パンドラの箱

--------------------------------------------

 その呼び出しは突然だった。
自宅で休んでいたハリーに闇払いの先輩から手紙が届いた。
内容は神秘部からで、どうにもできないための調査依頼だった。
ハリーは頼むと書かれた手紙にうれしくなって、すぐに支度をし神秘部へとむかう。

名実ともに英雄となったハリーは闇払いに入ったが、魔法界が混乱から立ち直るまでろくに闇払いの仕事ができず、英雄としてあちらこちらを駆けまわった。
 ひと段落したときには闇払い内のチーム編成はあらかた決まってしまって…研修とチーム分けと…出遅れてしまった。
 必死についていくハリーだったが、同期からは完全に遅れてしまったうえ、あの戦争に入っていたからと必要以上に実力を上に見られて…そして期待に応えきれず落ち込んだ。
 周りからも所詮はそんなものかといった視線を浴び、気落ちして顔色が悪いと休みを言われたのが2日前のことだった。
 悔しくて悔しくて、落ち込んでいた時に届いた手紙。
 まだ必要とされていることがうれしくて、恋人であるジニー宛の手紙を残して魔法省へとやって来た。

 神秘部に向かうと、実はと綺麗な箱を差し出してきた。
「この中に例のあの人に似たゴーストを封じたのですが…」
「その際に大事な物を持っていかれてしまって。」
「例のあの人を打倒したあなたにしかお願いができないんです。どうか、香炉を持ってきてくれませんか?」
「この中は…小さな惑星のようなものが広がっていて…お願いします。早く行かないと悪用されては…。」
 口々に事情を話す神秘部の職員にハリーは宝石箱のようなそれを見た。
ぱかりと開ければ確かに中は広そうに見える。
これを一人で探すのは大変だと、顔を上げると神秘部の人はハリーの手に袋を押し付けた。
「この中の時間は少し早いため、これをもっていってください。」
「俺たちも今やっているのが終わり次第すぐに合流するから、先に行っていて欲しいんだ。」
 袋を受け取るとどうやら拡張呪文がかけられているのか、中をのぞいても底が見えない。
手紙を送ってきた先輩がすぐに追いかけるという。
時間が無いというのに仕方がないとハリーは頷き、杖をしっかりもって箱の縁に手をかけた。

 引き込まれる感覚がし、眼を開けたハリーは外から見た光景と少し違うことに目を瞬かせた。
確かに緑があり、小川があり、木がある。
けれども、惑星と呼ぶにはあまりに貧そで、境と境には白い靄のようなものが満ちていた。
太陽だって見当たらない。
包む霧のような靄の様なものがものがどうやら発光しているらしいと辺りを見回した。
 白い床にぽつんと置いてある香炉を見つけ、何か変だと慌てて空を見上げた。

 空は白い靄でおおわれて何も見えない。

「見つけたよ!早く出して!!」
 声を張り上げるも自分の声が響くだけで何も起きない。
いよいよ怪しいと焦るハリーは呪文を唱えて…何も起きないことにがくぜんとした。
「どうやら閉じ込められたことに気が付いたようだな。ハリー=ポッター。」
 冷たい声が聞こえ、ハリーは慌てて振り向いた。
靄の中から現れたのは白い肌の男…ヴォルデモートであった。
「なんで死んだはずじゃ…。」
「その香炉には幽霊を強制的に実体化させ、縛り付ける事ができる力がある。」
 目の前に立つ闇の帝王にハリーは一歩下がる。
「お前はもうここから出ることは叶わない。」
「嘘だ!なんでこんな…出して!」
 ヴォルデモートは愉快そうに眼を細め、生前と同じ姿でただ立っている。
同じように呪文がつかえなければいいが、そもそもあの戦争自体沢山の奇跡が繋がってようやく勝利を勝ち得たようなものだ。
一対一で勝てる自信などない。
「無駄だ。ここはパンドラの箱と呼ばれる世界。蓋は外部からしか開かず、封をしてしまえば再び開くこともままならなくなる呪いの代物だ。」
 一歩近づくヴォルデモートに、ハリーは下がると信じられないと目を見張った。
もう少し待てば応援が…。
でも香炉はすぐに見つかった。
危険なのはこの目の前の男だけで、そのほかは影も、気配も何もない。
「俺様はもともと死の呪文を受け、ゴーストよりも力のない状態でさまよっていた。あの晩肉体を得たがそれも再び失ってしまった。だが俺様にはまだ信者に取り付き、その命を操ることができる。どうにか封印したいという魔法省に取引を持ち掛けたのだ。」
 黒いローブをなびかせ、また一歩踏み出すヴォルデモートにハリーは小さく首を振った。
 その続きを聞きたくない。
無意識に香炉を振り上げ、それを地面にたたきつけた。
中から煙がこぼれると香炉は割れ、にやりと笑うヴォルデモートもまた実体を失い消える。





 ≫next
戻る