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念のためマダムに睡眠薬を貰ったのだが、流石に効き目は薄いようだ。
3日続けてみたものの全く効果はない。
だが、薬をやめたその日見た夢は場面が全く違っていた。
見覚えのある部屋…。叫び屋敷だ。そしてわずかに見える夕日…。
まるで血のような色だとばかり思いながらすぐさま違うことへ意識を持っていかれる。

目が覚めたハリーはまさか…と言う思いに駆られ、心臓がうるさいほどに鳴り響いた。
今度の土曜日はホグズミードに行ける日…。
だが、夕日の時間には帰らなくてはいけない。
ならば進むべき道は唯一つ。
これは何かの偶然か罠か…一瞬そう考えるが、次にわきあがった想いは敵視したものではなかった。
 
 会えるかもしれない…。
もしかしたら今度こそ本物に…。

 甘い感情がハリーの身体一杯に広がる。その思いを胸に、眠ろうと…確かめようと眠ったが、今度ばかりは夢を観ることはなかった。

 土曜日
今日は約束があるからと2人を見送ったハリーは、すぐさま透明マントをかぶり暴れ柳の元へと駆けて行った。
夕日の時間までには明らかに早い時間。
それでも早る気持ちを抑えきれず、長い棒でこぶに触れ、中の穴へと滑り込んだ。
「うそっ…。」
 中の寝室に当たる部屋に入ったハリーは目を疑った。
窓と言う窓は閉め切ってあるが以前のように乱暴に打ち付けられた板ではない。
それに明かり取りの窓があり、そのほかにも開ける事のできる窓がいくつかあった。
おそらく魔法がかけられ、外からは見えないよう工夫が凝らしてあるのだろうが。
ベッドも綺麗にされ、ソファーが新たに追加されている。
机も置かれ、普通に生活できそうな部屋へと変わっていた。

そして…元々シャワー室が付いていたのか否かは知れないが、奥に通じる扉がある。
先ほどからそのシャワー室を使う音が聞こえていたため、誰かいることは確かだ。
恐る恐る…誘われるようにその音の出所の方へと足を進めた。
ふと脳裏をよぎるのはこの部屋の夢を見たときに…同じようにシャワーの音がはじめに聞こえていた事…。
そしてそれがやんだ後…。

キュッと蛇口を閉める音が聞こえ、数秒も経たないうちに扉が開く。
魔法で修復したらしいその扉もやはり耳障りな音を立て、中から今現在のこの部屋の主である男が姿を現した。
長身の男…。深い…スリザリンの緑を強調したような色の…水が滴となって滴り落ちる長髪。
はじめてあったときはまるで骸骨のようだと思った身体は、夢に出てきた時と同じように痩せているもののハリーよりはしっかりとした身体となって今、目の前にある。
真紅の…血の色のような目は見上げているハリーの双眼を視線で絡めとり、動く事を許さない。
その目にハリーはぞくりと感じる何かが背筋を這い登った。
「ヴォルデモート…。」
「予定通りだな…ハリー・ポッター。」
まるで蛇が獲物を捕らえる間際のように目を細め、薄く笑う。
「全くもって…傷を通しての意思伝通とは…またいいことを知った。俺様が思い浮かべた想像にも…俺様が想い描いた夢にでさえ貴様は夢としてみる事ができる…。」
「それじゃあ最近のも!?」
「あぁ。そうだとも。俺様が徐々に加えていった想像だ。それにしても…夢を見た後の貴様の反応は実に嬉しい結果ばかりだ。知らなかったか?貴様の感情でさえ俺様は手に取るように分かるのだ。」
 貴様が俺様の感情を知るよりも深くな。そう屈みこんだ耳元でささやかれ、ハリーは顔を真っ赤にした。
 傷の痛みは不思議な事にない。あるのは今にも口から飛び出そうな自分の心臓の音。
その様子に満足なのかヴォルデモートは喉の奥でクツクツと笑い、ハリーの正面に顔を向ける。

「さて…夢を現実に変える時間だ…ハリー。」




~fin





2020:ほんのり修正。
傷を通しての共鳴ではっとなってかきかき。
当サイトでは珍しい、二人のなれそめです。
叫び屋敷ってこの二人には必須な密会場所だと思っている次第です。

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