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「ハリー?」
 しゃがれた声で問いかけるヴォルデモートはぼんやりと目を開け、ゆっくりと体を起こした。
「だっだめだよ、ちゃんと寝てなきゃ。体調不良で寝込んでいるって聞いたから心配で…。冬休み利用してきちゃった。」
 慌てて抑えようとするハリーは迷惑だった?と首をかしげた。
首を横に振るヴォルデモートは赤い目でまじまじとハリーを見つめ、握ったハリーの腕を引く。
強く引かれたことで思わずベッドに倒れ込むハリーを至近距離で見つめ、額に口づけるとハリーと囁いた。
「夢じゃないよ。まったく、ヴォルがいくら寝ているの見られるの嫌だって言ってもちゃんと看病ぐらいしないと。常時いる人だっているのに。」
 死喰い人は気が利かないんだから、とぶつぶつと文句を言うハリーにヴォルデモートはめったにないことだからな、という。
 倒れ込んだハリーを抱きかかえ、ため息のような息を吐くとその細い肩に顔をうずめる。
今まで見せたことのないヴォルデモートのスキンシップに驚くハリーだが、服越しに感じられる、いつもの体温とは違う温度に水貰ってくるね、といい腕からすりぬけた。
 むすっとするヴォルデモートに待ってて、というと廊下に顔を出した。
 誰の気配も感じられず、どうしようかと考えるハリーだが、ぽん、と軽い音共に屋敷しもべ妖精が現れ、何かご用でしょうかという。
「水差しと…氷水の張ったボウルと布、お願いできるかな。あ、あとヴォル…えっと…。」
 看病用にと頼むハリーはいつものように名前で呼びかけ、体をこわばらせたしもべ妖精に慌てて死喰い人はいつもなんて呼んでたっけと考えながら彼の事をなんて呼べば、と思案する。
「あぁ、ごめんごめん。あー…えーっと…その…ごっご主人さま…の…着替えとかぬれタオルとか…もお願い。」
 思い出した呼び名にハリーは言い慣れない、彼の呼び名をいうと耳まで真っ赤になり、持ってきてという。
「かしこまりました。あの…御着替えは部屋にありますので、その…」
「あ、そっか。うんわかった。じゃあそのほかのをお願い。」
 着替えはあるはず、というしもべ妖精にまだ顔を赤らめたままのハリーは慌てて他の物をお願いすると、扉を閉めた。

 くつくつと笑う声が聞こえ、ハリーは横になっている人物を振り向く。
「笑わないでよ!だっだって…我が君とか…ご主人さまとか…呼び慣れないから…。」
 死喰い人もどうしてこんな恥ずかしい呼び方するのさ、と口をとがらせ扉の外からご用意しました、という声を聞き再び扉を開いた。
 手で受け取ろうとして水の入った水差しとボウルが宙に浮き、驚いて布を落としそうになりそれすら浮くことにハッと後ろを振り向いた。
「魔法使いだろうが。」
 聞こえた声にしもべ妖精は怯えた声を出し姿を消す。
 そっそれぐらい、と言いかけて一個ずつは運べるけど一度に複数をと考え、口をつぐむ。
 そのままベッドサイドに運ばれ、ガチャンと音を立てて降ろされる。
「病人は寝てて!それに僕未成年だから使ったらだめだよ!」
 もう、というハリーは布を水にぬらし絞るとヴォルデモートの額に乗せる。
「死喰い人らが呼ぶ時は何も感じなかったが…ハリー。俺様を見てもう一度呼んではくれないか?」
 汗をぬぐうハリーの手を握り、引き寄せると覗きこむハリーに面と向かってという。
 顔を真っ赤にするハリーだが、楽しげなヴォルデモートの顔に一回だけだよ、という。
「ご主人様…。」
 風邪ひいて弱ってなきゃ絶対言うもんかと内心呟くハリーにヴォルデモートは満足げに笑い、その手を離す。


 もう、というハリーはヘドウィグの鳴き声にそうだ、とハーマイオニーから届いた小包を開いた。
「ヴォル、薬飲んでないんじゃないかなと思って…。本当は魔法薬の方がいいんだけど…ヴォルはこっちの方がなじみあるかなと思って。あ、いやだったら言ってね。」
 家にストックがあったからこれでよければ、とハーマイオニーの手紙と共に出てきた小箱を開けるハリーにヴォルデモートは何だと目を向けた。
「あぁ、マグルの風邪薬か。それでいい。大丈夫だ。」
 パッケージからマグル製品の薬であることを認識したヴォルデモートはそれでいいという。
「よかった。あ、でも何か食べてからじゃないとだめだよね。まってて、頼んでくる。」
 よかったというハリーはそうだと立ち上がると扉へと向かった。
「ハリー。」
 ハリーがヴォルデモートの視界から消えると、短く呼ばれ、ここにいるよと声をかける。
 扉から顔だけ出すと、どうやら扉の開閉で来るように言われていたらしいしもべ妖精がすぐさま現れ、何かご用でしょうかと言う。
「消化のいい食事をお願いできるかな。あと何か…果物もお願い。」
 かしこまりました、と消えるのを確認するとすぐには持ってこれないだろうな、と扉を閉めると、ヴォルデモートのそばへと戻った。




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