紙一重の愛

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 2月14日。それを迎えるには自他ともに認めるほど場違いにもほどがあると、眠っている恋人ハリーの頬を包むようになで、そっと口づけを落とす。
 薄い朝の陽ざしをカーテン越しに感じ、ヴォルデモートは目を細めた。煩わしい記憶しかないバレンタイン。当時も男から女へのプレゼントが主流だったはずだが、なぜか朝起きるとやれ薔薇だチョコレートだ、カードやらが大量に送られてきた。
 高学年になるころには愛の妙薬を入れているケーキが来たこともあり、さすがにそれは送り主に呪いをかけて一生消えない傷をその顔に刻み付けてやった。成人してからはあえて常連のもとに薔薇をもっていくなどして、好感度を上げて利用してきたが一度だって本気で贈ったことはない。
 それなのに今、この恋人には何かを渡してやりたいと思うのは奇妙なものだと、まだ起きないハリーに深く口づける。息苦しさと快感を覚えたのか、口内を蹂躙されながらハリーがうっすらと目を開け、覆いかぶさるヴォルデモートに気が付いて、細い腕を背にまわしてその感覚に酔いしれる。
「おはよう……」
 少しかすれた声で囁くハリーにヴォルデモートは水差しを呼び寄せ、直接口に含みそれを合わせた唇からハリーへと渡す。昨晩喘いでいたおかげで喉が渇いていたのか、素直に飲み込むハリーは甘えるようにすり寄り、自分よりも大きな体を抱きしめた。
 
「ハリー、聞きたいのだが。バレンタインにプレゼント交換をしたことがあるか?」
 温もりを分かりあう様に……主にヴォルデモートの低い体温にハリーの高い体温が奪われながら抱きしめ合うと、唐突にどうなのだと問いかけられる。もっとも縁遠いいヴォルデモートの口から出た単語にばれんたいん?と疑問符を浮かべるハリーはバレンタイン!とはっとして、じっと見つめるヴォルデモートを見つめ返した。

「あんまりもらったことはないかな……。2年生のころに……誰かのメッセージはもらったけど……いろいろあって台無しだったから。う~~ん。走ってきた子にいきなり手渡されたことあるけどカードも何も入ってなかったからルームメイトみんなで食べたけどあれは数に入るのかな」
 僕、そんなにもてないよ?と続けるハリーにヴォルデモートはそうかとだけ言う。
 
 そういえば誰か利用できそうなものはいないかという話の際、ダンスパーティーでも親友と座っているだけだったと、クラウチ.jrが言っていたはずだ。肉眼で初めて出会い、あの杖がつながったように互いの琴線に触れて絡みとって今に至る関係だ。
 そう思い返していたところでハリーはガバリと起き上がり、どうしたとヴォルデモートは黙って見つめる。ヴォルデモートをまたぐように乗り上げたハリーはヴォルこそ、と少しすねたような顔で問いかけた。

「ヴォルデモートこと、リドルはたくさん経験あるんでしょ。もらって嬉しかったものとか、教えてよ」
 一糸纏わぬハリーの行動にヴォルデモートは楽しそうに目を細め、知りたいか?と問い返す。もちろんと頷くハリーに満足してハリーの腰をつかむとへ?と驚いた様子のハリーを持ち上げ、自分の上に落とし込む。衝撃で背をそらすハリーを腰に当てた手だけで抑え、にたりと笑う。
「俺様から情報を聞き出したいのであろうハリー。自ら動いている間だけ話そう。さぁ、闇の帝王である俺様からうまく情報を聞き出すといい」


 寮に戻ったハリーは痛む腰を擦りながらホント最悪とあの後のことを思い出していた。聞きたいこともあって一生懸命頑張ったが、快感の波が強くてほとんど聞き取れず、先に達してしまった後はそれはそれは酷いお仕置を受け、最後はなされるがままだった。
 突然バレンタインなんていうからドキッとしたじゃないか、と用意したメッセージカードをちらりと見る。当日花束まで行かなくとも一輪渡したい。会うことはできないのはわかっているがヘドウィグにお願いしようとハーマイオニーから借りたカタログをみて注文書を書く。彼に送る薔薇はこれだと決めてあるが実物を見てみないことには安心できない。

 ハリーがフクロウ小屋にいこうとすると、丁度ヘドウィグが飛んできてハリーの肩にとまった。
ハリーの手にある注文書を見て早く早くとせかす様に羽を広げる。
「それじゃあ頼むよ」
 笑うハリーにヘドウィグは一声鳴くと大空に向かって羽ばたいていく。
それを見送ったハリーはハーマイオニーにカタログを返さなきゃと談話室へと戻っていった。
「ハーマイオニーありがとう。薔薇ってたくさん種類あるんだね。本数とかも細かく意味があってびっくりした」
「あら、どういたしまして。色も本数もいろいろな意味が込められているけれども、大事なのは何をお送りたいかだからそんなに気にすることじゃないわ。大体、相手が意味を知っているとは限らないもの」

 カタログを受け取り、役に立ててよかったわ、というハーマイオニーが笑うとハリーも確かにと笑う。赤いバラも愛の言葉も、バレンタインそのものが縁遠い彼のことだ。薔薇の色の意味も本数ももしかしたら知らないかもしれない。頭脳明晰で元首席の彼が知らないことを知っているかもしれない、と思うと楽しくなってくる。嬉しそうなハリーに課題に取り掛かっていたロンは顔を上げて、どうかしたのかと問う。
「なんでもない。ロン、魔法史のレポートどこまで進んだ?」
「まだまださ。それにしてもハリーがバレンタインか……。バレンタインなんてあのロックハートのでこりごりだ」
 何がいいんだかわからない、と首を振るロンにハリーはあーと声を出して羊皮紙を掴む。ちらりと目を動かすロンの視線の先ではカタログをラベンダーたちとともに見ているハーマイオニーがいて、そういえば彼女はロックハートにプレゼントをしていたな、と思い出して思わず笑う。
 
 それにしてもヴォルデモートから過去のバレンタインの話、ちゃんと聞けなかったな、とハリーはノートを見るふりしてぼんやりと思い返していた。なんとなく聞こえたのはあやしいケーキをルームメイトに食べさせ、愛の妙薬の作用で誰かを好きだというのを聞き出し、うるさいからアンチ薬を飲ませて黙らせた後、それを贈った人物に食べて薬にかかったふりをして近づき、顔に一生消えない呪いをかけたという彼らしいといえば彼らしいエピソードぐらいだ。

 昔も昔で本当にひどいことばかりしていると思い返すとあきれるが、一応ハリーの恋人であるとともに闇の帝王だと思い返して思わず苦笑する。杖が繋がったように交わるはずのない、触れあうことさえない何かが、運命のいたずらの様にバチリとぶつかってショートするようにありえないことが起きて今に至るのだ。世の中何が起きるかわからない、そう思うハリーは目の前の課題に取り掛かっていった。





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