模様ですねー。

花言葉の中に呪いもあるのですが、受け取る側が相手の意図を分かっているので、ネガティブなほうの花言葉はさっくりスルーということで。
いやぁ愛されてますねぇ(白目

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