--------------------------------------------
頭に浮かぶのは先ほどまで互いに想いを確かめあっていた…世間では最悪で非道極まりない男で…それでもハリーにとっては最愛の人の背中。
どうしようと、助けてと、思い浮かんだ背中に向かって心の中で助けを求める。
「ハリー、そういうことじゃ。セブルスが潜入するよりも先に大蛇が中に入ったそうじゃが…。」
視界がぐらぐらと揺れて色が消えていく。助けてと更に強く願う。
そこにバタバタという足音が聞こえて、扉が荒々しく開くと、走ってきたのか息を切らしたシリウスとルーピンが部屋へと入ってきた。
「いったい…先ほどの連絡は…。」
「どういうことだ!!なんで…。」
顔色を失ったハリーのすがるような視線と、ダンブルドアの鋭い目にシリウスは全てを理解したのか、絶望に顔をゆがめる。
とっさにリーマスが抑えると同時にシリウスは顔を怒りに染め、ハリーの向かって一歩踏み出した。
放してくれともがくシリウスはハリーと声を荒げる。
「ハリー!わかっているのか!あいつは…ヴォルデモートはジェームズやリリーを…両親を殺した張本人なんだぞ!!!」
怒鳴り上げるシリウスにハリーは脅えたように首をすくめる。もうまともに誰の視線も受け止めることができない。
「ハリー、わかってるよね。これが許されないことだって。」
リーマスの静かな声にどれだけ彼が怒り…そして失望しているのかが感じ取れて絶望に胸が押しつぶされそうになる。
わかっている。
わかっていて…想いを止めることができなくなった。
それに言うならば自分は彼を魂だけの存在にし、そのおぼろげな魂だった彼から命の水を奪い…彼からは憎まれて当然の存在だ。
お互いに相反するものだということは自覚しているし、忘れてはいない。
それでも…互いに意識してしまった。魅かれてしまった。どうなってしまうのか…隔離されるのかそれとも記憶を消されるのか…。
少なくとももう彼に会うことはできない。
ヴォル、と心の中で呼ぶハリーはズキンとひたいの傷跡が痛み始め、思わず顔をしかめて額を抑える。
愛しい人となったヴォルデモートのそばにいる間は全く痛まなかった傷が痛み始めてこんな痛みだったと思いだすハリーは意識が途切れそうになり、思わず絶叫する。
ハリーは傷跡が割れたんじゃないかと思うほどの痛みとともに怒り狂う大蛇が自分を取り巻くように巻きついているイメージがして…ほっとしてその大蛇を抱きしめる。
「待つんじゃハリー!!」
ダンブルドアの声が聞こえた気がして、自分の腕が勝手に動いた様な気がして…ハリーは意識を手放した。
目が覚めたハリーは自分を抱きかかえる人物に目を向けて思わずその首にすがりついた。
浮遊魔法を使ってハリーを抱きあげているらしいヴォルデモートはすがりつく恋人を抱きしめ返す。
ふとここはどこだろうと首を巡らせると、ホグワーツが見えるホグズミードの丘だった。
どうして自分がここにいてヴォルデモートが自分を抱きしめてるのか…。疑問は色々あるけども、とにかく今は会えたことが嬉しい。
「もう会えないかと思った…。」
よかったと下ろしてもらうと、じっと自分を見るヴォルデモートの目を見つめる。
「もう心配はいらない。」
大丈夫だと、額に口づけるヴォルデモートはどうするとハリーに問いかける。
首をかしげるハリーを優しく抱きしめて耳元に囁く。
「このまま俺様とくればこの日のあたる世界にはもう戻れない。それとも、俺様との関係をここで終わらせるか…あるいはここで永久なる眠りにつくか…」
選ぶがいい、と耳朶に口づけるヴォルデモートにハリーの体が震える。
「もちろん、ここで眠りについたとしてもこの体は永遠に俺様のそばに今のまま保管してやろう。」
決して手放さない、とささやく声にハリーはヴォルらしいと笑ってハリーは自分から軽く口づけた。
それは言葉では足りないほどの思いを込めた肯定の意味。
「もちろん。ロンやハーマイオニー達と別れるのも…ホグワールを離れるのも寂しいけど、ヴォルとこのまま永遠に会えなくなるのはもっと悲しい。ヴォルと一緒ならどこまでもいくよ。」
だから離さないで、と長い指に自分の指を絡めてそのまま胸に抱きこむ。
呼び寄せ呪文を唱える声が聞こえ、振り向くと城のほうからは煙が立ち上っているのがみえた。
「少々派手にやってしまったが…安心しろ。あの場にいたお前の友人には手を出していない。」
飛んできたのはハリーの荷物。渡されて驚くハリーはヴォルデモートの言葉にあ、と気を失う前のことを思い出す。自分を気にかけて…そして悲しませてしまった大切な友人たち。
彼を愛してしまったとき、覚悟していたはずだと抱きしめるヴォルに身をゆだねる。
「ともに果てまで落ちよう、ハリー。どこまでも俺様についてこい。決して離さない。」
「僕の手を絶対に離さないで。ヴォルとならどこまでもついていくよ。」
もとよりこの男を愛した時点でハリーは闇の陣営だ。
月明かりの乏しい三日月に雲がかかり、地上が闇に覆われる中、真っ黒なローブに包まれ、光の英雄は闇の帝王と一つの影となると、月が再び地上を照らしたときには姿を消していた。
闇に焦がれ、闇を受け入れてしまった光の英雄は光こそ失わないものの、闇を照らし闇に包まれ、闇とどこまでも一緒に…。
光の英雄は姿を消した三日月の夜を最後にその消息を絶った。
~fin
|